8「マニオンとリーディル子爵です」①
――リーディル子爵領冒険者ギルド。
「モニオン・マインラッハA級冒険者にお目通り願いたい」
――リーディル子爵は自身の領地の中心部にある冒険者ギルドに自ら足を運んでいた。
その理由は、ここ二ヶ月ほど領地に留まり多くのモンスターを討伐し、素材をギルドに提供し、肉を民に分け与え、稼いだ金の大半を子爵に、残りの金を孤児や働けない老人や病人怪我人に分け与えている冒険者に会うためだ。
幾度となく、会って感謝を伝えたいとギルド経由で伝えてもらったが、すべて拒否されている。
ギルド側も、優秀な冒険者の意思を無視してどこかの町に流れられてはいけないと子爵の願いを断っていたが、ついに子爵の我慢が限界を超えたようだ。
「――リーディル子爵様、なぜわざわざギルドへ!?」
受付嬢が目を丸くして立ち上がった。
ちょうど受付をしてもらっていた冒険者たちのギョッとする。
この地を治める領主が冒険者ギルドに現れたのだ。
普通は、用事があれば冒険者ギルド長を呼びつけるくらいはする。ギルド側も、わざわざ領主に足を運んでもらうことはしない。
例外として、よほどの急ぎの用か、他の何かだ。
「モニオン・マインラッハ殿とお目通りしたいのだが、彼はいるだろうか?」
子爵が口にした名に、冒険者たちの視線が集まる。
モニオン・マインラッハはリーディル子爵領で英雄的存在だ。
彼のおかげで救われた命と、もたらされた利益はあまりにも多いのだ。
最初こそ新参者と反発していた者たちも、「旦那」と呼びしたい、尊敬している。
その筆頭が、リーディル子爵領冒険者ギルドの問題児のモヒカン三兄弟だった。
視線を感じ取ったリーディル子爵が静かに、冒険者に告げた。
「心配なきように。私は彼にお礼を言いたいだけだ。大きな恩があるので直接お礼を言いたい。ただ、モニオン・マインラッハ殿はお忙しいようなので自ら参ったのだ」
警戒と緊張に身を固めていた冒険者たちが力を抜く。
領主がモニオンに何かしようとしているわけではないとわかり、ホッとしたのだ。
冒険者たちもよくよく考えれば、善政を敷く良き領主だ。
モニオンに何かをしようとすれば、一番被害を被るのは他ならぬ領主自身だった。
「……リーディル子爵様、申し訳ございませんが、ここではなんですので奥によろしいでしょうか?」
「承知した。だが、謝罪はいらない。突然やってきたのは私のようだ。順番待ちが必要であるのなら、列に並び待とう」
「いえ、さすがに……」
「……わかった。ご厚意に甘えさせていただく」
受付嬢の訴えに、リーディル子爵様は冒険者ギルドの奥へと向かった。




