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女王を殺した駒は。 〜生まれ変わった女王は仲間達のドロドロ具合の仲違いに頭を抱える〜  作者: 七竈 美咲


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第五話「覚悟とエゴと初恋の人」


「……」


(変じゃ、ないだろうか。)


ナイトは自室の鏡の前で自分の格好を見ながらそう思いながら、くるっと一回転するが、急に恥ずかしくなったのか、その場にしゃがみ込んで、頭を抱えた。


(なぁぁぁぁぁに女々しくなっているんだ、ナイト・バックランク!!!!しっかりしろ!!!!)


昨日、ナイトは初恋の人クインの生まれ変わりであるポーンと再会した。犯人を覚えていたが、話そうとはしないポーンに少しだけ苛立った思いはあったが、そんな思いは今日また話せるといい事実で消えてしまった。



(やっぱり、好きだ……)

 

生まれ変わっても、姿が変わっても、ナイトの恋心は変わらなかった。

だからこそ、カッコ悪いところをポーンには見せたくはなかった。


「多分、大丈夫……なはず。」


一通り、自身の姿を確認し、変なところがなかったので、おそらく大丈夫だと思ったナイトは自室を出た。

 

玄関までの道のりである廊下だが、朝早いからか使用人達は朝餉の支度や、屋敷にある各部屋の掃除などで廊下は人気がない。何だか寂しいなとナイトは感じた、その時だった。


「ナイト……どこに行く。」

「に、兄さん。」


ルーク・バックランク。

バックランクの当主であり、ナイトにとってはただ一人の家族でもあった。両親はナイトが幼い時に亡くなっている。父は盗賊の奇襲を受けて、死亡。

母は流行り病を拗らせ、亡くなった。

両親を失った事でバックランク家を狙う者は後をたたなかった。そんな中、幼かった自分を守ってくれたルークには感謝している。


「今日は休みだし……気晴らしに外に出ようかなと。」

「……なるほど、休みか。なら今日くらい家で休んだほうがいいんじゃないか?」

「いや、行きたいところがあるんだ。どうしても。」

「…………そうか。気をつけるんだぞ。」

「うん。行ってきます。」



そう言うと、早足でナイトはその場を去った。



(——緊張したぁぁぁぁ)


ナイトは屋敷から外に出ると、冷や汗がダラダラと出始めた。


(いきなり話しかけられたからびっくりした)


そう思いながら、ナイトは歩き始める。



「そういえば……兄さん。隈ができてたな。」

 

(まさか、また徹夜で書類仕事でもしてたのかな。昔から無茶ばかりするんだから……)

 

そんな兄ルークを少し心配しつつも、ナイトは待ち合わせ場所へと足を速めた。

城下町の賑やかな大通りを抜け、昨日二人で入ったカフェの前にたどり着く。

 

時刻は約束の十分前。

 

「よし、俺の方が早い!」と一安心したのも束の間、カフェのテラス席の影から、ひょっこりと黒髪の美しい少女が顔を出した。

 

「遅いわよ、ナイト。」

「えッッッ、も、もう来てたんですか!?」

「ええ。……それより、何をそんなにキョロキョロしているの? まるで、不審者みたいよ。」

「不審者じゃないです!というか、ポーン様こそ、今日もその……黒髪なんですね。」

 

ナイトはポーンの姿を改めて見つめる。

かつてのクイン様は、眩しいほどの黄金色の髪と美しい碧眼の持ち主だった。

だが、今のポーンは、黒く染められた髪に鮮やかな赤い瞳……見た目は全くの別人だ。

けれど、佇まい。少し呆れたように自分を見上げるその懐かしい目つきは、間違いなくナイトが十年間ずっと恋焦がれ、想い続けていた彼女そのものだった。

 

「当たり前でしょう。ホムンクルス特有の白髪のまま歩いてごらんなさい、一発でデレルムのスパイとして捕まるわよ。」

「あ、はは。ですよね……ホムンクルスで———————————え。」



ナイトの思考が一瞬停止した。今、彼女はなんと言ったのか。

ホムンクルス……ホムンクルス……ホムンクルス!?!?


「さ、立ち話も何だし、行きましょうか。」

「え、い、いや、いやいやいや、待ってください!!??え、ほ、ホムンク——————」

「っ、この馬鹿!!声が大きいわよ!!」


ポーンがナイトの声を遮るように手で口を塞ぐ。


(エッッッッッッッッッ)

 

初恋の……クインの人の手が、自身の口元に——————


「グギィェェェェェェェ!!??!!??!?」

「え、え、だ、大丈夫!?す、すごい鳴き声だし……物凄い顔よ!?わ、私力強すぎたかしら。」

「ダッッッ、ダ、ダイジョウブデス」


慌てて、その手を離すポーンに、ナイトは口元を押さえながら近くの壁に寄りかかり、ハァハァと息を整えた。

 

(危なかった……し、社会的に死ぬところだった……!)




