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時の虜  作者: 古都麿
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第8話 歩美の危機

それからしばらくは色んな噂がたった。

「何であんな地味な子が?」

とか。

「皇帝陛下はロリコン?」

とか。

確かに私は少し発育が良くない。

胸も小さい。

まだ中学2年生だからこんなものだと思いたいけど。

私はもう成長できない。

胸もお尻も小さいまま。

何というか、自分が不老不死であることを最初に実感するのがこんなことだったなんて、想像してなかったな。

他のクラスの子達がうちのクラスを覗きに来てた。

でも、1ヶ月も過ぎる頃にはみんな飽きたのか、覗きに来る子もいなくなって、噂を耳にすることも無くなった。


そして。

もうすぐ、期末試験が始まる。

もしかして、成績悪かったら。

“皇帝陛下の婚約者は実はバカでした”

とか言われちゃうのかな。

そんな記事書かれたら、お兄ちゃんに顔向けできない。

そんなことが気になって、普段よりしっかり勉強した。


夏休み。

宰相閣下が胃痛を抱えながら準備してくれた婚約の儀が7月末に行われた。

夏休みの前半にやってしまえば、2学期が始まる頃には騒ぎも収まってるだろうとお兄ちゃんが配慮してくれた。

その分、宰相閣下は激務だったようだけど。

お兄ちゃんは外向けの形式的なものだからどうでもいいと言うけれど、せっかくなら、みんなに祝福してもらえたら嬉しい。

そして、激務に耐えた宰相閣下にはお菓子を焼いて持って行った。


8月に入った初日。

プルルルル

志保からの電話。

「詩織、今からそっち行っていい?」

「いいけど、どうしたの?」

「後で話す」

「うん、わかった」

ずいぶん切羽詰まった声だった。

何があったんだろう?


ピンポーン

「志保、どうしたの?」

玄関を開けると志保がすごい形相で立ってた。

その後ろには歩美。

泣いてるの?

「とにかく入って」

二人を自分の部屋に案内した。

「何があったの?」

聞いても二人とも何も言わない。

「歩美、言っていい?」

志保の問いに歩美は黙って頷いた。

「歩美のお母さんが再婚したのは知ってるよね」

「うん」

「その再婚相手に襲われたんだって」

「えっ?」

襲われた?

義理のお父さんに?

「ねえ、詩織

歩美をこのまま家には帰せないよ

お兄さんの力、借りられないかな?」

あぁ、そうか。

お兄ちゃんなら何とかできる。

「お兄ちゃん呼んでくる」


「お兄ちゃん」

「どうした?自分から執務室に来るなんて」

「ちょっと、いいかな?」

「私の部屋に」

お兄ちゃんもただならない気配を察してくれたのかすぐにデスクを片付けて。

お兄ちゃんを連れて部屋に戻ると歩美は志保に抱えられるようにして眠っていた。

「何があった?」

ただならない雰囲気にお兄ちゃんが緊張してる。

「実は」

志保が歩美に起こったことをお兄ちゃんに説明した。

「……」

お兄ちゃんは黙って聞いていたけど。

「今日のところは二人とも泊まっていきなさい」

「志保ちゃんは家には連絡しておくんだよ」

「はい」

お兄ちゃんはそれだけ言って執務室に戻って行った。

その日は私の部屋にお布団をひと組持ち込んで、ベッドに歩美と私、お布団に志保。

夜中に何度か歩美が目を覚まして、怯えたように泣くので、昔お兄ちゃんがしてくれたように歩美を抱えて、背中をトントンした。


翌朝。

三人でリビングに降りるとお兄ちゃんがすでに起きていた。

起きていた?

もしかして寝てない?

「お兄ちゃん、もしかして寝てない?」

私の質問に笑顔を浮かべて。

「とにかく、座って」

三人はダイニングテーブルに着いた。

「歩美ちゃん、これから大事な話をしたいんだけど、いいかな?」

「……はい」

「これからする話は、できるできないは別として、歩美ちゃんがどうしたいかだけ教えてくれる?」

歩美はこくりと頷いた。

「歩美ちゃんは、家に帰りたくない?」

「帰りたくないです」

「帰りたくないとなると、親戚の家とか、頼れる先はある?」

「ないです」

「歩美ちゃんは、今後の進路をどうしたい?」

「進路……ですか?」

「そう、別に具体的な学校が決まってる必要はなくて、たとえば大学は卒業したいとか」

「今はまだ、具体的には考えてませんが……」

少し考えてから。

「大学に行けるなら、行ってみたいです」

「歩美ちゃん、詩織と一緒に暮らすのは、どう?」

「詩織と?」

歩美は私を見る。

「いや、詩織とは嫌だったらそう言ってくれてもいいから」

お兄ちゃん、ひどくない?

