9「マニオンとリーディル子爵です」②
冒険者ギルドの奥にある冒険者ギルド長の執務室に通されたリーディル子爵様は、慌てた様子で出迎えてくれたギルド長に礼をした。
「忙しい中、急な来訪申し訳ない。本来なら、事前に連絡をするべきなんだろうが、それでは断られてしまうとわかっていたので直接足を運ばせてもらった」
「……リーディル子爵様、それは」
「わかっている。モニオン・マインラッハ殿が私との面談を拒んでいるのだろう?」
「はい。それに関してですが……とにかくそちらにお座りください」
「……ありがとう、失礼する」
促されてリーディル子爵はソファーに腰を下ろした。
「えっと、今、お茶を」
「いや、結構だ。ギルドが忙しいことを承知でやってきたのだ。手短に話をした方が良いだろう」
「……お気遣いに感謝します」
ギルド長は感謝の言葉を述べて椅子に座った。
子爵とテーブルを挟んで座ったギルド長は、強面の体格の良い中年男性だった。
彼は、長く冒険者をしていたが、怪我で引退している。
その後、冒険者の育成に力を入れて冒険者ギルドで評価を受け、ギルド長までのしあがった身である。
同時に、高潔な人物であり、賄賂の類は一切受け取ったことがなく、冒険者のためなら貴族とも躊躇いなく戦うことのできるギルド長として素晴らしい人物だった。
「さて、モニオン・マインラッハA級冒険者に関してだが」
「……その前にひとつお尋ねさせてください。子爵は彼に」
「誤解してしまうのはわかるが、違う。私はただ感謝を伝えたいのだ。――彼が何者であったとしても」
リーディル子爵の目的は、子爵領を支えてくれている冒険者に感謝を伝えたい。それだけだった。
――たとえ、モニオン・マインラッハが「誰」であっても。
「子爵が良い方であることは存じていますので、お言葉を信じます」
「……ありがとう」
「しかし、私もあまりモニオン殿のことは知らないのです。特例でA級を与えた時にお会いしましたが、それが最初で最後です。凄まじく強いことは彼の実績を見ればわかりますが、まったく本気ではない。正直なことを言うと、毎日彼が何かの気まぐれを起こして敵になりませんようにと神に祈っています」
「……そこまでかね?」
「ええ。なぜ王都にいないのか。冒険者という意味ではなく、王宮や貴族のお抱えになっていてもおかしくない、もしかしたら宮廷魔法使いだって不思議ではありません」
スカイ王国王都に冒険者はいるが、ランクが上の者は止まらない。
その理由は、スカイ王国の兵が、騎士が、宮廷魔法使いが冒険者に頼らずとも強く、よく働くからだ。
高位の冒険者が対応すべき案件を王国が解決してしまうので、美味しくないのが現実だ。
それでもダンジョンがあり、一定の仕事があるので、食うには困らず、むしろ他の国で冒険者をするよりも実りはいい。
それでも、リーディル子爵領のような王都から離れた場所の方が仕事が多いので金稼ぎができるのが現実だった。
そんな中、モニオンのような規格外の強さを持つ人間がふらりと現れたのだから「訳あり」だと察するには難しくなかった。
「私はモニオン殿の素性も経歴も何も知らないのです。本人が話したがっていないので、聞くこともしません。それがギルドの、子爵領のためになっているとわかっているからです」
「……心当たりもないのかね?」
「――子爵」
「私はある」
「――っ」
「かつて、この地で欲望のままに暴れた子供がいた。思えば、欲深い母親のせいで人生が狂ってしまった少年であったと哀れに思った」
「……子爵、それは」
「その子は死んでしまったが、王都では死者が奇跡的な復活をしている。不思議ではない」
「…………実を言うと、私もそうではないかと思っていました。モニオン殿は贖罪をしているように見受けましたので」
「モニオン・マインラッハ……このようなことは言いたくないが、なぜもう少し偽名を考えなかったのかと思ってしまうよ」
「同感です」
「どうやら、お互いに脳裏に浮かべている名は同じのようだね」
「はい」
「彼が私に会いたくない理由もよくわかる。それでも私は会いたいのだよ。モニオン・マインラッハに、いや、マニオン・ラインバッハに」