「す、すみません、取り乱しました。」

「そ、そう?」

「ですが、ホムンクルスって……ポーン様。貴方、まさか……」

「ポーンでいいわよ。……そう。今の私は人造人間(ホムンクルス)の身体に魂が宿っている状態なのよ。……だから、色々あってね。こうやって白髪をスプレーで黒く染めているのよ。」


 

ポーンは声を落とし、周囲を警戒しながら静かに説明する。ナイトはゴクリと唾を飲み込んだ。


————だが、今のナイトにはそれ以上に確かめたいことがあった。

 

「ポーン様。貴方がどんな姿になろうと、俺の気持ちは変わりません。それだけは、誓います。」

「……全く。変なところで兄弟揃って真面目なんだから。」

 

ポーンは恥ずかしそうにそっぽを向くと、コホンと咳払いを一つした。

 

「それより、立ち話はここまで。……カフェで話しましょう。」

「あ、は、はい!」



二人は歩みを進める。失われた十年の時を埋めるように、そして狂ってしまった王国の歯車を、もう一度正しく動かすために。

 

ナイトはふと、隣を歩くポーンの横顔を見つめながら、胸の中で密かに誓っていた。

 

(今度こそ……俺が貴方を守ってみせる。誰が相手だろうと。)

 

今朝、屋敷を出る時に見た兄ルークの影のある顔が、一瞬だけ脳裏をよぎったが、ナイトはそれを振り払うように深く頷いた。



————————————



「そ、そんな事があっただなんて……」

「ええ。だから私はガース村の老夫婦の養子になったの。」

「……」


カフェに入り、外のテーブル席にてナイトはポーンの話を聞き終える。そして、言葉を失った。

 

彼女が目覚めた場所が、実験室だったこと。

そして、自分を生き返らせようとしていた人物が、かつての仲間であるビショップだったこと。

 

(……ビショップ様が、国を売るような、そんなことを……?)

 

ナイトの頭の整理が、未だ追いつかない。


 

「えっと、ナイト?」

「あ、いえ……!その、ポーン様がそんな大変な目に遭っていたなんて知らなくて。俺は何もできず、ただ復讐だなんだと騒いでいただけだったのかと思うと、情けなくて……」

「だから様やめて。

……気にしないで。あの時の私はただ逃げるのに必死だっただけよ。……それより、スミスさんとステラさんには本当に感謝しているわ。あの方たちが私を『人』として受け入れてくれなかったら、今の私は存在しないもの。」

 

ポーンは温かい紅茶を一口含み、ほっと胸を撫で下ろすような笑みを浮かべた。

その穏やかな表情を見て、ナイトの胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


(昔のクイン様は、いつだって国や俺たちの重圧を背負って戦ってきたのだ。……今の幸せを奪っていいのだろうか。)


そうだ。ナイトの犯人を暴きたいという思いも、ナイトのエゴであり、ポーンがしたい事じゃない。


(犯人を、暴きたいと思うのは……間違っているのか?)


そうナイトが悩んでいるのをポーンが感じたのか、「あら。」とまるで何かを期待するかのように口を開く。

 

「犯人を暴くのはやめにする?私は別に構わないわ。」

「っ、」

 

ナイトは息を呑んだ。

ポーンの赤い瞳が、どこか試すように自分を見つめていると。そう思ったのだ。

 

「……ポーンさ、ま。俺は……」

「貴方が悩み、葛藤している理由は手に取るように分かるわ。自分の復讐心が私の重荷になるのではないか、私の穏やかな今の生活を壊してしまうのではないか……そう考えているのでしょう?」



図星を突かれ、ナイトは言葉を詰まらせた。

 

「全く。君って子は。」

 

ポーンは紅茶のカップを静かにテーブルへ置くと、ふと、困ったような、どこか懐かしい笑みを浮かべた。

 

「私のことは気にしないで。……貴方の意思は?貴方はどうしたい?」

「……っ」

 

ナイトは胸の奥が熱くなるのを感じた。

自分の身を案じる前に、どこまでもこちらの気持ちを推し量り、意思を尊重しようとしてくれる。


見た目は美しく、可愛らしい少女になっても、その本質はかつて皆を導いた優しく気高き"女王"そのものだった。

 

ポーンに余計な気を遣わせたくない。彼女の穏やかな暮らしを壊したくはない。

 

それはナイトの本心だ。


だが、だが、これで良いのかとも思った。

 


(俺は……何のために、何のために、この十年間犯人を追ってきたんだ。)



十年間、自分はもちろんだが、幹部達……彼らも苦しんできたのだ。


——————もう、自分を誤魔化すのは、もうやめにしよう。

 

ナイトはポーンの赤い瞳をしっかりと見つめ返す。




「……俺は、犯人を許せません。貴方を殺し、あの人達を、この国を、狂わせた奴を……絶対に。」

 

言葉に力を込め、ナイトは握りしめた拳を胸に当てた。

 

「でも、俺の我儘で、エゴでポーン様を巻き込みたくはないです。」

 


真っ直ぐで不器用な、けれど一切の濁りもない告白にポーンは一瞬だけ目を丸くすると、呆れたように、愛おしそうに、そして、何かを諦めたかのように目を細める。

 


「本当、バカね。その道は___……なのに。」

「え?すみません、聞き取れなくて。」

「……なんでもないわよ。」

 

ポーンはふっと、紅茶のカップを持ち上げて一口含んだ。


「そこまでの覚悟があるなら、はじめましょうか。」

 


ポーンの目が、鋭い光を帯びた。



「まずは、幹部達の今の状況……そして、当日クイン・シャトランジの状態について整理しましょう。」






初恋の人が目の前にいたら、テンパっちゃうナイト君でした。

今回でナイト君の覚悟や決意が見れましたが、同時に犯人を追っても良いのだろうか、ポーンの穏やかで幸せな生活を壊すことになるかもしれないのにという葛藤も見れました。

さてさて、次回で幹部達の詳細が明かされます!!幹部達全員かなり個性が強いですし、そりゃあクインに心酔しちゃうよなみたいな過去持ちです。どうか、お楽しみにしてください!!

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― 新着の感想 ―
彼女がホムンクルスとして蘇っていたという衝撃の事実が明かされる展開に読みいってしまいました。 ポーンの穏やかな生活を壊したくないという葛藤と、それでも許せない犯人を暴くという強い意志に向き合うナイト…
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