「そんな、嫌だなんて絶対ありません」

歩美は慌てて両手を胸の前で振った。

「これが最後の質問だけど」

息を飲む歩美。

「働きながら学校に行くのはどう?」

「働きながら……ですか?」

「今まで考えたことなかったので……」

歩美は俯いた。


「歩美ちゃん、一つ提案させてもらっていいかな?」

「はい」

「詩織の侍女にならない?」

「侍女?」

「詩織はいずれ皇后になる」

「はい」

「当然、侍女がつくことになる

その侍女を歩美ちゃんにお願いできないかと思って

一応説明するとね、

家には帰りたくないんだよね?」

「はい」

「そしたら親戚を頼るか、施設に入ることになるけど

どちらにしても、経済的理由で大学に行くことは難しくなる

そうなると、自分でお金を稼いで生活するしかないんだけど

世間一般の賃金では進学を考えるのはやはりむずかしい

時間的にも制約されるからね」

歩美は俯いたまま聞いている。

「でも、詩織の侍女になれば、住む場所は保障される

皇后の専属の侍女なら、賃金も十分払える」

歩美は少し震えている。

「しおりに雇われる立場になるのは抵抗があるのはわかるよ」

歩美は小さく頷く。

「でもね、侍女には、単なるメイドと違って下働きよりも

詩織の身の回りのお世話係という役割と

友人とか相談相手とかの役割の方が重要なんだ」

歩美が少し顔を上げて、上目遣いでお兄ちゃんを見つめる。

「侍女という立場を利用して

これからも詩織の友達でいてくれると嬉しいんだけど」

「はぁ」

「侍女には友人としての役割もあるから

詩織と同じ学校に通っている限り仕事として扱って

その時間も賃金の支払い対象になる」

「今すぐ、決めなくていいから、ゆっくり考えてみて」

「はい」

お兄ちゃんは今度は志歩に向かって。

「さて、志保ちゃん」

「はい?」

志保は自分にも話が振られると思ってなかったみたい。

「志保ちゃんは、詩織の侍女になる気はない?」

「えっ、私もですか?」

「志保ちゃんと歩美ちゃんは、対等な友達なんでしょう?

俺は、立場上、誰かを依怙贔屓して便宜を図ることはできない

だから、誰からみても公正な差配をしないといけない

幸い、二人はすでに詩織の親友という特別な立場にいる

侍女候補として、誰がみても違和感がない人選なんだ」

「表向きは使用人として振る舞ってもらわないといけないけど、私的時間は今まで通りの関係でいいから」

「お兄ちゃん、もしかして、これを昨夜寝ないで考えてくれたの?」

「まあね」

くすんくすん……

歩美が泣き出した。

「嬉しい」

泣きながら呟く。

「皇帝陛下にここまでしていただけるなんて」

歩美が顔を上げた。

「ぜひ、侍女として働きたいです」

そう言った歩美の顔は泣き笑い。

「その代わり」

お兄ちゃんはちょっとイタズラっぽい目で。

「詩織と同じ学校に進学してもらわないといけないんだけど

詩織の成績なら、簡単でしょ」

ん?

どういう意味?

あっ!

「ちょっと、お兄ちゃん!それひどくない?期末試験の結果、気にしてるんだからね」

ようやくリビングに笑いが戻った。

その後、お兄ちゃんは歩美と志保の帝国籍への転籍と成人宣言の手続きを宰相閣下にお願いしてくれた。

宰相閣下には、お菓子だけじゃなくて、お弁当の差し入れもしとかなくちゃ。

喜んでくれるかな?


その日の午後。

「宰相」

「はい陛下」

「吉村歩美と長谷川志保の帝国籍編入と成人宣言の手続きを進めてくれるか」

「吉村歩美と長谷川志保ですか?

どういうお方で?」

「詩織のクラスメイトだ」

「また中学生を?

今度は側室ですか?」

なんで嬉しそうなんだよ。

「詩織の侍女だ」

「詩織様の……」

なんで落胆してるんだよ。

「それと、吉村歩美の父親を調べてくれ」

「何か気になることでも?」

「いや、暴行の疑いだ」

「処分するにも裏を取りたい」

「かしこまりました」


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