26「自棄酒を飲みたい日もあります」③
お酒は入っていたが、少しの照れもあったのだろう。
サムのお酒を飲むペースは少し早くなった。
目の前で、ゾーイがかぱかぱお酒を飲んでいるせいでつられてしまったということもある。
カリアンも心なしか顔が赤い。
「蒸留酒をこうして飲める様になるとはいいことですね」
「おじいちゃん? あまり飲まなかったの?」
「蒸留酒を作る原料は穀物ですからね。お酒を作るよりも、子供たちに食べさせることが優先されていました」
「あ、そうだったね。ごめん」
「謝罪はいりませんよ。国が悪かっただけですから。ただ、良くも悪くも酒は好まれていました。商人などは国外から酒を持ち込み、こっそり作ってもいましたからね。私は枢機卿という立場でしたから、よくいただいていましたよ。冬の寒い日には、温めたミルクに数的垂らして子供たちと飲んでいました」
神聖ディザイア国での日々は貧しい日々だったカリアンだが、決して不幸とは言わない。
愛する人と出会い、娘たちが生まれ、友がいて、守るべき子供たちがいた。
現在、神聖ディザイア国は半壊している。
カリアンとモンド、メイ・リー・リーという良識のある人間がスカイ王国に亡命したことをきっかけに、他の枢機卿たちがやりたい放題になった。
教皇アルフレッド・ポーンもいないため、止める者もいない。
とどめばかりに、友也とカルミナの転移を利用し、孤児院の子供たちを、国内の子供たち、虐げられていた人々、マクナマラを慕う騎士たち兵士たち、他にも神聖ディザイア国に見切りをつけた者をスカイ王国に連れてきてしまったのだ。
現在の神聖ディザイア国には、性根の腐った人間たちが、お互いに潰しあっている蠱毒のような状態になっている。だが、蠱毒と違い、誰も生き残らないだろう。ゆるりと時間をかけて滅亡し、いずれは神聖ディザイア国のことなどみんな忘れてしまうはずだ。
「子供たちは元気なのか?」
「はい。おかげさまで王都の孤児院で受け入れてもらった子たちも、女神エヴァンジェリン様のもとで見習いとして生活する子も、他の領地に住まいを移した子供たちもいますが、元気でやっています」
神聖ディザイア国はあまり子供がいなかったこともあり、スカイ王国での受け入れは簡単だった。
ただ、全員を王都に受け入れることはできなかったので、イグナーツ公爵家、ジュラ公爵家、グレン侯爵家、ウォーカー伯爵家が持つ領地で受けいれられた子たちもいる。
中には、子供に恵まれない夫婦や、後継を欲している人間の養子になった子もいる。無論、人柄に関しては念入りに調査をしたので問題はない。
例外なくみんな幸せに過ごしている。
「だからこそ、未来ある子供たちのために私は命を賭して神々と戦いましょう。もちろん、シャルロッテをはじめとしたサムの孫たちの未来のためにも、です」
それに、とカリアンは珍しく感情を表に出した。
「神がいるというのなら、一度殴り飛ばしてみたかったのでちょうどいいと思っています」
カリアンがグラスを掲げる。
サムとゾーイもグラスを掲げた。
「子供たちの未来に」
「うむ。子供たちの未来に」
「可愛い子供たちの未来に」
未来を守ることを決意したサムたちはウイスキーを飲み干した。
その後、他愛ない話をして酒が進んでいった。
シャルロッテの一件で自棄酒をしようとしたサムだったが、思いの他楽しい時間を過ごせたので、傷ついた心が癒されたのだった。




