第一話「犯人は誰なのか」
第一話
―――10年前、俺の初恋の人は死んだ。
―――今でも、頭から血を流しながら担架に運ばれていくクイン様を覚えている。
―――俺は誓った。絶対に犯人を殺してやる。と。
――――なのに、何でなんだ。
ナイトは目の前にいる人物があのクインだと言うことに驚きを隠せずにいた。
最初、彼は目の前に現れた人物にクインの面影があることに気づいていた。
が、どう考えても他人の空似。本物のクインは数十年前に犯人によって殺されたのだ。
(ありえない、はずなのに…………)
だが、ナイトは目の前にいる人物にクインを重ねていた。
―――ああ、安心なさいな。貴方のお兄さんは私が止めるわ。
『……ああ、安心なさいな。このお兄さんは私が止めるわ。』
ナイトは、零してしまったのだ。
もう、死んでいる、初恋の人の名を。
『クイン、様……?』
目の前にいる人物は目を見開くと、「え」と呟いた。
『ナイト……?』
「……」
「……」
とある城下町のカフェ。そのカフェの外にて、男女二人が何も話さず見つめ合っているなど他者からすれば気味が悪い光景にしか見えないだろう。
「こちら、ご注文の物です。」
「どうも、ありがとう。」
「え、ああ、……ありがとう。」
クイン、ナイトはウェイトレスに感謝の言葉を伝えると、クインは注文した紅茶……ロイヤルミルクティーに砂糖をたっぷりと入れ始める。あまりの砂糖の量に、多すぎではないか、健康に悪いんじゃないかと思いながらナイトは注文した珈琲を口にすると、クインはクスッと笑った。
「え、っと?」
「ああ、ごめんなさい。貴方が珈琲を飲んでるなんて、なんだか想像がつかなくてね。」
「……そうです、ね。昔、貴方の前でカッコつけたくて珈琲を飲んでましたっけ。」
「ええ。貴方の苦さに悶絶していた時の顔は今でも覚えているわ。」
「やめてくださいよ、黒歴史なんで。」
そんなたわいのない会話をしていたが、やはり気まずくなり、会話がなくなってしまった。
理由はなんとなく、ナイトは分かってる。
(目の前にいるのが、クイン様だなんて……やはり夢でも見ているのか。)
あの後、ナイトは「カフェで話がしたい」とクインに申し込んだ。断られると思っていたナイトだったが、「いいわよ」とまさかの了承。思わずナイトは面を喰らってしまった。
(何から……話せばいいだろうか)
そう、ナイトが頭を悩まされていると、クインは紅茶が入ったカップをコトッとテーブルに置いた。
「……それで、話は何かしら?」
「!」
「話があるから、私を誘ったのよね?」
クインの問いかけに、ナイトは息を呑んだ。
(今しか、ないよな?)
ずっと、ナイトが心の奥底で思っていたことだった。
どれだけ問いかけたくても、もう居ないからと問いかけられなかった、そんな問いを。
「……会ったばかりで、申し訳ありません。ですが、どうしても聞きたいのです。」
「————貴方は、貴方を殺した犯人の顔を、覚えていますか?」
ナイトは我に返った。自分は馬鹿なのかと。
会ったばかりであるにも関わらず、犯人の事を聞くなど。クインがトラウマになっているかもしれないのにとナイトの額から段々汗が流れてくる。
「……」
ポーンはナイトの方を見ずに、テーブルの上に置かれた紅茶が入ったティーカップをじっと見つめ、眉を顰めていた。
まるで、何かを咄嗟に考えているかのように。そして何かを決意したかのように、ポーンは口を開いた。
「……覚えているわよ。」
「!?」
ナイトは思わず立ち上がってしまった。
(……犯人を、覚えている!?)
