63「ラッキースケベおじさんです」
「やあ! ラッキースケベおじさんだよ!」
保護された子供たちのもとを訪れた魔王遠藤友也は、何やらすっきりした顔をしながら、無駄にテンションの高い声で、頭がおかしい言動を始めた。
「はじめまして、こんにちは! 僕は大陸西側で最凶の魔王と恐れられた遠藤友也くんでーす! 特技がラッキースケベ! あと、シリアスみたいな登場をするのに特にシリアスにならないことが得意だよ! みんな、よーろーしーくーねー!」
感情が振り切れた友也に子供たちが「ひっ」と悲鳴をあげて震えた。
子供たちの健康状態をチェックしていたエヴァンジェリンをはじめとした教会勢、ゾーイ、サムも「ひえっ」とドン引きだ。
クライド・アイル・スカイだけが「――ふっ、良い目をしているのである。私にもあった、あのようなギラギラした目をしていた若い頃が」と良い雰囲気を出してうんうんと頷いているが、まったく同意するものはいない。
「――と、友也? もともとおかしいと思っていたが、ついに壊れたかな?」
友也と旧知の仲であるレプシー・ダニエルズが背中と足に、レーム・ダニエルズとティナ・ダニエルズを張り付けながら、親友に哀れみの目を向けた。
しかし、友也は絶好調だと言わんばかりに、血走った目を向ける。
「はははははっ! そんなことはありませんよ! もういろいろ吹っ切れて調子がいいっていうか、今まで考えていたのが馬鹿みたいだなって――ラッキースケベしちゃおうかなぁ!」
「……私の知っている魔王遠藤友也は死んだのかもしれない」
「絶好調すぎるだろ、この変態大魔王は」
エヴァンジェリンもドン引きだ。
「はっはっは! 注目されて照れてしまいますね! だけど、安心してください。僕はラッキースケベの安売りはしない!」
きりっ、と表情を引き締める友也に、もう全員が「意味わかんない!」という感情だ。
言動がおかしく、なんか怖い。
「……ねえ、サミュエル。あんた、あの子のラッキースケベを斬らないことにしたって言ったけれど、世のため人のためにあの子ごと斬っておいた方がよかったんじゃないの?」
「そ、そうだね。俺も、そう思う。あとなんか怖い」
サムに綾音が耳打ちする。
女神であり元勇者でもある綾音でさえ、友也に恐怖を覚えたのか距離をとっている。
「今からでも遅くないわ、やっちゃいなさいよ」
「……きっとぬるっとして弾かれる気がするからなんか嫌」
「ぬるっとしてそうよねぇ。私もなんか嫌だわぁ」
テンションをあげて興奮しているせいか、ほんのりと汗をかいて肌をテカらせている友也は、今までにない威圧感がある。
ラッキースケベを斬らない、という選択肢をしただけで、なぜこんなにも言動が怖くなるのか友也の生態が理解不明だった。
友也の小学校時代からの友人である赤金茜も「こんな気持ちの悪い友也くんを初めて見たよ!」とびっくりしている。
「おやぁ、おやおやおやおやおや!」
「ひいっ、なんか来るぞ! ていうか、ラッキースケベをしても言動がキモくなかった奴が急に言動までキモくなるとかどういうことだよ! あれか!? 女神の攻撃か!?」
スキップしながら近づいてくる友也に、エヴァンジェリンが涙目で絶叫した。
エヴァンジェリンは「邪竜」であるが、今の友也は「邪」でしかない。
魔王を超えた「ナニカ」になってしまった可能性もある。
友也は、サムが助けた少女の前のたち、にちゃあ、と笑みを浮かべた。
まさか、少女にラッキースケベをするのか、とサム、レプシー、カリアン、綾音が止めようと動く――が、それよりも早く、友也が少女に声をかけた。
「お嬢さん、素敵な転移能力を持っているね。おじさんと一緒に転移しないかい?」
サム、カリアン、レプシーが友也の言葉の意味を理解し、動きを止めた。
「さっきから気持ち悪いのよ!」
友也の言葉の意味を理解しなかった綾音だけが止まらず、友也の顔面に拳を叩き込んで、そのまま窓を突き破り、彼を外へ吹き飛ばした。
エヴァンジェリンたちから拍手喝采があがった。
シリアス先輩「――すっげーシリアスだった! 振り切れちゃいけない奴が振り切れると普通にこわい!」




