64「ゾーイ・ストックウェルの場合です」①
ゾーイ・ストックウェルはウォーカー伯爵家で借りている部屋のベッドの上で、ぼうっとしていた。
時折、頬を赤くして唇を撫でる。
そんな動作をしばらくしていると、細い唇から言葉が漏れた。
「……ファーストキスは、はちみつ味だったな」
ゾーイはサムと結婚の約束をすると、触れ合うような可愛らしいキスをした。
その続きは結婚した後で、ともうひとつの約束を交わしもした。
「……私が結婚か。人であった時でさえ、そんなことを考えたことはなかったのに……生きていると何があるかわからないな」
ふふふ、とゾーイが微笑む。
かつて聖女として崇められ、しかし、魔女として追われた。
死にかけていたところをアイリーンに見つけられ、憐れんだレプシーに血を与えられて吸血鬼に転化したのだ。
その後、力の使い方を覚え、レプシーとアイリーンのために生き、デイジーが生まれ、幸せだった。ときどき、遠藤友也が現れてはラッキースケベされたが、今となっては些細なことだ。
だが、その幸せはすぐに崩れ落ちた。
アイリーンとデイジーが人間に殺された。アイリーンの両親も、同じように殺されてしまった。
最愛の妻子を殺されたレプシーが、あれほど優しかった主人が殺戮と絶望を撒き散らす魔王として暴れ回るようになった。
ゾーイもレプシーと共に戦おうとしたのだが、まだ正気を保っていたレプシーが友也にゾーイを託し、友也は信頼できる魔王ヴィヴィアン・クラクストンズにゾーイを預けた。
数十年ほど力なく日々を過ごしていたのだが、このままでは良くないと活動を再開した。
そんなゾーイに、ヴィヴィアンから自分の騎士になってほしいと提案され、受け入れた。
ヴィヴィアンの騎士として爵位をもらい、時には友也の仕事を手伝い、他魔王と交流し、気づけば魔王に準ずる準魔王となった。
大きく成長したゾーイは、今の自分ならレプシーを止められるのではないかと考えたが、魔王と準魔王では超えられない壁が存在していることを知っていたので、できることはなかった。
レプシーを救うことを諦めたわけではないが、自分にはできないと思い知ったゾーイは、彼を案じながら淡々と生きていた。
だが、そんなレプシーが異世界から召喚された勇者によって封じられたと聞いた。
勇者たちに恨みはなかった。
優しかったレプシーが怒りに任せて命を奪い続けることをもうしなくていいのだと感謝さえした。
レプシーが心を落ち着かせ封印が解かれる日がくるか、それとも穏やかに眠り続けるのか、未来はわからないがゾーイは人間たちには関わらずにレプシーの眷属として恥じない準魔王として振る舞い続けた。
――そして、六百年以上が経ち。レプシー・ダニエルズがサミュエル・シャイトという人間の少年によって殺されたと知った。
ゾーイさんの過去にちょっと触れる回です。
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