92「祖母と祖父と魔王とサムです」①
「まったく、良い大人が揃ってばぶばぶやラッキースケベなどとどのような話をしているのですか」
呆れた顔をして食堂に現れたヘイゼル・アイル・スカイに、無意識に友也とロバートが背筋を正した。
「遠藤友也様」
「はい」
「後日、時間があるときで構いません。あなたのお弟子様であるアマリア嬢を私のもとへ連れてきてください」
「構いませんが、なぜでしょうか?」
「アマリア嬢の境遇は聞いています。それは別として、一般的な感性であれば、さぞこの国の「普通」に戸惑うでしょう。未来ある若者が心を折ることをよしとしません。無難に流す手段を教えて差し上げたいのです」
「……お願いします」
「お任せください」
サムが見つけ保護し、友也の弟子となり、カリアン・ショーンの養子となったアマリア・ショーンはスカイ王国の日々に戸惑いはあるのは事実だ。
シューレン魔法国では貴族が神のごとく振舞っていたが、スカイ王国の貴族たちは愉快だ。
悪徳貴族もいたが、度し難い悪党はすべて排除済みであり、残った貴族たちはもともと愉快だったか、後から愉快になったかのどちらかだ。
後者は、やけくそらしい。
ただし、アマリアはまだ「本当のスカイ王国」を知らない。
エヴァンジェリンをはじめ、神殿のみんなが「スカイ王国っ子ならいざ知らず、他の国で生まれた子供に変態どもは早すぎる! 歪んだらどうする!」とスカイ王国の愉快な面々を遮断しているのだ。
――もっとも、スカイ王国っ子でなくとも、度し難い変態代表であるラッキースケベ大魔王が師匠であり、すでに数々のラッキースケベを受けているアマリアの苦難は始まっている。
「……ところで、綾音くんはどうしましたか?」
「彼女は過去と向き合っています。いずれ、綾音様自身からお話があるでしょう。今はただ、待って上げてください」
「ええと、はい」
過去と向き合うことは、先日の白雪との姉妹喧嘩によってできたと思うが、まだ向き合う過去があるのか、と友也は首を傾げた。
だが、待てというのなら待とう。幸い、長命ゆえ気は長い方だ。
「もしや、ヘイゼルちん。例の悲願が」
「……意外ですね。一度しか話したことがなかったのですが、覚えていたのですね」
「もちろんでちゅ。大事なヘイゼルちんのことでちゅから」
「ふふふ、ありがとうございます。――と、言っておきましょう」
友也にはわからないことだが、ヘイゼルにとって叶えたい願いが叶ったということはわかった。
ロバートが友也に視線を向けた。
「クライドちんが魔王レプシーちゃまから解放されてかつてのビンビンを取り戻したように、きっと悲願を成し遂げたヘイゼルちんもこれからはっちゃけるはずでちゅ!」
「――えぇぇ」
はっちゃけちゃうの、と不安そうな顔をする友也に、こめかみをひくつかせながらヘイゼルは語気を強めた。
「私はもともとこのような性格です。あなた方のように根元から変態というわけではありません!」
「さらっと僕まで変態扱いされている! 抗議したいけど、ラッキースケベを持ち出されたら反論できないんでしょうね!」
悲しいか、友也は自分の言葉に自分で突っ込んだ。
「すみませーん、誰かいます? 玉兎が来ているから温かいお茶を……あ、失礼しましたー!」
友也たちが話をしているところに、サムが顔を出した。
だが、すぐに祖母ヘイゼルと祖父ロバートが向かい合い、そんなふたりと同じテーブルで気まずい顔をしている友也を見つけて、踵を返そうとした。
「――サミュエル」
「はい!」
しかし、ヘイゼルの鋭い声が響き、サムが身を強張らせる。
「ちょうどよいところにきましたね。お座りなさい」
「いえ、これから僕、お茶とお花のお稽古の時間なので!」
「――お座りなさい」
「はい!」
残念ながら、サムは逃げ出すことができなかった。




