20「ついにこの時がきてしまいました」②
「え? 普通に嫌!」
「なじぇ!?」
「……子供たちに変態が移る」
「はっはっは、ラッキースケベ大魔王くんがすでにるじゃないか!」
「ラッキースケベ大魔王と真性の変態は違うだろ……いや、同じか」
「同列に扱わないでくださいっ!」
友也としては、ラッキースケベはさておき変態ではないと強く抗議したいようだ。
あまり変わりがないと思うのはきっと気のせいではないはずだ。
「サム、人間は何かしら己の中に変態を飼っているんだよ」
「言い聞かせるように言われてもなぁ」
そんなことを言いながらも、ギュンターが屋敷の中に入ってきていることに関しては何も言わない。
なんだかんだとサムとギュンターのこんなやりとりはお約束になりつつあるのだ。
「……じゃあ、おじいちゃんも何かしらの性癖を」
「ははは、私はもう歳ですから。そういうことはちょっとわかりませんね」
やんわりカリアンは大人の対応を見せるが、彼に懸想するメイ・リー・リーならば祖父の趣味嗜好を知っている可能性もある。
無論、好き好んで祖父の性癖の趣味嗜好を知りたいとは思わない。
「――サム、お帰りなさい。まあまあ、カリアン様も。よくぞおいでくださいました。お久しぶりですね」
屋敷の奥から出てきたのは、シャルロッテを抱いたリーゼだった。
出産によって体力を失い痩せてしまったリーゼだが、一ヶ月も経てばすっかり元気になった。
ただ筋肉は落ちてしまったようで、毎日朝晩欠かさず剣の素振りをしている。
「これはリーゼ殿。お邪魔しています。すっかりお元気そうで何よりです」
「おかげさまで。ほら、シャルロッテ。カリアンおじいちゃんですよ」
「あぶっ」
「こんばんは、シャルロッテ。ふふふ、可愛らしい。目元がサムにもリーゼ殿にも似ていますね。将来は美人になるでしょう」
「あら、カリアン様ったらお上手ですこと」
「ふふふ、本心ですよ」
すっかり母親の優しい顔をするようになったリーゼと、最近はものが見えるようになってきちんと誰が誰だか認識しているシャルルロッテ。
シャルロッテはリーゼが一番好きだが、その次にサム、そしてなんとボーウッドだった。
やはり獅子族の立派な毛並みは子供を惹きつける魅力があるのだろう。
他の子供たちからもボーウッドは大人気であり、同じく獣人の魔王ロボ・ノースランドが嫉妬していたりする。
とはいえ、シャルロッテはみんなが大好きだ。
ラッキースケベの心配があるからと遠くで見守っている友也を見つけて自分から近寄って「あやして!」と言わんばかりに催促するのだから、シャルロッテは将来大物になるだろう。
友也も今のところやらかすことはなく、デレデレだった。
定期的に貢物の如く何かを買ってきている。
「やあやあ、リーゼ。ご機嫌いかがかな! クリーママがお世話になっているね」
「久しぶりね、ギュンター。あなたのことだからてっきり子供が産まれてすぐに顔を出して大暴れすると思っていたのに、ようやく顔を出したのね」
「ふっ、子育てが忙しいから邪魔をするなと両親にこれでもかと言われてね。ようやく僕の麗しのサムのベイビーに会えると思うと、わくわくして今日の会議は何も聞こえてこなかったよ!」
「そこはちゃんと聞きなさいよ」
リーゼにとってギュンターは歳の離れた兄のような存在だ。
口にはしないが、兄として慕ってはいる。
サムも、ギュンターの変態性と鬱陶しさはとにかく、家族であると思っている。
「サム、リーゼ、その、なんだい。君たちの天使を抱っこさせてもらっても構わないかな?」
珍しくギュンターが伺うように尋ねてきたので、サムとリーゼは顔を見合わせた。
そして、笑った。
「なにを改まって、あなたも家族なんだから抱っこしてあげて」
「……そういうこと。ただし、変なことはするなよ」
「――ありがとう!」
躊躇いがちに尋ねてきたギュンターが何を思ったのかわからないが、リーゼは笑顔で、サムは素直ではないが、シャルロッテをギュンターに託した。
破顔してこれでもかと良い笑顔を浮かべたギュンターは、そっと抱き上げたシャルロッテに挨拶をした。
「やあ、かわいいシャルロッテくん。ギュンターおじさんだよ」
「―――――ぴゃうっ!」
ぶるり、と身体を震わせたシャルロッテは盛大におもらしをした。




