↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の虜  作者: 古都麿
PR
26/28

第26話 社会との隔絶〜別離

「詩織」

志保が鎮痛な表情でやってきた。

「歩美、亡くなったって」

「えっ?

うそ?」

「本当だよ。

こんなこと、嘘や冗談で言わないよ」

「いつ?」

「昨日の夜

今日、お通夜で明日葬儀だって」

そんなこと。

信じられない。

70歳を過ぎたところで年齢を理由に侍女を辞めたけど。

辞めてもしばらくは会いにきてくれてたけど、ここ2年ほど顔を見ていなかった。

「私は、葬儀には参列するけど

詩織は無理だよね」

志保の言葉が胸に刺さる。

最期のお別れすらできない。

「ごめん、ちょっと一人になりたい」

そう言って、皇后の間に逃げ込んだ。


歩実との思い出が昨日のことのように蘇ってくる。

いつも私に寄り添ってくれてた。

婚姻の儀の朝、“詩織の願いが叶う日だから、精一杯綺麗にしないとね“って、髪を整えてくれて。

建国祭の時には真っ青な顔して駆けつけてくれて、すごく心配かけちゃった。

修学旅行の時に鹿にドンされて、吉田くんの背中で真っ赤になってた。

あれがきっかけだったよね。

卒業式で第二ボタンもらって、あの時はまだ“もう、知らない!”って照れてたけど。

でも結局結婚しちゃうんだもん。

結婚して子どもができて。

あの頃から、歩美の人生に、私が失くした未来を重ねてた。

もう、家族以上の存在だったのに。


これから何度、こんなことを繰り返さなきゃいけないの。

これじゃまるで呪いだよ。

大切な人がいなくなるのを見続けなきゃいけない呪い。

決してこの呪いからは逃れられない。

私は、この呪いを抱えて生きていかなきゃいけないの?

もう、やだよ。


結局、二日間皇后の間に閉じこもってた。

気持ちが落ち着いて皇后の間を出たら、志保が待っててくれた。

「詩織、歩美がね、詩織に伝言残してた」

えっ?

「歩美が?」

「うん

“あの時、反対してくれてありがとう”って」

だめだ、また。

私は座り込んで泣いてしまった。

「詩織」

いつの間にかお兄ちゃんがいて。

私を抱き上げて皇后の間のベッドに降ろしてくれて。

隣に座って何も言わずに肩を抱き寄せてくれた。

お兄ちゃんにもたれて、気持ちが落ち着くまで寄りかかってた。

「お兄ちゃん、“あの時、反対してくれてありがとう”だって」

「そう」

お兄ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。

歩美が子どもと孫に囲まれて天に召されたのなら、あの選択は間違いじゃなかったと思っていいよね。

歩美は祝福を受けたんだ、そう思いたい。


今日はお兄ちゃんと執務室。

志保が年齢を理由に辞任を申し出たので、後任人事について、志保からブリーフィングを受ける予定になっている。

なのに、志保が来ない。

今までそんなことなかったのに。

「私、見てくる」

お兄ちゃんの執務室を出て宰相室に向かう。

胸騒ぎがする。

コンコン

ノックしても返事がない。

ドアノブを捻ると鍵は開いていた。

不在なら鍵をかけるはず。

ドアを開けると。

「志保!」

志保がデスクに突っ伏してる。

「詩織、ごめん、行かなきゃね」

立ちあがろうとする志保をとめて。

そうだ、電話!

「もしもし、皇宮です

至急救急車を!早く!」

それだけ叫んで受話器を放り出した。

「志保、大丈夫?」

志保が返事しない。

救急隊が駆けつけて、志保を運び出そうとしているところで、騒ぎを聞いてお兄ちゃんが来た。

志保についていかなきゃ。

そう思って、救急隊について行こうとしたところで、誰かに腕を取られた。

振り返ると、お兄ちゃんが黙って首を横に振ってる。

あっ、ついて行っちゃいけないんだ。

私は諦めるしかないの?

やるせない思いで胸が重くなった。


その日の夕方、志保の訃報が届いた。

間に合ったのに看取れなかった。

一緒に行けていたら、最後まで手を握ってあげられたのに。

志保もいなくなちゃった。

やっぱり呪いだ。

気がつけば、皇帝の間でお兄ちゃんにしがみついていた。

どうやってここまで来たのか覚えてない。

お兄ちゃんはやっぱり何も言わず、ただ一緒にいてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。