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61「女神ヴァルレインのけじめです」②





 マニオンを休ませると、ヴァルレインはゆっくり王宮を出た。

 数年単位で眠りについたマニオンだが、世界の時間の流れかたはそれぞれだ。

 サミュエル・シャイトたちのいる世界とは、誤差だろう。


 マニオンが理想以上に育ったことを満足していた、心が不意に陰る。


「――愚かだな、妹殿とその仲間たちよ。貴様たちでは、あと何百年経っても、何千年経っても、神である私に傷ひとつつけることは不可能だ」


 魔法がヴァルレインを襲う。

 剣士が剣を振るい、血走った目をして、口から泡を吹いてヴァルレインを斬ろうとする。

 しかし、魔法も剣もヴァルレインに届かない。


 通用しない、のではない。

 本当に届かないのだ。


 神として垂れ流している力が、無意識の壁となっている。

 それを超えることができなければ、攻撃は届かないのだ。


「――愚かな」


 指を鳴らすと、襲撃者たちは内側から爆ぜた。


「腹が減っている割にはよく頑張るものだ」


 よくも挫けることなく神に挑むものだと感心した。

 神に届く者は珍しくないが、この世界にはいない。

 他ならぬ、ヴァルレインが神に届く者だった。

 他の人間は、ヴァルレインにすべてを丸投げにして戦わなかった。

 その結果が、これだ。


「妹殿、人を使うことが相変わらず上手いな」

「……お姉様、お話をさせてください」

「常々不思議なのだが、なぜ妹殿は毎回襲いかかってくるのに、話をしたいというのだろうか? 神に挑むことは勇敢なことではあるが、妹殿はそれをしていない。私に立ち向かった者ならいざしらず、彼らを利用して私を殺そうと企みながら、失敗したから話をしたいと言うだけの無能と会話をするつもりはない」


 妹の顔が歪む。

 そういえば、毒殺される前もよくこのような顔をしていたな、と思う。


「繰り返し言おう。解放を望むのであれば、私を殺した理由を言うだけでよい。その結果、私の不興を買って殺されるかもしれぬが、この永遠に続く死ねない環境から解放されたいのであれば、構わないだろう? それとも妹殿は、まだ生きたいと申すのか? ああ、言わずともよい。妹殿の心内に興味はない」


 口を開きながら、言葉を発することを許可されなかった妹が唇を噛んで忌々しげにヴァルレインを睨む。


「私は、神だ。愛情と戦いの女神、ヴァルレインである。口にしたことは守ろう。妹殿が私を殺した理由を嘘偽りなく言えば、この世界を解放しよう」


 もう何百年も繰り返してきた台詞だ。

 だが、頑なに、妹はヴァルレインの殺害理由を言わない。


「妹殿、よく聞け。もう飽きてしまった」

「――え?」

「妹殿がなぜ私を殺した理由を言わないのか気になったので、口を割らせたいと思っていたが、興味が薄れてしまった。私は、次の世界を求めて戦いをする。もうこの世界はいらぬ」

「ならば!」

「なので、このまま放置する」

「――え?」


 妹は惚けた顔をする。


「世界はいつか滅びる。命はいつか終わる。私の力で不死にしている妹殿たちも、この世界の終わりには共に終わりを迎えることができる。それは間違いない。ただ、一千年、いや、万年以上かかるだろうがな」


 にぃ、とヴァルレインが笑うと、妹が顔色を悪くした。


「妹殿、私はお前の願いをひとつだけ叶えている。妹殿が私の殺害理由を言えばこの世界を解放することをずっとずっと他の者には黙っていた。その結果、よくぞ粘った。まさか私が飽きるまで、引き延ばすとは思わなかったぞ!」

「お姉様、お待ちください!」

「人間風情が神に軽々と口を開くなっ!」


 ヴァルレインの神気によって、妹が吹き飛ばされた。

 四肢が砕けてしまったようだが、些細な問題だ。

 いずれ、治る。


「妹殿、最後の機会を与えよう。本当に、最後の機会だ」


 ヴァルレインは愛情の神として、かつて家族だった妹に最後の情をかけた。




「私を殺した理由を言え」






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