65「ゾーイ・ストックウェルの場合です」②
――初めてゾーイがサムと会ったとき、落胆した。レプシー様を殺した人間がこの程度か、と。
人間を超えた力は持っているようだが、所詮、準魔王にも届かない力だ。この程度なら、魔族には珍しくない。おそらく、主人が長い封印で弱体化したせいだろうと判断した。
だが、その印象は変わっていく。
サムは戦えば戦うほど強くなるのだ。その場に最適な強さを、まるで隠していたかのように引っ張り出してくる。
圧倒的な強さで蹂躙するレプシーとは真逆の魅力があった。
格上の相手と戦い、親しくなり、時には冷酷に。
――そして魔王に至った。
瞬く間に世界で上位の存在になってしまったことへの驚き、尊敬、少しの嫉妬、そして言葉にはできないほのかな感情を抱いてしまった。
スカイ王国での日々は、正直に言うと楽しかった。
リーゼロッテをはじめ、ウォーカー伯爵家の人間は暖かくいい人だ。
他にも王都で知り合った人々も、個性は強いが、ゾーイを畏怖することはなく、外見通りの子供のように可愛がってくれた。
その都度、「私は大人だ!」と手を払ってきたが、かつて人間だった時にされたことのない優しい触れ合いにただ戸惑っただけ。
キャサリンは、本人には言うつもりはないが、友人と思っている。彼女の家族は仲が良く、かつて主人たちと過ごした日々を思い出させた。
ただ、魔法少女だけは勘弁してほしい。数年くらいなら付き合ってやってもいいが。
あと、スカイ王家は自重してほしい。
貴重なツッコミ要員として会議に他国の、それも準魔王を呼ぶのはどうなんだろうか、と思う。
問題はギュンター・イグナーツだ。
魔族すら恐るほど変態だ。
創造神? なんだそれは。想像妊娠の聞き間違えだろう。
かつて祈っていた神は、こんなんではない。
「ああ、なんだ。私は、この国が好きだったんだな。サムのことも大好きだし、この国も、ここに住まう人たちも好きだ。うん。ようやく自分の心に素直になれた気がする」
かつて、生まれ故郷で聖女でありがなら魔女として追われ、世界と人間に絶望し、恨んでいた少女はもういない。
レプシー・ダニエルズに新たな命を与えられ、多くの経験を経て、今ここにいる。
「きっとサムと出会うために、この国の人々と出会うために、私は生きていたのだな」
ゾーイ・ストックウェル。
聖女であり、吸血鬼である準魔王。
彼女は数百年の時間を経て、ようやく世界を受け入れることができた。
次回、レプシーさん一家とゾーイさん。の、前にいつもの話を。
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