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時の虜  作者: 古都麿
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23/28

第23話 巣立ち

「陛下」

思い切って陛下に声をかけた。

今日はお兄さんじゃなくて、陛下に用がある。

「どうしたの、歩美ちゃん、改まって」

「実は相談があって」

「ん?」

「卒業後のことなのですが

そのまま詩織の侍女を続けさせていただけませんか?」

私がそういうと、陛下は私の顔をまっすぐに見て。

「歩美ちゃんは、自分の人生を選んでいいんだよ?

恩とか義理に縛られなくていい

ようやく自由に自分の人生を生きられるんだ

夢とか、ないの?」

「私、あんな形で家族と別れてとても悲しかった

でも、そんな私をお兄さんと詩織は温かく迎えてくれました

この8年間一緒に暮らして

これからもずっと一緒にいたいと思いました

ダメでしょうか?」

「歩美ちゃんは、他で仕事することもできる

これから自分の家族を持つことだって出来る

恋をして、結婚して、子供が生まれて」

「はい、それはわかっています

でも、私はやっぱり詩織のそばにいたい」

陛下はしばらく目を閉じて考えた後。

「それが歩美ちゃんの選択なら」

そう言ってくれた。

「はい、ありがとうございます」

自然のお礼の言葉が出た。

「詩織のこと、大切に思ってくれてありがとう」

「詩織だけじゃないですよ」

「えっ?」

「お兄さんもです」

陛下はびっくりしたような顔をした後、照れくさそうな顔をした。

その時、詩織が執務室に入ってきて。

「何の話?」

詩織が陛下と私の顔を交互に見比べながら。

もしかして、二人で話してたの、気にしちゃった?

「歩美ちゃんの今後の話

詩織の侍女を続けたいって」

陛下は何も気づいていないようにそう言った。

「えっ?」

詩織は驚いたように。

「てっきり吉田くんと結婚するんだと思ってた」

詩織はさらりととんでもないことを言った。

「ちょっと詩織、吉田くんはそんなんじゃないよ

ちょっと仲のいい男の子

それだけだよ」

私は事実を言ったつもりだけど、ちょっと言い訳っぽかったかな。

「あれ?そうなんだ

付き合ってるんだと思ってた」

もう、詩織は天然なんだから。

「歩美ちゃん、侍女はあくまでも仕事だから、別に仕事を続けながら結婚したって、全然構わないんだからね」

お兄さんが真顔で言う。

「もう、お兄さんまで」

私は熱くなった頬を膨らませた。


「そういえば、志保は公務員試験受けるって言ってたよね?」

「うん、そう」

私たちは大学で政治経済学部に進んだ。詩織は皇后としての知識を身につけるため、志保は将来官僚になりたいって言ってた。私は侍女として詩織を支えたいというのは表向きの理由で、本音は詩織と一緒にいたかったから。

もちろん、学んだことはこれからの仕事でも役に立つと思う。

「志保って、ほら、あの時の地域ブランドの話

あの時からそういうのに興味ありそうだったもんね」

詩織のいう通り、志保はあの日を境に宰相閣下と時々話すようになって、政治の世界への興味がどんどん強くなっていくのが見ていてわかった。

「みんながそれぞれ自分の人生を自分で選んでくれたら、それが一番だよ」

陛下はそう言って笑った。

私はその言葉に頷いた。

だけど、どうしてだろう。

笑っているけど、その目はなぜか寂しそう。

詩織が私を見る目も同じように寂しさを映していた。


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