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62「女神ヴァルレインのけじめです」③





「――お姉様、お姉様! どうか、どうか! お話を!」


 妹は、まだヴァルレインを殺した理由を言わなかった。

 さすがに呆れる。

 死ぬほどの辛い目に遭うどころか、数えきれないほど死んでいながら、まだ頑なに理由を言わないことが理解できない。


「ふむ。なるほど、そこまで頑なか。さすがの私も、妹殿のその意地には負けた」

「……お姉様!」


 希望を抱いた顔をした妹に、ヴァルレインは笑顔を浮かべた。


「もう慈悲はない。この世界の解放理由を皆に伝えよう」

「おやめください!」

「思えば、フェアではなかった。妹殿をつい家族の情で優先してしまったが、私は愛情の神である。この世界の人間に平等にするべきだった」

「おやめください! それだけは、おやめください!」

「ならば、私を殺した理由を言え! 王になりたかったのか! 誰かに殺せと言われたのか! 私が貴様に何かをしたのか!? これが本当に最後だ、言え!」










「――なにも」









「なに?」


 ヴァルレインが眉を顰めた。

 妹の言葉の意味がよくわからなかった。









「――理由など、なにもありません」









「…………は?」


 ヴァルレインは己の耳を疑った。

 神であっても不調を起こすのだと、笑いそうになった。

 だが、妹は頑張って言いましたと言わんばかりに涙を流している。

 まるで被害者のような泣き方に、苛立ちを覚えた。


「妹殿、私は戦いばかりで頭がいいとは言えぬ。どうか、無学な私にもわかるように、もう一度言ってくれぬか?」

「…………お姉様、お許しください。お姉様を殺した理由など、なにもないのです」


 女神ヴァルレインは、神ゆえに妹が嘘をついていないと理解してしまった。


「強いて言うのならば、ちやほやされてずるいと思いました」

「――は」


 我慢できなかった。


「あははははははははははははははははははははははははっ!」


 ヴァルレインは笑う。

 笑う。

 笑う、笑う。

 笑う、笑う、笑う。


 腹を押さえ、今までこれほど面白いものはなかったと言わんばかりに笑い続けた。


「――――よもや、殺された理由などなかったとはな。それは言えぬか。すまない、妹殿。配慮が足りなかった」

「お姉様、お許しください。若気の至りだったのです。誰もがお姉様を英雄だと、王だとちやほやするので、つい。本当に出来心だったのです」

「そうか、そうか」


 ヴァルレインは、妹の嘘を見抜いた。

 出来心ではない。若気の至りではない。

 確実に殺意はあった。

 しかし、特に何も理由がなかったというのも、強いて言うのならばちやほやされた姉への嫉妬心であることも本当だ。


「まさか、このような理由にもなっていない理由で殺されたとは思わなかったぞ」

「お姉様、申し訳ございません。真実を言えば、きっとお許しいただけないかと思い」

「うむ。許さん」

「え?」

「だが、私は神だ。約束は守ろう」


 妹は安堵の顔を浮かべた。


「お姉様、わたくしは、苦しむことなく生きたいのです。もう死にたくないのです。どうか」

「なるほど。存外、妹殿は図々しいのだな。まさかここで自分の要望を言うとは……」


 若干呆れてしまったヴァルレインだったが、「まあいい」と聞き流した。

 そして、世界に向かい、大きな声を出した。





「――ということだ! 我が民よ!」





「――え?」

「すまぬ、妹殿。つい世界中にそなたの声と姿を流してしまった。妹殿のせいで民が長い時間苦しんでいたことがバレてしまったな! あははははは!」


 妹は、苦しんでいる民をまとめ、神殺しを企んでいた。

 その時、どう言葉を重ねて民を一致団結させていたのか知らないが、これですべて偽りであったとわかっただろう。

 その証拠に、今まで妹の手足となり神に向かい無謀な戦いを挑んで何度も死んだ戦士たちが、憎悪の瞳を向けている。



「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!」



 自分のしたことを暴露された妹が叫んだ。


「では、この世界の民よ! 私は愛情と戦いの女神ヴァルレイン! 妹との約束を守り、お前たちを解放する!」


 にやり、とヴァルレインが笑った。


「解放条件は――我が妹だった、この女を殺せ! 殺した瞬間、お前たちは解放される!」


 涙を流す、妹にヴァルレインは微笑んだ。


「なぜ、なぜ、お姉さま」

「特に理由はない。強いて言うのなら、お前を苦しめたかった」


 もうこの世界に興味がない。

 妹の不死はかわらない。

 何度殺されても死なない。

 死ななければ民は解放されない。

 躍起になって殺そうとするだろう。

 今まで自分たちを導いてきた女がすべての元凶であったと知ったら、どう思うか。

 それすら興味がない。


「さらば、くだらぬ世界よ。この世界に愛などなかった」





 ■





 その後、女神の怒りを買った大罪人である女は日に何度も何度も殺された。

 しかし、生き返ってしまう。

 正気も失えない。

 民は解放されたく、繰り返し殺す。

 だが、死なない。


 女神は二度と、この世界に降りてくることはなかった。


 民は呪いの言葉を声が枯れてもなお吐き続けた。

 それでも大罪人は殺せない。


 民は、奇跡が起きるその日まで大罪人である女神の妹を殺し続けた。






 女神ヴァルレインさんの決着でした。

 掘り下げた理由として、ただ敵として登場してもらうのではなく、きちんと背景がある神であるとしたかったためです。マニオンくんに関わったことも、サムとの関係を自分たちとは違えど兄弟とはこうなのかという興味もあったから、と。

 戦いの準備はできましたが……きっと次回は温度差で風邪を引くかもしれません。


 シリアス先輩「つまりシリアスだな?」

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