ポーンは相変わらず、ナイトの方を見ずにただ下を向いていた。
「誰なんですか!犯人は!?」
「ナイト」
「教えてください!誰が犯人なんですか!」
「ナイト。周りの人達が驚いているでしょう。」
周囲の人々は突然立ち上がった青年の様子に心底驚き、困惑している様子であったが、ナイトにとってそれは今はどうでも良かった。
「貴女を苦しませた犯人を、俺は十年間追ってきました!その犯人にっ、報復を——っ!?」
報復をすると言いかけたところで、ナイトは目を見開いた。
「十年間、ですって?」
ポーンの悲しみに満ちた、苦しみに満ちた、怒りに満ちた、なんとも言えないような、そんな複雑な表情を見てしまったからだった。
「………取り敢えず、座りなさい。」
ポーンは目を伏せながら、ナイトに向かって言った。
ナイトは渋々ポーンの言う通りに座った。
「私は確かに犯人を覚えている。けど、教えるつもりはない。」
「…………は?」
意味が分からなかった。今何と言ったのか、クインは自身を殺した犯人を覚えてる。だが、教えるつもりはないと言い切ったのだ。
「憎く、ないのですか?恨んで、いないのですか?貴方を殺した犯人を。」
「……憎んでもいないし、恨んでもないわよ。」
「ッ、何故ですか、何故恨んでいないの、ですか。貴方は憎むべきだ!恨むべきだ!」
「ナイト、強制はやめてくれないかしら。はっきり言って不快だわ。」
クインのその言葉にナイトは思わず顔を顰めた。
確かにその通りだ。
ナイト自身は犯人を憎み、恨んでる。
しかし、クインは犯人を憎んでも、恨んでもない。それなのに、ナイト自身の感情をクインに強制的に強いたのだ。
「……申し訳、ありません。」
「…………本気で、」
「?」
「本気で犯人を、憎んでいるのね。……貴方は。」
「……はい。ですが、貴方にその感情を強制的に強いてしまいました。本当に、申し訳ありません。」
「別にいいわよ、私こそ声を荒げてしまってごめんなさいね。……本気で、憎んでいるのね。」
クインは静かにテーブルの上に置かれた紅茶が入ったティーカップに手をつける。
クインは何かを決したかのように、「ナイト」と口を開いた。
「もし、もし、私に協力してくれるのであれば犯人のヒントを教えましょう。」
「……え、い、いいのですか、本当に!?」
歓喜。
今のナイトの心情を一言で表せばその一言だろう。
それも当然だ、十年以上犯人を追い続けたナイト。そしてついさっき犯人を知るクインは教えるつもりはないと断言したのだ。
そんなクインから犯人のヒントを教えてもらうのだ。今、歓喜しないでいつ歓喜するのだろうか。
「でも」
「でも?」
「でも、貴方が犯人に辿り着いた時……貴方は、絶望、するでしょうね。
——————それでも、ヒントを、得たい?」
「ッ、」
クインはいつになく真剣な表情をナイトに向けた。
(……クイン様がそう言うってことは、犯人は……幹部の誰か、なのか。)
それは、クインが犯人を教えるつもりはないと断言した時から思っていたことだ。
ナイトが幼い時から兄を含む幹部達とは仲が良く、よく可愛がってもらえたのだ。
(クイン様は、それを…………)
犯人が幹部の誰かだった場合、ナイトが傷つくのをクインは懸念している。
ナイトは、考える。
本当に————良いのかと。
このまま知らずにいた方が……幸せなのではないかと。
確かに、無知は罪だ。
だが、知らずにいた方が幸せなのもまた事実だ。
(でも、ずっと、ずっと望んでいたことだった。)
————犯人が誰か、知りたい。
意を決したように、ナイトは口を開いた。
「構いません。……俺は、全部受け止めます。」
「……全く、本当に貴方って子は。」
クインは、まるで子供の我儘に困っているように苦笑すると、クインはナイトに手を差し伸べた。
「私はクインだった。だけど、今はちょっと違う。」
「私は、私の今の名前はポーン。ただの村娘よ。」
「……よろしくね、ナイト。」
ポーンは紅茶好き、特に好きなのがロイヤルミルクティー(砂糖たっぷり)。一方ナイトはカフェオレ好きですが、ポーンの前でカッコつけて珈琲を飲みました。昔と変わってないね。
伏線貼ったけど回収できるか不安じゃあ……頑張ります。




