81「商人の提案です」①
デライト・シナトラがスカイ王国の大商人オーネィ・ショ・タスキーを相手にしていると、控えめのノックが応接室に響いた。
メイドが扉を開くと、グレゴリー・スノーデン、ボーウッド・アットラック、エリカ・ウォーカー、ヴァルザード・サリナスというあまり見かけない組み合わせだった。
「お話中に申し訳ない。こちらで商談をしているとお聞きし、ぜひ我も加えていただきたいと思い馳せ参じた」
「グレゴリー様、どうぞ」
デライトが会釈して椅子をすすめる。
オーネィも笑顔で頷く。
「感謝する」
礼を言ってグレゴリーが着席する。
彼の背後にボーウッド、ヴァルザード、エリカが並んだ。
「デライト・シナトラ殿、あなたにもお礼を申し上げる。クライド様、ジョナサン殿もそうだが、久しぶりの再会で情けない姿をたくさんみせてしまっている。今日も、力になってくださっているようで、感謝しかない」
「構いません。これも仕事ってことで。それに、スノーデン王国に関しては、俺も気にかけていましたからね」
「……そうか」
かつてクライドがスノーデン王国を訪れた際、デライトも同行していた。
お世辞にも裕福とはいえない幼少期を過ごしたデライトにしても、スノーデン王国に生まれなくてよかった、と思うほど、当時でも民の生活は苦しかった。
あれから時間は経ち、破綻するものが破綻したと考えている。
止めはサムたちが刺したようだが、数年しか変わらなかっただろう。
「グレゴリー・スノーデンと申します。スカイ王国で保護していただいている身です」
「オーネィ・ショ・タスキーと申します」
グレゴリーが挨拶をすると、オーネィは立ち上がり丁寧に腰を折った。
背後に控える秘書たちも同じくお辞儀をする。
「さっそくですが、物資支援のお話をしましょう。デライト殿とお話をしていましたが、グレゴリー様と直接お話ができるのはありがたいです」
「……我から言う話ではないのですが……あなたは無償で物資を支援してくださるとおっしゃったと聞いています」
「もちろんです。愛の女神エヴァンジェリン・アラヒー様が、愛を持ってスノーデン王国に支援するのであれば、僕も愛を持って物資を支援させていただきますよ」
デライトは、「胡散臭い笑い方しやがって」と愚痴ると、後ろからエリカに小突かれてしまう。
「タスキー殿」
「どうか、オーネィとお呼びください」
「では、オーネィ殿。我も王として商人たちと交渉を何度もしてきた」
「良いことだと思います。部下に丸投げすると問題が多いですからね」
それは、中抜きをする悪どい者がいるということだろう。
「違いない。我は、王宮に勤める者も、貴族たちも信用しておらなかった。このような王であるから国が滅ぼうとしているのであろうな」
「僕はわかりません。しかし、スノーデン王国は人が住むには過酷すぎます」
「……先祖たちは、なぜあのような地に国を建てたのかわからぬが、王として守らねばならなかった」
実際、移住などできるはずがない。
人の住める場所には、他の国がある。
最北部にある国はスノーデン王国だけ。
領土こそ広いが、未開拓の地が大半だ。
「正直なことを言いますと、物資を無償で渡しても焼石に水だと思っています」
「……わかっている」
「そこで、提案です。開拓民を募ってみてはいかがでしょうか?」
オーネィは提案する。
「国を広げればいいというわけではないですが、まず人がまともに住む場所を得る必要があります。また、モンスターを遠ざけ、家畜や作物を育てる土地も必要です。暖をとる薪も森に入らなければ得ることはできないでしょう」
「……問題は山積みだな。作物も家畜もなんどモンスターにやられたことか」
「そこでまず人を集めるのです。例えば、奴隷制度がある国があります。犯罪奴隷や借金のせいで過酷な状況下で働いている者がいます」
「奴隷を買えというのか?」
「スノーデン王国にも奴隷制度はあるではないですか?」
「……我は制度を何度も取り潰そうとしたのだがな」
「商人側から言わせてもらうなら、奴隷制度はあっていいと思います。扱いの問題です。物として扱うのではなく、人として扱えばいいのです。どういうわけか、奴隷制度のある国は、奴隷が人として扱われていないのですが、これは問題です」
オーネィは持論を語る。
「たとえば、まともに食事を与えられず鞭で打たれる奴隷がいるとして、スノーデン王国で食事と住まいを与え、もちろん暴力はなしですよ。一定働いてもらったら解放すると約束すれば、感謝されるでしょう」
「……労働力を買えと?」
「はい。奴隷によっては些細なことで死ぬまで奴隷なんてことはありますし、女子供などは尊厳が踏みじられることもあります。そういう者を無条件で解放しても、それは優しさではなく、責任逃れです。救うには、職と住まいを与えるべきなのです」
「オーネィ殿の考えはわかった。しかし、奴隷を買う金も、食わせる金もない」
「そこは僕が支援しましょう」
「――な」
「おいおい、太っ腹すぎると逆に怖えよ」
絶句するグレゴリーと、なにかを企んでいると考えるデライトに、オーネィはにこりとわらった。
「ふふふ。正直に言いましょう。スノーデン王国が立ち直った暁には、僕の店を王家、いえ、王国御用達にしていただきたい。そして、女神エヴァンジェリン様の神殿の支部を作っていただきたいのです! そのためならば、どのような投資でもしましょう!」




