97「サムの立場です」①
ゴーレム族のゾゾムがゴーレムの長が動き出すと言った。
エヴァンジェリンがなんとか止めようと話をしてくれたが、長は止まらないという。
――そして、地面が揺れた。
「おっと」
ゴーレムの手から地面に戻っていたサムは、異世界ではあまりない揺れに故郷を思い出す。
「揺れが長いな。遠くで揺れたかな?」
「ダーリン! スノーデンとオークニーの国境の山脈が!」
「……まさかとは思うけど、それがゴーレムの長さんなんてことはないよね?」
「そのまさかだよ!」
エヴァンジェリンの大きな声に、サムは顔を青くする。
遠いスノーデン王国とオークニー王国の国境の山が動いたのだ。
地面が揺れるのもわかる。
「――大事件じゃん!」
「――大事件だよ!」
どうしよう、とサムとエヴァンジェリンが顔を見合わせる。
「落ち着くのである、サム。エヴァンジェリン様。ここはビン茶でも飲んで、一息つくのだ。こういうときこそ冷静になるのが大事である」
「あ、すみません」
「悪いな」
サムとエヴァンジェリンはクライドが入れてくれたお茶を飲んで、「ふぅ」と心を落ち着かせる。
「陛下、とりあえずゴーレムの長さんがいるはずの国境に行きたいのですが」
「……ふむ。それはあまりよくないビンビンであるな。そなたはスカイ王国の宮廷魔法使いである。スノーデン王国に関しては、グレゴリー陛下が良しとしてくれたので問題にはしないが、オークニー王国への干渉はまずいと思うのだ」
「ですよね」
「とくにサムはオークニー王国の勇者と揉めている。すでにその者は死に、国王も変わったが、我が国はステラと我が国に対しての非礼があったことから同盟国でありながら、その後関係は冷え切っているのである」
「ああ、そんな奴もいましたね」
記憶の片隅に僅かにあった、オークニー王国の勇者を思い出した。
もう名前も顔も覚えていないが、ステラを手に入れようとしたことや、魅了の魔眼を持ってやりたい放題だったことを覚えている。
またサムとしては、オークニー王国は無責任に霧島薫子を召喚したことも許せずにいる。
薫子自身がもう終わったことだと割り切っているので、蒸し返すつもりはないが、思うことは山のようにある。
「現在、オークニー王国は西側の小国と小競り合いを続けている。国力も落ちた。その支援を我が国に求めているのだが、無視を貫いている」
「……知りませんでした」
「子供扱いするつもりはなかったのだが、政治の汚いところをそなたたちに見せたくはなかったのだ。いずれ、良くも悪くも関わってくるであろうが、せめてそれまでは、と」
「お気遣いに感謝します」
「なによりも、すべて力技で解決できてしまいそうなので、怖かったというのもあるのである!」
「脳筋ですみません!」
クライドが政治関連にサムを関わらせないのは、サム自身が嫌がっているからというのもあるだろう。
サム自身、政治に関わりたくない、面倒臭い、と貴族としては失格なことを考えている。
あくまでも自分は戦う者であり、畑違いだとも。
幸いなことに、サムの周囲には優秀な者が多い。
また、サムが魔王と友好的であることから、政治にかかわらせることを良しとしない者もいるのだ。
それでもしがらみなどがあるので、関わりはゼロとは言えない。
「あの」
グレゴリーが申し訳なさそうに、サムとクライドに声をかけた。
「はい。どうかなされましたか?」
「いや、その……ウルリーケ殿がこっそり飛び立ったのだが、よいのだろうか?」
「え?」
グレゴリーが指差す方向に視線を向けると、オークニー王国の方角に飛んでいくウルがいた。
「ちょ! まずいって、ウル! 絶対にゴーレムの長さん見に行くつもりでしょう! ずるい!」




