86「ルーシェルの日記です」③
――今日は雨。
お母様が叔母さまに殺された。
不仲であることは知っていたし、お互いに嫌っていることも知っていた。
だけど、遠い異国から来た姉妹が殺し合うほど憎んでいるとは思わなかった。
悲しいが、すべきことは決まっている。
息子として――敵討だ。
――今日も雨。
結論から言うと、僕とアイリーンは返り討ちにあった。
手も足も出なかった。
こてんくしゃんだ。
いっそ殺せばいいものを、憐れむような目で見てきたのが気に入らない。
どうせ他の奴らのようにお母様から愛されていなかったとでも思っているのだろう。
僕たちはそんなことどうでもいいんだ。
大事なのは、僕とアイリーンがお母様を愛していたことだ。
一度だけ許してあげる、などと上から言われた。
妹の額に血管が浮き出ている。これは怒りが限界突破している。わかっているよ、妹。明日は、襲撃だ!
――今日は曇り。
はい、負けたー! いや、勝てるとは思っていなかったんだけど、ぼっこぼこにされました! ちくしょう! わかっていたけど、わかっていたけど、一矢報いることができないまま完膚なきまで叩きのめされたのは屈辱だ。
くっ、殺せ! と、妹が女騎士みたないことを言い出したので、僕も習った。
そんな時だった。
――女神になって復活したお母様!
前々から神々しいお母様だと思っていたけど、まさか女神として復活とは!
さすがお母様! さす母!
敵討をして返り討ちにされた僕たちを見て怒ってくれ! 大満足!
やっちゃえお母様!
――今日も曇り
叔母さましぶといな。
お母様に殺されたはずが、なぜか魔王として蘇った。
……以前から邪悪な人だと思っていたけど、やはり正体は魔王だったか。
なんかじめじめした人だと思っていたけど、魔王になってさらにどんよりした気がする。
偉大なる女神となったお母様、陰険な魔王をぶっ殺せ!
――今日は晴れ。
お母様が封印された。おのれ叔母さま!
ちょっと、息子でも三下すぎるでしょう、という怨嗟の言葉を吐きながら封印されて行った。
隙を見て叔母さまの首を斬り落としたのだが、再生しやがった。
え、きも。
結婚できないように呪ってやる! って、妹が呪っていた。さすがの叔母さまも顔を引き攣らせていた。
妹の執念はやばいので、覚悟してほしい。
――今日も晴れ。
なんやかんやあって僕は領主になった。
妹は別の国の王子を拐かし――いや、違う。間違えた。相思相愛となり嫁いでいった。きっとあの国は妹の手中に収まるのだろう。
叔母さまはなんか覇気がない。僕たちにごめんねと言ってくれたが、お母様を封印された身としては謝罪されてもねぇって気分だ。
アイリーンなんかぶん殴っていた。叔母さまの側近どもが殺意のこもった目を向けてくる。
かかってこいよ、おらぁ!
メイドの背中から中指を立ててみた。
え? いやいや、だってメイドの方が強いんだもん!
――今日は曇り。
メイドの正体がわかった。
ダークエロフなる種族らしい。
褐色の肌は気にしたことはなく、むしろ、腹黒さ的にダークなのかと思った。
……僕は馬鹿だ。この日記を読まれていることを忘れていた。
ちょ、ま、やめ
――今日も曇り。
とんでもない辱めにあった!
訴えたら勝てるぞ!
復讐が怖いから訴えないけど!
ちなみに、ダークエロフではなくダークエルフらしい。紛らわしい。
あ、そうそう、僕の領地はお母様が好きだったサムエル・カイトの故郷があった土地らしい。生き残りはいないって聞いていたけど、探せばいるかもしれない。
――今日は晴れ。
天は我に味方した!
サムエル・カイトを知る人を発見したぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!




