80「女神の影響力は大きいようです」②
「ま、金を払う払わないは、陛下たちと話をしてくれ。俺はたまたま娘の様子を見にきたただのおっさんだ」
「またまた。デライト・シナトラ殿がただのおっさんであれば、この国の大半がただのおっさんでしょう」
オーネィはにこりと微笑む。
「元宮廷魔法使い筆頭。現在は、当時よりも強くなった上で再び宮廷魔法使いになっているじゃありませんか。レイチェル王女と歳の差結婚をしたあなたをただのおっさんなどととてもとても」
「…………」
「陛下が長年封印していたビンビンを復活させたきっかけもデライトだったとお聞きしています。一部の者は、あなたをビンビンの救世主と――」
「今まで生きていて一番酷いこと言われた!」
「……褒めたのですが」
「どこがだ!」
確かに、クライド陛下の前で数年ぶりにビンビンと言ったのは他ならぬデライトだ。
しかし、それは、「ビンビンであるか?」と尋ねられ、答えないという選択肢がなかったので泣く泣く答えただけだ。
あの場でビンビンと言い出したのはクライドとコーデリアだし、レイチェルだって加わった。
正確に言うならば、デライトは四人目だ。
「これでも僕はあなたを心配していたのですよ」
「よく言うぜ」
「デライト殿には稼がせてもらいましたからね」
「……ちっ。あんたと直接やり取りしたことは数える程度しかないんだがな」
「僕の手塩に育てた部下が、あなたへの出資者だったのですよ」
「あー、そうかい。ま、いいさ。俺はもう誰かに頼らないほど弱くはない。フランはサムに託した。レイチェルって嫁さんがいるが、立場的にも、つーか本人が誰かにどうこうされような女じゃねえ」
「誤解なさらないように。僕はデライト殿と仲良くしたいのです。商人であることを抜きとして、一個人として、です」
「商人の言葉を鵜呑みにするほど、俺は馬鹿じゃねえよ」
デライトが素っ気ない返事をするが、オーネィは笑みを絶やさない。
「いずれ口説き落としてみましょう。僕は、本当に純粋にあなたたちと友人になりたいのです」
「あなた、たち、ね」
「ええ。嘘偽りなど言いません。サミュエル・シャイト様をはじめ、皆様とより良い関係を築くことができれば……僕はこの上なく幸せだと思っています」
「んで、今回の物資支援ってわけか。わかりやすい賄賂だな」
「はははは、まさか! 物資支援は女神エヴァンジェリン様の教えのもと、人道的に、愛のために行わせてもらいます。僕の部下たちにも同様のことをさせましょう。――賄賂は、これからです!」
「……これだから商人と話をするのは面倒くせ。早くウォーカー伯爵戻ってこいよ」
娘の様子を見にきただけなのに、とデライトは自らの運の悪さを嘆いた。




