14「ヴァルレインから連絡です」
マニオン・ラインバッハは、活動拠点にしているリーディル子爵と冒険者ギルド長に正体がバレてしまったが、今後も冒険者として活動する許可をもらった。
ただし、今後は子爵家への寄付はいらないとはっきり言われてしまった。
これはマニオン・ラインバッハからの金などいらない、というわけではなく、もう十分すぎるほどもらったから、という理由からだった。
領地で強奪、殺人を犯してしまった犯罪者は何もマニオンだけではない。
今も、盗賊や貴族を一方的に悪として盗みを働く自称義賊もいる。そういう人間が捕まったところで償いらしい償いなどない。ほとんどが死罪、もしくは捕縛できず殺してしまうという形になることが多かった。
対して、マニオンは亡くなった上で、大金を寄付している。
他にも犠牲者の遺族に、そしてその遺族に「やっかみ」が向かないように、近隣に住まう人間にも「援助」として金を渡していた。そして、孤児院に、病人に、怪我人にも。
今まで寄付してきた金額を考えると、十分に罪を償ったと言えるだけの額になっているだろう。
大きな過ちを犯したからとはいえ、永遠に金を支払わなければいけないわけではないのだ。
だが、マニオンとしては、自分の犯した罪から時間がそう経っていないせいもあり、今も苦しみながら前に進もうとする人々を見ると、何かしなくてはと思ってしまう。
リーディル子爵もマニオンに感謝をしたが「赦す」とは言っていない。
マニオンは、生き返った後に長い時間を過ごしている。
たくさんの逆恨みもしたし、たくさんの反省もした。
その上で、今のマニオン・ラインバッハがいる。
マニオンにとってこの世界にあまり執着はない。
しかし、愛情と闘いの女神ヴァルレインが欲している以上、この世界を、国を、人々を大事にしようと決めている。
『――マニオン、聞こえるか?』
「――ヴァルレイン様?」
森の中で小休憩していたマニオンに、ヴァルレインの声が響いた。
この場にいないとわかっていながら、マニオンは片膝をつく。
『よせ、マニオン。楽にするとよい』
「ありがとうございます」
ヴァルレインの気遣いに、マニオンは立ち上がる。
「しかし、どうやってお声を届けているのですか?」
『私とお前は繋がりがある。その繋がりは世界ですら阻むことはできないのだ』
「……なるほど」
『ただし、会話をするには少々面倒だ。手短にする』
「はっ」
『――神々がそちらの世界に向かった』
「――っ、ついにその時が」
『だが、お前は何もするな。動くな』
「……なぜ、でしょうか?」
『そちらの世界に向かった神々は戦神ディーオドールの手下たちだ。我々とは求めるものが違う。まあ、楔を破壊すると言う意味では同じだが、そのあとが違う。奴らはこの世界を破壊するだろう。私はこの世界がほしい。違いがわかるな?』
「はい」
『神とはいえ、無理やりそちらの世界に降り立てば本来の力を失うだろう。人間が炎を潜り火傷を負うのと同じだ。そして、その力の消失は長い時間をかけなければ回復しない。それでも、人間たちよりはずっと強いがな』
そんな神々がこの世界の人々に何をするのかマニオンとしては不安だった。
『正直に言うと、我々もまだ楔のありかがわからない。まず探すことになる。戦神の手下どものは、おそらく蛮族の如く暴れるだろう』
「……よろしい、のですか?」
『否。――許されるものではない』
「では、いかがしましょう?」
『当面は放っておけ。どうせサミュエル・シャイトたちが戦うだろう。ただし、その世界の無辜な民が虐げられることは許せぬ。――マニオン』
「はっ」
『――私はお前に命令はしない。今はただ、お前が動きたいように動け。お前はもうかつての子供ではない。私が鍛え、育てた立派な大人だ。胸を張り、お前がすべきことをしろ。その結果、神々と敵対しようと構わん。どうせ私と敵になる神々だ』
「……承知しました」
『ああ、そうだ。だがな――私を散々おちょくってくれたクライド・アイル・スカイだけは助けなくていい。あれは殺す。絶対に殺す。殺すと決めている』
「……は、はい」
『こほん。あとは任せよう。そもそも私は勝手に神々が楔を破壊することは気に入らん。戦神は使徒を得ることができなかったので、手下が役目を買って出たにすぎん。我々とは違う。我々は人間を見下すことはない。愚かとも思わない。己を驕らない。だが、奴らはその逆だ。おそらく無様を晒すだろう。特等席で見ることも良い、気にするだけ無駄だと思うなら好きにしていれば良い、お前に任せる』
「かしこまりました」
『それだけだ。ではな、マニオン。またいずれ会おう』
「はい。それまでお元気でヴァルレイン様」
『うむ。マニオンもな』
胸に手を当てて、恭しく礼をするマニオン。
ヴァルレインの声は途絶えた。
しん、とする森の中で、マニオンは顔を上げ悩む。
「どう、動こうかな」




