第七話「最悪の第一印象」
「……」
「……」
「……」
「……そんなに睨まれたら怖くて何も話せないわ。睨むのやめてちょうだいよ。」
「あ、す、すみません、ポーンさん。ほら、ピン。睨むのやめて。」
「チッ」と男が舌打ちをし、「もう、フォークったら」と、女はため息をつく。ナイトは下を向いて俯いている。
どうしてこうなってしまったのかと、ポーンは女……ピンと一緒にため息をつきたくなった。
——————事は数時間前にまで遡る。
自警団の場所まで向かうことになったポーンとナイトだったが、
「……迷ったわ」
「こ、この辺りだと思うんですけど」
「…………私は土地勘ないし、ナイトは、貴方はその、お、おっちょこちょいだし」
「言いたいことがあるならはっきりしてください!自分もこの方向音痴はどうかなって思ってるんです!」
「いや、方向音痴ではないとは思うわよ?……準方向音痴だけど。」
「準!?」
「何よ、事実でしょう。さっきから同じ時計台の周りを二周もしているわよ。」
「う、うぐっ……! だ、だって城下町の路地は兄さんが区画整理しようとして途中で止めたから、ややこしくなってて……」
「へえ、ルークがねえ……」
ポーンは顎に手を当て、路地裏の構造を観察する。
(確かに、以前の区画から変に拡張しようとして行き止まりが増えているわね。ルークのやつ、雑な仕事をして……)
ポーンが心の中で元部下の仕事ぶりに苦言を呈していた、その時だった。
「うわっ、」
と、前を見ずに走ってきたのだろうか。こどもがナイトの背中にぶつかったのだ。
「ご、ごめんなさ————ッ、あ!?」
「え、……あー!」
ナイトはぶつかってきた子供の顔を見て叫んだ。その子供は昨日ナイトの腕時計を盗んだ子供だったのだ。子供の方もちゃんと覚えていたらしく、血の気が引いた様子だった。
「っ、」
子供は逃げ出した
「あ!」
「ちょっと待って!自警団の場所教えてちょうだい!」
と、ポーンとナイトは追いかけようとした時だった。
「あら。どうしたの、トル。」
「ピン姐!」
「あらあら。どうしたの、そんな顔して___え。」
ポーンとナイトの顔を認識したのか、ピンは強張った顔になる。
「ナイト君?」
「……お久しぶりです、ピンさん。」
「ふ、ふふ。」
「?」
ピンの様子にポーンは首を傾げる。なぜ笑うのだろうかと。
「久しぶり〜!!ナイト君!!」
「うわっ、」
ピンがナイトを思いっきり抱きしめたのだ。
突然の様子にポーン、トルと呼ばれた子供は目を丸くして固まってしまう。
「……まあ。」
「えっと、ピン姐……?」
当のナイトも急に顔を埋められて「ふぐっ、ひ、ピンさん……っ、苦しいです……!」とバタバタと手を振っている。
「ちょっと、離れてあげなさいよ。死んじゃうわ。」
あまりの様子に止まってしまったポーンだったが、すぐに我にかえるとピンに放すように促す。
「あ、えっと、ごめんなさい!あまりにも嬉しくて……大きくなったわねぇ、ナイト君!ルークに似て男前になっちゃって!」
「ぐふっ……はぁ、はぁ……お久しぶりです、ピンさん……」
酸欠になりかけたナイトが息を整えていると、ピンはふとナイトの隣にいる黒髪の少女、ポーンに視線を向けた。
「ところで、彼女は?……まさか、ナイト君の彼女さん??」
「えっッッッッッッ!?ち、ち、違います!!!こちらは……その、知り合いの……」
「はじめまして。ポーンよ。」
ポーンが軽やかにお辞儀をすると、ピンは「ふーん……」と目ざとく二人を観察すると、「はじめまして、ポーンさん」と、くすりと笑った。
「ちょうどトルを連れて、自警団の拠点に戻るところだったの。二人もいらっしゃいよ。街の美味しいお茶でも淹れてあげる。」
