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時の虜  作者: 古都麿
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22/28

第22話 芽生え

高校生になって、学業はもちろんだけど、少しずつ、公務も手伝うようになった。

普段は普通の高校生活。

授業に出て、遠足もあって、試験もあって。

でも、学校がお休みの日はお兄ちゃんの隣で会議の様子を見守る。

会議の内容はあまりわからないけど、お兄ちゃんは今はそれでいいって。

今日は戦災による地方経済の停滞についての会議。

地方は都会ほど攻撃は激しくなかったから、インフラの破壊は深刻じゃないけど、もともと経済規模が大きくなかったから、都市部という市場を失って経済が回らなくなった地方が多いらしい。

都市部はインフラ整備すればそれなりに自律的に復興していけるけど、地方はそうはいかない。

失われた物流や人流をどう再生するか、難しいらしい。

「ある程度の予算規模で人の流れを作るためのイベントや地方創生に対する補助事業が必要かと」

財務官僚の人が説明してる。

「補助事業を多数メニュー化し、地方ごとにアラカルト方式で選べるようにすれば、地元に合った対策が採れます」

なるほど。

でも、宰相閣下は渋い顔。

「その予算はどうする?」

「復興特別税として、国民に広く薄く負担してもらってはいかがでしょうか」

「えっ?」

声の方を見ると、後ろで控えていた志保が、しまったという顔をして口を押さえている。

財務官僚は志保をチラリと見てため息をついた。

「長谷川、どうした?」

お兄ちゃんが公務の顔で志保に声をかけた。

「いえ、なんでもありません、失礼しました」

そう言って頭を下げたけど。

「何か気になることがあるのか?」

宰相が尋ねる。

「いえ、なんでもありません

私は申し上げる立場にはございませんので」

志保はただ頭を下げている。

「構わん、申せ」

お兄ちゃんの指示に抗いきれず、志保は口を開いた。

「今ようやく都市部では復興が軌道に乗ってきたところです

うちの実家でも、ようやく生活費じゃない、余裕のために使えるお金ができてきたところです

だから、今増税されると、また使えるお金がなくなります

うちの個人的な事情で申し訳ありません」

志保はそう言って頭を下げた。

ところが宰相閣下は。

「これが生活者の正直な実感だとしたら、増税は良策ではないな」

財務官僚に向かってそういった。

「そうは言いましても、補助事業には予算が必要です」

財務官僚も引き下がれない。

「復興を進めるためにも、ここはぜひ」

「そうは言うがな、財務省は歴史的にも一度掴んだ財源は手放そうとしない

それどころか、一度口が開いたら際限なく税率を上げようとする

お前たちのそういう姿勢が国民に見透かされ不信を持たれていることを知らんとは言わせんぞ」

宰相が手厳しい。

財務官僚は苦虫を噛み潰したような表情で黙る。

「長谷川、生活者の感覚で何か言いたいことはあるか?」

お兄ちゃんに意見を求められ。

「会議冒頭の説明で、物流と人流の回復が課題だとおっしゃいました

イベントを補助事業で行うと、その時は人が集まるかもしれませんが単発で終わることが多いです

私の祖母の街でも、大きなお祭りがあって、その時には人が集まりますがお祭り以外の時は閑散としています」

「ふむ、それで?」

宰相閣下が促す。

「人が集まるためには、人が集まる理由が必要です」

「その理由づくりがイベントじゃないか」

財務官僚が口を挟む。

宰相閣下の眉がぴくりと動く。

「続けて」

「私、今年高校に入学しましたけど、受験の時、進路研究しました

偏差値の高い学校はそれだけで人が集まります

でも、中程度の学校は競争率の差が非常に大きいのです

競争率の高い学校を志望する人には、その学校を目指す理由があるのです」

「ほう」

「例えば、スポーツクラブが強豪だとか、制服が可愛いだとか

それがその学校に行きたい、志望する動機になっています」

「なるほど、ブランドですかな」

「そうだな」

宰相閣下とお兄ちゃんはそう言って考え込んでいる。

「ブランド化により人の流れができれば金も動く

金が動けばその金を狙って別の誰かが動く」

お兄ちゃんはそう言って宰相を見た。

「そうですな

財務省はどうも予算ありきで物事を考えすぎる」

宰相閣下はそう言って財務官僚を睨む。

財務官僚は忌々しげに志保を睨んだ。

「では、地方ブランド化を軸に政策を検討しましょう」

宰相の結論に。

「かしこまりました。それでは早速検討に取り掛かります」

財務官僚が引き取って会議が終了した。

志保、すごい。

志保の意見で国が動くかもしれないんだ。


会議が終わって、皇帝の間。

お兄ちゃんと宰相閣下と私。

志保と歩美が侍女としてお茶を淹れてくれている。

お兄ちゃんと私は紅茶。

宰相閣下はいつもの梅昆布茶。

「財務官僚には困ったものですな」

宰相閣下がため息をつく。

「考え方が硬直化している」

お兄ちゃんもため息をついた。

「志保ちゃんはああいうのに興味があるのか?」

お兄ちゃんが志保に尋ねる。

「興味というか、面白いなとは思います」

その回答に宰相閣下はチラリと志保を見た。

「なんだ、宰相、志保ちゃんが欲しいのか?」

お兄ちゃんはそう言ってニヤリと笑った。

「いえ、そういうわけでは……」

「なんだ、言いたいことを言っていいんだぞ

ここには俺たちしかいない」

「はい、物事をちゃんと見る目を持っているなと思いました」

志保がそれを聞いて複雑な顔をしている。

「宰相の下で鍛えてやるか?

もちろん、本人が望めば、だが」

「志保ちゃん、どうだい?」

志保は考え込んだ後。

「私はまだ高校に入ったばかりです

宰相閣下に下に着く前に勉強しないといけないことがもっとたくさんあります

今はそちらに集中したいです」

志保はキッパリとそう言った。

「若いうちは評価されると浮かれてしまうものです

長谷川さんはしっかりとした考えをお持ちのようだ」

宰相閣下はそう言って志保を見た。

その表情には少し笑顔が混ざっている。

宰相閣下にしては珍しい。

「志保すごいね、宰相閣下がここまで言うなんて」

お兄ちゃんと宰相閣下が視線を合わせて微笑んだ。

その先には未来が映っているように見えた。


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