96「ゴーレムの長です」③
「まさか、あのビンビン王がアイドルだとでも言うつもりですか!」
「アイドル……かもしれない」
「――馬鹿な!」
友也は、悔しかった。
あの中年のおっさんがアイドルであることを。
なんなら自分の女体化したときの姿の方がよほどアイドルだったというのに、と唇を噛む。
「クライド・アイル・スカイは精霊たちを触れ合うことのできる稀有な存在だ」
「……ま、まあ、クライド陛下がビンビンの妖精かなんかですから仕方がないのでしょうね」
友也の脳が情報を処理しきれず、やや現実逃避を始める。
「かつて弱った妖精をクライド・アイル・スカイが救ったことがきっかけとなり、彼に好奇心を抱く精霊が増えた。スカイ王国が他の国よりも豊かであるのは、彼を慕い精霊たちが多いからだ」
「――まさかの真実!」
「力のある古い精霊たちは、懐かしんだ」
「どういう、意味でしょうか?」
「――月白龍太郎を思い出す、と」
「またお前か、初代ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
交流こそなかったが、暴走した魔王レプシー・ダニエルズを倒すために地球から勇者として召喚されたのが月白龍太郎だ。
彼はレプシーを倒し、封じることに成功した。
そして、自身を召喚した巫女と結ばれ、彼を慕って集まった仲間たちと共に建国したのだ。
――それがスカイ王国の始まりである。
ここまではいい。
問題は、その後、月白龍太郎が日本文化を持ち込んだことだ。
文化を持ち込むのはいい。
だが、「魔法少女」をはじめとした彼の趣味も持ち込んだ。
それもいい。
彼がそうしたのか、スカイ王国の民が試行錯誤した結果なのか、文化は斜め上の方向に進化した。
代表的なのが、ジョンストン一族だ。
かの一族は、「代々魔法少女を継承していく」一族だ。
当主は魔法少女として、その力を歴史を受け継いでいく。
言葉にすると聞こえはいいが、実際は初代ジョンストンは可愛らしい少女だったが、後をついだのは息子、孫息子という具合に代々男だ。
才能の問題もあったのだろうが、男の当主が代々魔法少女の衣装を正装として身につけ、初代から受け継がれた魔法少女として振る舞っている。
もちろん、現在の当主キャサリン・ドミニク・ジョンストンも筋骨隆々の中年男性だ。
「ま、まさかレプシーを倒した勇者が、六百年後も影響を大いに与えることになるとは思ってもいませんでした。で、できることなら過去に戻って……」
物騒なことを考えるが、過去には戻ることなどできない。
「月白龍太郎は、建国の際――我々ゴーレムをはじめ、精霊たちにお願いをしたのだ」
「お願いとは?」
「スカイ王国を、大陸を見守ってほしいと」
「こうやって聞くと、やっていることはまともなんだよなぁ!」
「魔王レプシー・ダニルズの暴走により、大陸の半分は人の住める状態ではなかった」
「……はい」
「生命は死に、大地は割れた。自然は苦しんだ。しかし、私たちは彼の愛の深さを、慟哭を知っていた。だから、月白龍太郎の提案に賛成した」
「…………そう、ですか」
レプシーによって引き起こされた殺戮は、もちろん友也も知っている。
彼の怒りと悲しみを理解しているからこそ、魔王たちは誰も止めなかった。
最強の魔王レプシーに勝てる勝てないの問題ではない。
少なくとも、当時の友也は親友から愛する家族を奪った人間など滅べばいいと思っていたのだ。
「そんなレプシー・ダニエルズが死に、家族と共にこの世界に戻ってきた。女神の干渉があったとはいえ、私たちは彼が家族と笑っていることを心から喜んでいる」
「……なんと懐が深い」
「知らないと思うが、レプシー・ダニエルズも精霊に愛されていた。彼は我々に気づけなかったが、愛されていたのだ」
彼が知ったら、なにをどう思うのか。
友也は胸が切なくなる。
「私たちはずっと見ていた。愛しい人々の営みをずっと見ていた。そして、混ざりたかった。愛しい人々と共に、笑いたかった。一緒に、泣きたかった。成長を近くで見守りたかった。何よりも、私たちを知って欲しかった」
ゴーレムの言葉は、喜びと悲しみをはじめ様々な感情が混ざっていた。
「私たちに笑顔を向けて欲しかった。何気ない朝の挨拶がしたかった」
「……そう、でしたか」
「面白いことに、人々は動き出した。停滞していた我々の時間も動き出した。魔王が動き出し、封じられていた哀れな子が解放され、世界が起きた。ならば、私たちもこのビンビンな流れに乗って人々と交流できると考えた」
「ん? しんみりしていたけど、今、ビンビンって言いませんでしたか?」
ゴーレムは動かない。
友也の言葉を受け入れてくれたので、動くことはしない。
だが、声はちゃんと届く。
希望に満ちた声だった。
「――私たちも人々と共にビンビンに生きたいのだ!」
シリアス先輩「ちょいちょいビンビンが入るせいでシリアスにならねんだよなぁ! おのれぇ!」




