プロローグ
かつて、シャトランジ王国は資源が豊富な大国だった。
鉄、魔鉱石、魔水晶。
戦争に必要なものは、殆どはこの国から採れた。
その資源を狙って戦争を仕掛ける国も少なくなく、争いが絶えなかった。
そして、十年前に隣国のデレルム魔道国と戦争が勃発。
そんな最中、当時シャトランジ王国の女王クイン・シャトランジが何者かにより殺された。
女王の死因は頭部を重い鈍器で殴られたことによる脳出血だった。
死亡推定時刻は午後一時から三時。
クインが死んだことにより、当時王国に仕えていた7人の幹部たちが仲間割れをし、内ゲバ……通称内部ゲバルトが発生。
当時デレルム魔導国が戦況が不利だったものの、これにより形勢は逆転。デレルム魔導国に国の領地を半分以上奪われてしまった。
現在、幹部の一人だったルーク・バックランクが国軍の指揮官として戦線に出て少しずつ領地を奪い返している。
そして、クインを殺害した犯人は見つからず、現在に至る。
「……まあ、誰も知らなくていいのだけどね。」
彼女はティーカップに淹れられているレモンティーを口に運ぶ。
「…………"犯人"の事なんて。」
そう呟いたのは短い白髪に赤い瞳が特徴の少女だった。
少女は人間……いや、人造人間である。
この世界ではホムンクルスの製造は基本的に犯罪だ。
ただし例外がある。
隣国デレルム魔導国。
あそこだけはホムンクルスの製造は合法だ。
そしてホムンクルスの最大の特徴は、彼らには自我がない。
だが、少女には明らかな自我がある。でなければ優雅にレモンティーを飲みはしない。
そんな彼女だが、現在シャトランジ王国の地方にあるガース村の老夫婦の養子として迎えられていた。
テラスにいた少女だったが、「どうしようか。」と、倉庫の方から老人の声が聞こえてきた。
彼女はティーカップをテーブルに置くと、席を立ち、老人の声がした倉庫へ足を踏み入れる。
「どうしようか……うーむ」
「……どうしたのですか?スミスさん。」
「いやあ、徐草剤が切れちまってな。」
「なら、私が買ってきますよ。ちょうど城下町まで行きたかったので。」
「本当かい?ありがとうねえ、ポーンちゃん。」
彼女の名は、ポーン。
十年前に殺された"クイン・シャトランジ"の生まれ変わりである。
彼女は洗面所に向かうと、黒染めスプレーで自分の髪を染め始めた。
すると、後ろから老婆から声をかけられる。
「あら、染めちゃうの?」
「あ、ステラさん。はい、目立ってしまうので。」
「生きにくい世の中になったものねえ」
「そうですねえ」
ポーンのホムンクルス特有の美しい白髪は目立ってしまう。
隣国のデレルム魔導国のホムンクルス製造が合法なのだ。
ただでさえ、シャトランジ王国とデレルム魔導国が対立している上に街中でホムンクルスが歩いていたら間違いなくデレルム魔導国からの密航者、スパイだと思われてしまうからだ。
「あの人のお使いにいくのでしょう?これ、お小遣い。あのひとのおつかいが終わったら、これで好きなもの買っておいで。」
「!ありがとうございます。」
「気をつけてね。」
「はい、行ってきます。」
少々の荷物を持って、ポーンは前を向く。
ガース村から城下町に向かう手段として金を払うと乗せてもらえる移動馬車というものがある……要するにバスみたいなものである。その馬車で向かうとニ時間半かかる。
「さて、行きますか。」
指定されている停車場で移動馬車を待つ。
しばらくすると、移動馬車が現れ、金を払うと、その馬車でポーンはシャトランジ王国にある城下町に向かう。
そこで、とある出会いがある事を知らずに。
――――――
(……あの頃とだいぶ変わったなあ)
無事に除草剤を買い終えたポーンは城下町の様子を見ながら、静かにそう考えていた。
一見普通に見える城下町だが、路地をふと見ると浮浪者、ボロ着を着た子供などが物乞いをしているのが見えた。
(……ちゃんと、対策は施されているのだろうか。)
ポーンが城下町に行きたかったのは別に欲しいものがあったからじゃない。
ただ、城下町に住む住民の様子が気になっただけだ。
(ルークなら大丈夫だと信じていたけど、一体何をしているんだか……)
ルーク。
ポーンがクイーンだった時に国の幹部の一人であり、クイーンが信用を寄せていた相手だった。
「……全く、私がいない間に彼らに何があったというの。」
ポーンが呟いた瞬間、何かすばっしこいものが横を通り過ぎた。
一瞬風か何かかと思ったポーンだったが、すぐ後ろから「待て!」という青年の声が聞こえる。
「オレの腕時計返せ!」
青年はポーンの横を通り過ぎていく。
「ひったくりか……」
よく見ると、小さな子供が手に腕時計を持っているのがポーンには見えた。
「……」
ポーンは何だか通り過ぎていった子供と青年の様子に気になった。
何故気になったのかはポーンにはわからない。好奇心からなのか、それとも国民を想ってのことなのか。
気がつけばポーンは走って、二人の後を追いかけていた。
――――
「やっと、追い詰めた!」
「っ、」
青年は路地の奥まで子供を追い詰めた。
「頼む。その腕時計はとても大切なものなんだ。返して欲しい。」
青年は懸命に訴えるが、子供は眉を顰め「いやだ!」と声を上げる。
「お前のバッチの紋章、軍のやつだろ!返した途端におれを殴るんだ!絶対そうだ!軍のやつの言うことなんか信じるもんか!」
「えぇ、」
どうしたものかと青年が頭を抱えていた、その時「見つけた!」と女性の声が聞こえ、青年が後ろを振り返る。
一人の黒髪に赤い瞳の女性が立っていた、ポーンである。
「えっと、貴女は?」
見覚えのない女性に首を傾げる青年に、「ただの通りすがりの者よ、気にしなくていいわ」とポーンは返す。
「坊や。私は軍の者ではないわ、ただの通りすがりよ。」
「そんなの嘘ついてるだけだろ!それに、知らない人に話すことなんて何もないよ!」
「あら、ちゃんとしてるじゃない。……はい、これ。」
「え……」
ポーンは子供の目線に合わせ、しゃがむと渡されていたお小遣いを「坊や」と呼んだ子供に渡す。
困惑する子供にポーンは優しく、言葉をかける。
「それはその時計のお駄賃よ。だからお兄さんにちゃんと返してあげなさい。
……ああ、安心なさいな。このお兄さんは私が止めるわ。」
ポーンが言うと、子供は不服ながらも青年に腕時計を返した。
「気をつけてね。」
ポーンはそう言うと、子供を見送った。
(……帰るか)
ポーンが帰ろうとしたその時、ガシッと青年がポーンの手首を掴んだ。
「えっと、離してくれない?」
「……」
青年は目を見開きながらも、ポーンを見つめる。
「クイン様……?」
改めて、青年の顔を見たポーンも目を見開く。
その顔は忘れもしない十年前、可愛がっていた子の顔だったから。
「ナイト……?」
生まれ変わったら国がめちゃくちゃになってるし、幹部達が昼ドラ真っ青な仲間割れしてる……うわぁと内心ドン引きしてる主人公ポーンと語り手ナイトが頑張る話です。
ミステリー作品を書くのは初めてです!!どうか、よろしくお願いします〜!!




