62「女神の事情です」①
綾音に迫った火球はギュンターの結界によって容易く阻まれた。
「なんだとぉ!?」
絶対的な力を持つと過信していたのか、少年が叫ぶ。
「サム。面倒だ、やれ」
「了解」
サムが地面を蹴り、消えた。
再び現れたのは、上空にいる少年の眼前だった。
「ま、待て、僕は」
「――スベテヲキリサクモノ」
何かを言おうとした少年であったが、サムは容赦無く斬り裂いた。
防御を取ろうとしていたのだろう。
突き出されていた少年の両腕ごと、彼の胸を横に両断する。
「……え? ……僕は、勇者」
「よくわからないけど、殺意のある攻撃をしたんだ。殺されても文句はないだろう?」
返事はなかった。
少年の瞳から光が消え、魔力が喪失する。
上空から自由落下していく少年は、地面に激突して潰れた。
「いやいやいやいやいや! 話聞きましょうよ! 話を! フランベルジュがちゃんと情報を伝えないんですから、拷問して吐き出すくらいすればいいのに! ええ!? 殺しちゃったんですか!?」
友也が、地面に落ちた少年に駆け寄ろうとするが、それをゾーイが止めた。
「待て、変態」
「お名前で呼んでください!」
「待て、ラッキースケベ魔王」
「僕の名前はラッキースケベじゃないですからね!?」
「そんなことはどうでもいい! もう奴は死んでいる。死者にラッキースケベするなど、辱める必要はないだろう」
「誰がそんなことするって言った!? ちゃんと言葉を聞いて!」
「嫌だ、耳がラッキースケベされてしまうではないか」
「どうやれば耳をラッキースケベできるのか教えて欲しいんですけど!?」
「ふ、不埒な!」
「なんで!?」
友也がゾーイに止められている間に、レプシーが少年の生死を確認した。
サムの一撃で、少年は完全に絶命していた。
「いやー、助かったわ。力を取り戻してないから、あんな雑魚に不覚を取っちゃってねぇ。ありがとう。じゃあ、またね!」
「いーや、逃すわけないだろう」
「ですよねぇ!」
立ち上がった綾音が感謝の言葉を述べて去っていこうとするが、ウルが許すはずがなかった。
「お待ちください!」
そんな中、ひとりの女性がサムたちに向かい膝をついて頭を下げた。
「……メイ・リー・リー」
彼女の名を呼んだのは、カリアン・ショーンだ。
彼にとって、彼女は娘のような存在だ。
女神の首を持ち去ったことなど、聞きたいことは山のようにあるだろう。
「どうか、お話を聞いてはいただけないでしょうか! お願いします!」
「申し訳ございません。みなさん、彼女は私にとって娘同然に慈しみを持って育てた子です。思うことはあるでしょうが、せめて話だけでも」
カリアンはそう言って、頭を下げた。
彼にモンドも続く。
「メイ・リー・リー殿は、枢機卿として民を守り続けていました。尊敬に値する人物です。女神様に関して何を思い、あなた方と敵対したのか私もわかりかねますが、ここではっきりさせるという意味でも話を聞いていただけないでしょうか?」
カリアンとモンドの訴えに、サムたちは顔を見合わせる。
そして、情報を得るためとして頷いた。
「感謝します、みなさん」
「ウルー! そこの女神が逃げないようにしっかり捕まえててね!」
「まかせろ!」
「ぎゃぁあああああああああああああああ! 決まってる、決まってるから! つーか、私がメイを置いてにげるわけないでしょ! そんな薄情者じゃないわ! おい、こら、マジでいてーって! あ、すみません、痛いのでちょっと力を弱めてくれませんか、いえ、本当にマジで!」
がっちりウルに拘束された綾音が悲鳴を上げるも、抵抗も逃げることもしないようだ。
不思議なことであるが、綾音は言葉通りメイ・リー・リーを置いて逃げるつもりはないようだ。
「……お姉ちゃんってこんな人だったったけ?」
まるで別の生き物でも見るように、白雪が驚いた顔をして綾音を見つめた。
太陽の勇者退場!
メイ・リー・リーさん「こ、これは告白のチャンスでは!?」
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