69「ゆっくり夕食です」①
フォーン小国の空き家を借りて、サムは暖炉の前で寝転んでいた。
民が暮らす家には最低限のものはあるが、物資がはっきりいって無いに等しい。
奴隷の暮らす家――と呼べるか首を傾げたくなる小屋は、本当に物がなにもなかった。
現在、奴隷たちは空き家になった家でそれぞれ休んでいる。彼らの近くには愛の女神エヴァンジェリン・アラヒーに仕えるシスターたちがついて世話をしている。
物資は貴族の家からジョナサン・ウォーカーがかき集めてくれたものと、教会からの支援で足りている。
「――疲れた。綾音さんと白雪さんの喧嘩を止めにきたのに、なぜかフォーン小国とシューレン魔法国と思いっきり関わることになるとか、想像もしていなかったよ」
そろそろ日が沈んで夜になる。
まるで一日の出来事とは思えないほど、たくさんのことがあった。
そして、愛情と戦いの女神ヴァルレインの使徒となったマニオン・ラインバッハとの再会。
「……うん。なんというか、数日に分けて欲しいくらいの出来事だったね」
「ははは、お疲れ様でした。我々も、想像していなかった展開にさすがに疲れてしまいましたよ」
「お疲れビンビンである! だが、私はまだまだ元気ビンビンであるがな!」
サムの借りている家の中に、カリアンとクライドが入ってくる。
ふたりの持つお盆の上には、暖かいシチューの皿と、切り分けたパンが乗った皿がある。
「スカイ王国に戻るにしろ、戻らないにしろ、夕食を食べましょう」
「サムの分のもちろん用意しているのであるぞ!」
「ありがとうございます。ちょうどお腹が空いていたんです」
力を使ったこともあるが、単純に寒さのせいで体力と体温を奪われてしまっているので食事はありがたかった。
テーブルに移動する。
「サムよ」
「はい」
「ワインはあるかな?」
「……ありますけど」
「こっそりいただくとしよう」
「怒られても知りませんからね」
そう言いながら、サムはアイテムボックスからワインを一本とグラスを二脚取り出した。
一応、陛下が口にするのだ。良いワインを選んでいる。
「ウォーカー領のワインか、これはありがたい。ささ、カリアン殿も。おや、サムは飲まないのであるか?」
「俺は万が一戦いがあっても嫌なのでやめておきます。また今度誘ってください」
「ふむ。もう戦いはないと思うが……」
「俺に気を使わずに。どうぞ、召し上がってください」
この世界では、夕食時にワインを嗜むことは一般的だ。
飲み過ぎは良く無いが、ワインは適量ならば身体に悪いものではない。
特に、このような寒い時期には、地域によって子どもも飲む場合がある。
「なにやらすまぬが、ありがたくいただこう。さあ、カリアン殿、どうぞ」
「これは、すみません。陛下自ら」
「よいよい」
クライドはカリアンにグラスを渡し、乾杯をした。
サムも水で乾杯する。
「ところで陛下」
食事をしながら会話を始めたサムに、クライドは応じてくれた。
マナー的には食事中の会話はしない方がいいらしいが、気にしない者も多い。
「なにかな?」
「この国はどうなると思いますか?」
サムはあえて、どうしますか、とは聞かなかった。
クライド・アイル・スカイの一声があれば、サム、ジョナサン、デライトは動く。
この内の、誰か一人でもいれば、シューレン魔法国を制圧できる。フォーン小国も同じだ。
「グライン代行殿が、王となる決意を固めれば同盟国として受け入れよう。立て直すまでも支援をするつもりである」
「――なんと」
カリアンが驚いた。
サムも驚く。
「属国にはしないのですね」
「しないのである。さすがに、会議からぴょんと飛び出したと思ったら、他国を属国にして帰ってきた――など知られたら、私は貴族たちから仕事を増やすな、と集団でボコられるのである!」
ははは、と笑うクライドであったが、サムとカリアンは笑えなかった。
今のスカイ王国貴族ならやりそうだった。




