68「正しい転移の使い方です」
「――ただいま戻りました。これで、王宮から逃げて彷徨っていた方は全てです」
魔王遠藤友也が転移によって、王宮で働いていた使用人たちはすべて保護された。
王宮で働くには魔力がないといけないという暗黙のルールがあるため、国の外に逃げ出して行く宛がなく彷徨っていた者たちは魔力を探ればすぐに見つかった。
魔力のない奴隷は、王宮から逃げ出しはしても、王都の外に出ることはなかった。
行く宛がないことはもちろんだが、逃げ出したところでどうにもならない、と希望さえ抱くことができなかったようだ。
「お疲れ様、友也くん。……でも、あまり生き残っている人がいないんだね」
友也の幼馴染みである赤金茜が駆け寄り、暖かいお茶を手渡す。
お礼を言って、お茶を飲む。
転移をしているとはいえ、雪の中で人を探し、見つけ、保護した友也の身体は冷え切っていた。
暖かなお茶が、身体中に染み渡っていく。
「ふう。残念ですが、使用人たちもそれなりに悪さをしていたようです。しなければいけなかったという者もいたそうですが、きっかけがそうでも次第に馬鹿な貴族の思考に染まっていき……」
結果として灰になってしまったのだ。
可哀想だとは思うが、貴族たちの思考に染まらなかった使用人たちはいるのも事実。
生き残るために必要だったといえば、確かに、と納得できるが、それでもしてしまったことは覆らない。
ただ、もう罰を受けた者にとやかく言うつもりはない。
今はただ、冥福を祈るだけだ。
「全員、体調面では問題ありませんでしたか?」
「うん。凍傷とかはしていないし、病気もないよ。寒さと雪のせいで体力は落ちてしまってみんな眠っちゃっているけど、友也くんが保護した人たちはみんな無事」
「それはよかった」
善人ぶるつもりはない。
せっかく助けた命が、失われなかったことを喜んだだけだ。
「でも、二十人って……多いのか少ないのかわからないね」
「王宮で染まらずに生きていたことを考えれば……きっと多いのでしょね」
「そう、かな。うん。でも、ちょっと残念だね」
小国とはいえ、王宮には使用人が百人ほどいたそうだ。
さらに酷使されていた下働きとして奴隷が三十名ほど。
百人いた使用人の中で、エヴァンジェリンのブレスで焼かれなかったのは二十人。
全体の二割だ。
少ないと思うかもしれないが、王族が暮らし、貴族が出入りする王宮の中で「悪党」にならずにいられた人間としての数は決して少なくはない。
「ただね、数人ほどなぜか全裸だったり、ボタンが弾け飛んでいたりしている人がいたのはなぜかな?」
茜の追求する声に、友也は誤魔化すようにそっと視線を逸らす。
すると、こちらを見ていた、転移を持つ少女アマリアと目があった。
友也は笑顔を浮かべ、彼女に転移によって人が救えるのだと教えようと口を開いた。
「どうですか? これがラッキースケベおじさんの正しい転移の使い方ですよ!」
「ひいっ」
「おっと、まだ受け入れてもらえないようですね。時間はゆっくりあります。もう少し心を開いてもらえるよう、僕も努力しましょう」
「……あのね、ラッキースケベおじさんって言う必要あるかな!?」
茜は不必要にラッキースケベおじさんであることを主張する友也の背中を思いっきり平手で叩いた。