「えっ、いいんですか!?」
「ええ、もちろんよ!さ、いきましょう!」
ピンの明るい調子に引っ張られ、ポーンとナイトは無事に自警団のアジトへと案内されることになった……のだが、アジトの扉を開けた途端、ピンよりは高いが、ナイトよりは小さい体格をした男が、ナイトを見るや否や「は?お前、ナイトか?」と地鳴りのような低い声でポーンとナイトを迎えたのだ。
トルはフォークのあまりの様子に「うわあ」と引いた様子でアジトの奥へと逃げていった。
「なんでお前がここにいるんだ、ナイト。」
フォークは腕を組み、鬼のような形相でナイトを睨みつけている。
————————そして、冒頭へと至る。
「……そんなに睨まれたら怖くて何も話せないわ。睨むのやめてちょうだいよ。」
「あ、す、すみません、ポーンさん。ほら、ピン。睨むのやめて。」
「チッ」と男が舌打ちをし、「もう、フォークったら」と、女はため息をつく。ナイトは下を向いて俯いている。
(ふぅ……ますます大変になるなあ)
ポーンは心の中で小さくため息をつくと、恐縮しきっているナイトの代わりに、正面のフォークとピンに向き直った。
「さて。……私たちがここへ来た理由を、話させてもらってもいいかしら?」
「え、ええ、大丈夫ですよ。」
「なんだお前、ナイトの彼女か?さっさと出ていけ。」
「フォーク!」
「彼女じゃ、ないです。」
「は?ナイト、お前の意見なんか聞いていないんだよ。」
「フォーク!!」
(…………全く、)
フツフツと湧き上がる不快感を抑えきれず、ポーンは冷ややかな目をフォークに向けた。
「フォークさん。貴方と話すとはっきり言って気分が悪くなるわ。……そう思わない?ねえ、おチビさん。」
不機嫌になったポーンが言い放った、"おチビさん"というのはフォークのコンプレックスそのものを刺激する言葉であり、それを聞いたフォークはこめかみに青筋を立て、ポーンに掴みかかる。
「なんだとこの女————ッッ!!」
「は?やるっていうの?受けて立つわ。このおチビさん!」
「上等じゃねえかこの"歩兵野郎"!!」
「はあ!?野郎じゃないわ、"さん"をつけろ!!このチビ野郎!!」
「フォーク!ポーンさんも!やめなさい!!」
「ポーン様——じゃなかった、ポーン、さん!貴方が火に油注いでどうするんですか!?」
掴み掛かられてもポーンは微動だにせずにむしろ、「フン」と鼻を鳴らすので、ますますフォークが怒る。悪循環だ。これをどうしろと、ナイトは頭を抱えたくなった。
「あ、あの落ち着いて——————」
「お前は黙ってろ!!」
「貴方は黙ってなさい!!」
「はい………」
ナイトはふと、隣のピンがやけに静かだったのに気づき、ピンの方を見ると、「ひっ」と情けない声が出てしまう。
(めちゃくちゃ怒ってる……!!)
ナイトは思い出す。
普段怒らず、優しいピンだが、怒るとめちゃくちゃ怖いということを。
ナイトは「ごめんなさい、お二方。」と心の中で祈る。要するに見捨てたのである。ピンに口出しすれば更に怒られるのを兄ルークを通して知っているのだ。
ピンの様子に気づいたのかフォーク、ポーンの二人の顔が真っ青になっていく。
「フォーク、ポーンさん……貴方達、いい加減にしなさいッッッ!!!!」
と、ピンの怒鳴り声がアジト中に響き渡った。
更新遅くなりました、すみません……。
今回ついに元幹部二人が登場しましたが、如何だったでしょうか?ポーンとフォークの言い合いからの、ピンの一喝……一番怒らせちゃいけないのは間違いなく彼女でしたね(遠い目)。
次回もお楽しみにしてください!




