24「自棄酒を飲みたい日もあります」①
「……なんか今日は疲れた。体力的にじゃなくて、心が疲れちゃった。お酒飲もう。今日の辛いことはお酒飲んで忘れよう」
思い返すと、忙しい一日だった。
まさか会議中に世界の意思が干渉してくるとは思わなかったのだ。
逆に言えば、今まで人には関わらない世界の意思が関わらなければいけないほど、世界は危ういのかもしれない。
ウルとリーゼと三人で夜の鍛錬をしたサムは、汗を流すもすっきりせず、もやもやした心に酒という名の薬を与えようとしていた。
前世では、疲れて眠れない日や、心がささくれた日にビールを何本も飲んだことがある。
転生しても辛い時に酒に頼るのはいかがなものかと思うが、時には飲まなければやっていられない日もあるのだ。
「おーい、おじいちゃーん!」
「やあ、サム。鍛錬を終えたようですね」
ウォーカー伯爵家の書庫から出てきたカリアンを見つけると、サムは手を振って声をかけた。
「本?」
「ええ。読書が好きなのですが、貧乏だったので同じ本を繰り返して読んでいましたが、スカイ王国に来てから新しい本と出会えて嬉しく思っています。子供の絵本もたくさんあって、こちらに避難した子供たちも喜んでいますよ」
「そっか。これから読書か……邪魔するのは悪いね」
「どうしましたか?」
「えっと、一緒に飲もうかなーって」
「ぜひとも」
「いいの?」
「可愛い孫に誘われて嬉しくないおじいちゃんはいませんよ」
微笑んだカリアンはとても優しい顔をしていた。
どことなく、母や伯母の顔に笑みを浮かべた時の眉の動きが似ていると思った。
「じゃあ飲もうか! えっと、ワインとウイスキーだったらどっちがいい?」
「ウイスキーをいただきます」
「もちろん!」
サムはワインよりも蒸留酒全般が好きだ。
つまみはなくていい。
少し多めに口に含んで、口内に味を行き渡らせるのが好ましい。
贅沢ではなるが、舐めるように飲むのは得意ではない。少々量を飲み過ぎてしまうこともあるが、今日はいいだろう。
「領地から送ってもらったウイスキーが何本かあるんだよ。ぜひおじいちゃんにも味見して欲しかったからよかった。じゃあ、部屋に行こうか」
「――ええ、ごちそうになります」
サムの足取りは心なしか軽かった。
家族とお酒を飲む。
このちょっとした時間が大切で愛おしいのだ。
(……そういえば、シャルロッテたちの名前をつけたウイスキーやジンを出そうって話が出ているんだけど、どうなるんだろうか? そもそも定期的に蒸留所を襲撃している飲兵衛どもたちから原酒を守り切れるのだろうか?)
■
「――待っていたぞ! サム!」
「ゾーイさん?」
「私がまだ嗅いだことのない酒の匂いがしたので飲みに来た!」
「嘘ぉ! 幼女の嗅覚すごい!」
「幼女って言うな!」
部屋に戻ると、マイグラスを手に持ち待っていたゾーイ・ストックウェルがいた。
彼女は会議のあと、屋敷にもどっていなかったのだが、いつの間に戻ってきていたのか。
「カリアンも一緒か。今宵は三人で飲もうではないか!」
「ははは、サムの婚約者と一緒に飲めるなんて嬉しいです」
「う、うむ! 私も未来の義理の祖父と一緒に飲めることを光栄に思うぞ!」
婚約者、と言われて頬を赤くしたゾーイだったが、サムとしては見つからないようにアイテムボックスに隠しておいたお酒の匂いをどうやって嗅ぎつけたのか不思議でならなかった。




