65「ラッキースケベおじさんの勧誘です」②
「ご、ごめんなさい。もう殴らないでください」
いたいけな少女を怯えさせた罰として、縛られた友也は綾音、エヴァンジェリン、ゾーイから一発ずつ拳を顔面に喰らった。
鼻血を出す友也だが、まだ余裕はありそうだ。
「んで、マジでこの子をどうするつもりだ? 返答によってはこの場にいる全員が敵になると思ってね」
「……み、味方がいない! ふっ、所詮は魔王なんてこんなものです。孤独な魔王なのですね」
「違うよ、言動のせいだからね?」
ニヒルな表情を浮かべる友也だが、自業自得である。
「彼女を弟子にしたい」
「それはラッキースケベ的なことか!」
「違いますよ! 転移のいろはを教えてあげたいのです!」
「それでラッキースケベするんだろう!」
「……可能性は否定できません」
「綾音さん、エヴァンジェリンさん、ゾーイさん、お願いします」
「待って待って待って! 僕ですよ! ラッキースケベしないわけがないじゃないですか!」
「開き直るんじゃないわよ!」
「あべし!」
綾音が平手打ちをした。
しかし、友也は今回ばかりは折れない。
「ラッキースケベは転移を学ぶ代償だと思ってください! 僕だってしたくてするわけじゃないんですから!」
「……なんであんたが選ぶ側なのよ?」
指を鳴らす綾音に、友也が叫んだ。
「そもそも! 興味のないおっさんとかにラッキースケベする僕の気持ちがわかるんですか! どこがラッキースケベだよ!?」
「そ、そうね、ごめんなさい。今度お酒奢るから、な、泣かないでね」
「泣いてません!」
「めっちゃ涙流れているから」
かわいそうになったのか、綾音はハンカチを取り出しごしごしと友也の顔を拭く。
「見たところ、彼女には魔力がありません。そのせいでこの国では不遇な扱いだったのでしょうが、本来ならば優遇されるべき能力です」
友也の言う通りだった。
シューレン魔法国では、魔力の有無が全てだ。
しかし、魔力があり魔法が使えても、「それだけ」の人間が多かった。
むしろ、おかしな選民思想を植え付けられ、弱者を虐げる者ばかりだ。
そんな魔法使いたちが、転移能力という便利な力を持つ少女を見つけたら、どうしただろうか。
使い潰されるか、なかったことにされるか。どちらにせよ酷い扱いを受けただろう。
「僕とカルの転移に優劣はありません。つまり、そちらの彼女の転移も僕たちと変わらないでしょう。ならば、彼女は大事に育てるべきだ。利用されないように守り、自立できるように指導すべきだ」
友也は続けた。
「よく聞いてください、お嬢さん。僕は、君の中に眠る力と同じ物を持っている。その力があれば、君の人生は大きく変わる。もちろん、良いものにです。お金も稼げます。美味しい食事もできます。暖かな家も得ることができます」
アマリアが息を呑んだ。
幼くも、友也の言葉の意味を理解しているようだ。
「弟子になれば、生活を保障しましょう。もちろん、ご家族もです。望むのであれば、あなたの友人も僕が保護しましょう。この国を出て、スカイ王国に連れて行きます。学校にも行かせましょう。君に、僕の力の全てを授けましょう」
友也は力任せに、身を拘束する縄を引きちぎる。
「今、君には大きな転機が訪れています。このチャンスをモノにするのかどうか、それは君次第です。もしかしたら、後悔するかもしれません。それでも、やって後悔するのとやらずに後悔するのは違う。まったく違う」
友也は少女に手を差し出した。
「僕の弟子になりなさい。君は、君の力で、まっとうな人生を手に入れるのです」
アマリアは友也の瞳をじいっと見ていた。
お互いに逸らすことはしない。
しばらくして、アマリアが友也の手をそっと握りしめた。
「よろしく、お願い、します」
「――あなたの決断に、心からの敬意を」
――これが、後にスカイ王国で一番苦労した転移術師アマリアの始まりだった。




