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85「ルーシェルの日記です」②





 ――今日は曇り。

 お母様を怒らせて以来、捕まって素振り、腕立て伏せ、腹筋、スクワットをさせられている。筋があると言って貰えて嬉しいが、王子として甘やかされて育った僕にはしんどい。

 ただ、お母様と一緒にいることができる時間は嬉しい。

 頑張ったら抱きしめてくれた時には本当に嬉しくて涙が出たが、つい「胸、硬い」と本音が漏れたら、雲の上まで高い高いされた。違う意味で涙が出た。ズボンも涙でびっしょりだ。

 お母様が気まずそうな顔で、ごめんね、と謝ってくれたのでよしとしよう。

 帰宅後、指を指して大笑いしたメイドめ、お前は許さん。



 ――今日は雨。

 アイリーンにお母様と稽古をしていることがバレた。

 言い訳をさせてくれないほど早い一撃だった。妹はいつから拳を極めたのだろうか。メイドが回復魔法を使ってくれなければ今頃天国だっただろう。



 ――今日は晴れ。

 なぜか稽古に妹が加わった。最初こそ、妹を連れてきちゃったの、と困った顔のお母様だったが、妹の「よいしょ」で気を良くして一緒に稽古することになった。

 お母様、ちょろい。ちょっと、心配だ。



 ――今日は雨。

 アイリーンは魔法に長けているようだ。なんでも攻撃魔法特化型らしい。拳系じゃなかったのか、と口にしそうになったが、堪えた僕は世界中に褒められるべきだと思う。しかし、お転婆を通り越してやんちゃな妹が魔法を覚えたらどんな惨事を引き起こすのか不安だ。

 とても恐ろしい夢を見たせいか、布団に世界地図を描いてしまった。

 こっそり洗っているところをお母様に発見されてしまい、爆笑されたが、洗濯を手伝ってくれた。――お母様ちゅき。



 ――今日は曇り。

 お母様に「今更だけど、あんたたちの名前聞くの忘れていた」と言われた。

 本当に今更だ。もっと早く聞けよ、と思う気持ちと、聞かれない方が楽だったという気持ちがあることに気づいた。

 とりあえず、僕はルーと名乗り、妹はモアイと名乗った。

 なぜかお母様は妹の名前がツボに入ったようでプルプル震えて笑っていた。

 なぜアイリーンは、名前を短くするのではなく、あえて足したのだろうか。我が妹ながら不可思議な存在だ。



 ――きょうははれ。

 けいこ、きびちい。



 ――今日は曇り。

 最近、母の過去を聞くことが増えた。

 自称「親切」な人間が、僕たちが子供であることを隠して母に会いにいっていることを不憫に思ったようで、いろいろ教えてくれる。

 だが、だからなんだと言いたい。

 後日、その「親切」な人間は横領がばれて死罪となった。妹が、にちゃり、と笑っていたのが印象的だった。

 妹、こわっ!



 ――今日は雨。

 訓練が休みなのでお母様の情報をアイリーンと一緒に整理してみることにした。

 異世界から勇者と聖女として召喚され、お母様は勇者だった。

 戦友であるサムエル・カイトという男性と相思相愛だった。しかし、叔母さまもサムエル・カイトを好きだったようで、なんかどろどろしたらしい。

 僕はひとりの男として思う。なぜサムエル・カイトはお母様と叔母さまを両方娶るという度量がなかったのか。僕ならそうしたのに。

 僕の素直な意見は、妹とメイドにゴミでも見るような目をされて「ないわー」と一蹴された。



 ――今日は晴れ。

 訓練の後、僕も少しお母様から魔法を教わった。

 いくつか魔法を造ろうとしているお母様をよいしょしまくったら、いくつか考え中の魔法の基礎を教えてくれた。ちょろい。

 便利そうな魔法がたくさんあった。しかし、素直な僕は「胸を大きくする魔法を開発しないんですか?」と聞いてしまった。また羅刹に襲われた。

 僕は、初めて死後の世界を見た気がする。お花畑が綺麗だった。川の向こう側で、「ちょ、君はまだ来たらダメだよ!?」と黒髪の青年に慌てられた記憶があるような、ないような。

 不思議な体験だった。



 ――今日は雨。

 ……お母様が亡くなった。





 日記では愉快な感じですが、実際は少しシリアスでした。


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