41「女神は逃亡中です」②
三十分ほど雪の中を歩き続けるメイ・リー・リーは、ついに倒れてしまった。
「ちょっと、メイ!?」
雪に投げ出された綾音が慌ててかけると、メイ・リー・リーの意識は朦朧としているようだった。
寒さのせいで、傷から流れる血は少なくなっている。それでも失血を続けたことと、ずっと軽装で雪の中を歩き続けていたせいで限界が訪れていた。
「ちょっと、あんた! だから私は自分で歩けるって言ったのに!」
綾音はメイ・リー・リーを抱き起こすと、彼女の腕を自分の肩に回させて足を踏ん張り立ち上がる。
「……女神、様?」
「……正直、見捨ててやろうかと思ったけど、今まで散々な扱いをしてくれたお礼をしてなかったからね。元気になったら、ボコボコにしてやるから覚えておきなさい」
そんなことを言いながら、綾音は雪の中を進んでいく。
力をわずかに取り戻し、人の姿をしているが、その力は見た目通りの幼い少女程度でしかない。
それでも、綾音はメイ・リー・リーを見捨てることはでず、必死に雪の中を進み続けた。
裸足の足が痛んだが、痛覚もすぐに消えた。
もう膝下までの感覚がない。
寒さで唇が切れ、血が流れるが、その血も凍ってしまう。
(――このままじゃやばいわね。女神である私が凍死するとは思わないはずだけど……力を失って人間レベルに落ちた現状だと……まずいかもしれないわね)
不思議と、こんな状況にあるのに綾音にはメイ・リー・リーを見捨てるという選択肢が浮かばない。
「せめて、洞窟でも小屋でもなんでもあれば……ふんっ。勇者として使い潰されかけた日を思い出すわね」
せめてメイ・リー・リーが怪我をしていなければ、聖力でなにかしらできただろう。
いや、他ならぬ綾音がせめて力を使うことができればまた違っただろう。
しばらく歩き続け、綾音の意識が朦朧としてきた。
メイ・リー・リーの呼吸も酷く浅い。
このままでは――と、綾音が本気で不安になった時、小さな小屋を見つけた。
「メイ・リー・リー! ちょっと、ほら! 小屋があるわよ! 少なくとも、雪から身を守れるわ! あと少しだからしっかりなさい!」
残りの力を使って小屋までメイ・リー・リーを引きずっていく。
小屋には鍵はかかっていなかった。
近づいて分かったが、放棄された建物なのだろう。
魔物に怯えてか、老朽化か、他の理由があるかもしれないが、今は利用させてもらうしかない。
「……はぁはぁ……はぁ……雪がないだけありがたいわね。でも、このままじゃあメイ・リー・リーは長くないわ」
彼女を床に寝かせ、綾音はまず薪を探した。
幸いなことに放棄されたのは最近だったのか、少し湿っているが薪がある。
感覚のない手で薪を庵に並べると、次に火種を探すが、さすがにそこまで都合よく揃っていなかった。
「――はぁ。私もヤキが回ったわね」
綾音は、自らの身体を維持している魔力を使い、薪に火をつけた。
隙間風が入らないように、小屋に補強をかける。
「……これで、変態ひとり分の魔力は無くなっちゃったわね」
綾音はメイ・リー・リーの衣服を脱がす。
濡れた服をずっと着ていたら凍死する可能性があったからだ。
さらに、力を振り絞って彼女の怪我を回復させる。が、力が足りず、血を止めるのが精一杯だった。
「……服と食料が必要ね」
もう力が絶えそうではあるが、できる限り周辺を探索してみる。
――見つけた。
小屋があったことで、近くに人がいると判断した結果、十数人ほどの人間の気配を少し離れたところで見つけた。
意識のないメイ・リー・リーに、綾音はつぶやいた。
「あんたは怒るでしょうけど、ごめんね」
そう言い残して、綾音は小屋を出た。
少し綾音さんにも変化が。
あと1話、見守っていただけたら幸いです!
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