83「ヘイゼルの過去と継承魔法です」③
日比谷綾音は小刻みに震えている。
自分が封印されている間に、子供たちの意思が長い時間を経て伝わっていることに驚きを禁じることができない。
「さ、さぞ恨み言が書かれている手紙なんでしょうね。正直、見るのが怖いわ」
「先にこういうことを言ってしまうのはどうかと思いますが、ご安心ください。一切恨み言は書かれていませんでした」
「――え?」
「……なんといいますか、アイリーン様の方は、キツめな言葉であなたに向けて手紙をお書きになっていることは事実ですが、恨んではいないと手紙の内容から感じました」
「……それは、それで、信じられないわ」
「では、ご自身の目でご確認ください。継承魔法はお使いになりますか?」
「もちろんよ」
綾音は勇者として強かっただけではない。
魔法にも長けていた。
継承魔法の元になる基礎は綾音が構築して、名前は覚えていないがとある少年に教えたことがある。それが巡り巡って息子にたどり着いたのだと思うと感慨深いものがあった。
「さあ、手を」
「ええ」
ヘイゼルと綾音はゆっくり手を握る。
そして目を瞑った。
「――継承魔法をつかいます。長い時間、受け継がれていたものをあなたへ」
ヘイゼルから綾音に、アイテムボックスが継承されていく。
その中に入っている、息子と娘が残した手紙、そして記憶もだ。
流れ込んでくる情報を、綾音は制御した。
子供たちの記憶は受け取ったが、見ることができないように鍵をかけておく。
今、この瞬間に子供たちの記憶を見るほど勇気がないのだ。
他にも、数々の情報があったが、ひとまとめにして分けることに成功した。
すべてを継承し終わった綾音は、ゆっくり目をあけた。
「――ありがとう。確かに受け取ったわ」
「一族の悲願が叶い、先祖たちも喜んでいるでしょう」
ヘイゼルはホッとした様子だった。
対して、綾音は緊張したように身体を強張らせている。
そのことに気づいたヘイゼルが、そっと声をかけた。
「よろしければ、一緒にいましょうか?」
「――いいえ。ありがとう。でも、ひとりで読むわ」
「そう、ですか。何か話したいことがあればいつでもお声をかけてください」
「――ありがとう。ヘイゼル・アイル・スカイ、そしてグレン侯爵家のすべての方に感謝をします。本当に、ありがとう」
綾音は立ち上がると深々と頭を下げた。
そして、ヘイゼルに軽く手を振って、部屋の外へ。
神殿の寮ではなく、ウォーカー伯爵家にある間借りしている部屋に向かう。
そして、ベッドに寝転がると、しばらく目を瞑った。
五分ほどだろうか。
ゆっくり目を開けた綾音には決意が宿っていた。
「――手紙を、読ませてもらうわよ」
継承魔法を造り出し、現代まで届けてくれた息子と、兄に託した娘の手紙を手に取り広げた。
まずは、兄の方からだ。
ゆっくり開くと、アイテムボックスに入っていたおかげで手紙に劣化はない。
手紙をそっと開けた。
――お母様、嗚呼、お母様。お母様はなぜお母様なのでしょうか?
「あ、これはスカイ王国の先祖って感じがしてきたわ!」




