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時の虜  作者: 古都麿
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第7話 婚約発表の日

6月のある日。

「校長先生」

事務員が校長室にやってきた。

何やら様子がおかしい。

「どうした?」

「実はお電話が入っておりまして」

「校長先生に取り次げと」

「誰から?」

「宮内省の方と申しております」

「宮内省?」

教育委員会ならわかる。

なんで宮内省から電話がかかってくるんだ?

「どうしましょう?」

どうしましょうと言われても、電話に出るしかないだろ。

「繋いでくれ」

一体何事だ?

疑問に思いながらも受話器をとった。

「校長先生ですか?宮内省儀典局の山下と申します」

「校長の森下です」

「本日、13時から政府広報で重要発表が行われますので、必ず視聴するようにしてください」

「14時ごろにもう一度後連絡しますのでよろしくお願いいたします」

「一体何があったんですか?」

事態が飲み込めずに尋ねても。

「政府広報を見ていただければわかります」

「では、よろしくお願いします」

受話器を置いて呆然としていると。

気づけば事務員が心配そうに見ている。

「すまないが、全教職員に13時に職員室に集合するよう連絡してくれ」

慌ただしく校長室を出ていく背中を見送りながら。

「一体なんなんだ?」

嫌な予感しかしない。


13時。

職員室に教職員が集まってテレビを見ている。

テレビに登場したのは宰相。

なんで官房長官じゃなくて宰相なんだ?

「本日、この発表を行うことを光栄に思います」

「皇帝陛下がご婚約されました」

「お相手は」

一呼吸おいて。

「中野詩織さん、常和中学に通う女性です」

は?

常和中学って、どこの?

うちじゃないよな?

テレビの中では、宰相がお相手女性のプロフィールを紹介しているが、一切頭に入ってこない」

朝の電話はこれだったのか?

だとして。

「うちに中野詩織はいるのか?」

スッと手を挙げたのは中山先生。

「うちのクラスにいます」

「今すぐ呼んできて」

教頭が職員室を飛び出して行った。

うちの学校に皇帝のお手つきになるような美少女いたっけ?


教頭が戻ってくると、後ろに女子生徒がついてきている。

小柄で華奢な地味な女子。

「中野詩織さん?」

「はい」

この子が?

皇帝の趣味がよく分からない。

「今、政府広報で皇帝陛下の婚約発表があったんだけど」

「はい」

「君が婚約者で間違いないのか?」

「はい、間違いありません」

ちょっとはにかむような表情。

マジかよ。

で、呼び出したのはいいけど、どうすりゃいいんだっけ?


プルルルル

「はい、常和中学です」

事務員が対応しているのを緊張しながら見ていたら。

「校長先生、宮内省からです」

きたか。

何言われるんだ?

「お電話変わりました、森下です」

「宮内省の山下です」

「政府広報はご覧いただけましたか?」

「はい」

「では、改めまして」

一呼吸おいて。

「勅命である

中野詩織を特別扱いすることなく、普通の中学生として中学生活を送れるようにするよう命じる!

以上」

チョクメェ〜?

何言ってんの?

配慮してほしいじゃなくて勅命?

命令なの?

逆らうと処分されんの?

「では、よろしくお願いします」

それだけ言って電話切りやがった。

「校長、宮内省はなんと?」

教頭が恐る恐る聞いてきた。

「普通の中学生として中学生活を送れるようにしろだと

しかも勅命」

「勅命?

大変じゃないですか!

どうするんですか?」

いや、お前も考えてよ。

「どうもこうも」

そう言って頭を抱えた。


「あの、私はどうすれば?」

あっ、本人忘れてた。

「そ、そうだね」

どうしよう。

そうだ。

「今日はもう帰っていいよ」

先送りだ!

5時限目は結局自習になってしまっているし、6時限目は休講にして、とにかく生徒を先に返してしまおう。

「皆さん、今日の6時限目は中止にします

生徒を先に返してください

今日は部活も禁止です」

そこまで指示して。

「はぁ〜」

つい、ため息が漏れた。

俺、なんか悪いことした?

なんでこんな目に遭うの?

来年には定年なのに。

このまま何事もなく終われると思ってたのに。

「校長、これからどうします?」

教頭も困った顔してるなぁ。

「普通の中学生ったって、もう普通じゃなくなってるじゃん

どうするよ、みんな?」


もはや、職員会議の体をなしていなかった。



婚約発表の翌日。

お兄ちゃんから、学校の方は今まで通りだから、安心して行っておいでって言われた。

マスコミには取材禁止、学校に通常の中学生活できるようにという勅命が出てるらしい。


通学路は特に問題はなかった。

学校に着いて教室に入ると教室がシンとした。

やっぱりこうなるよね。

その時。

「中野さん、放課後時間もらえる?」

男子が声をかけてきた。

確か、吉田くん。

何だろう、声が震えてる。

「うん、わかった」

とりあえず、そう答えた。

今日はみんな私をどう扱っていいか困ってるみたい。

いつも通りにしてくれればいいのに。


放課後。

吉田くんに声をかけた。

「吉田くん、話って何?」

吉田くんはビクッとした。

「ここではちょっと」

そう言って校舎裏に連れて行かれた。

「それで、何?」

疑問を口にした。

吉田くんとはこれまであまり話したことなかったから。

「中野さん、皇帝の婚約者に選ばれたって」

やっぱりそのこと。

「うん」

本当のこと。

「どうして?」

「どうしてって……」

何の疑問だろう?

「無理やり?」

「えっ?」

なんのこと?

「権力か何か、無理やり……」

「ちょっと、何言ってるの?」

吉田くんは私が無理やり婚約させられたと勘違いしてして心配してくれてるの?

「何か勘違いしてない?

私、陛下のこと、好きだよ」

お兄ちゃんが好き。

「今回のこと、私の望んだことなの」

「そんな、嘘だ!」

「いや、嘘じゃないし」

確かに誤解されても仕方ない状況かもしれない。

「心配してくれてありがとう」

吉田くんて、こんなふうに優しい人だったんだ。

「でも、吉田くんが考えてるようなこと、全然ないから」

吉田くんは一瞬くるしそうな顔をして。

「もしかして、皇帝陛下とは2年生になってから?」

「うん」

少し悲しそうな顔。

「話ってそれだけ?」

「うん」

「それじゃ、もう行っていいかな?」

「うん」

私はカバンを取りに行くために教室に戻った。


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