第20話 卒業式
2月に入ってすぐ。
「陛下、宮内省から問い合わせが来ておりまして」
宰相が珍しく困惑した表情をしている。
「どうかしたのか?」
「どうやら、詩織様の中学から、問い合わせがあったようで
卒業式に参列されるのであれば、来賓のご祝辞を賜りたいとのことらしいです」
「俺はやらんぞ」
「しかし、参列されるのですよね?」
「もちろんだ、しかし、詩織の保護者として、保護者席で大人しくしているつもりだ」
「かしこまりました、そのように回答いたします」
「校長先生、宮内省の山下様からお電話です」
「つないでくれ」
「お電話変わりました、森下です」
「宮内省の山下です
陛下のご意向をお伝えいたします。
陛下は卒業式には参列されますが、来賓としてではなく、あくまでも中野詩織の保護者として参列するので、祝辞は辞退されるとのことです
陛下のお言葉を借りますと
“保護者席で大人しくしている”
とのことです」
「かしこまりました、ありがとうございました」
「校長先生」
「はい」
「来月末で定年退職されるとのこと、お疲れ様でした
第二の人生でのご活躍を祈念しております」
「お心遣い痛み入ります」
電話を切って。
「校長先生、もう山下さんとは仲良しみたいですね」
事務員が笑いながらそう言った。
今日はいよいよ卒業式。
「お兄ちゃん、一緒に行こう」
洗面所でネクタイを締めているお兄ちゃんに声をかけたら。
「もうちょっとかかるけどいいか?」
「いいけど、なるべく早くしてね」
そんなこんなで、歩美、お兄ちゃんと一緒に家を出た。
お兄ちゃんと並んで歩くのは久しぶり。
お兄ちゃんの腕に腕を絡めて。
「詩織?」
お兄ちゃんは驚いたみたい。
「流石に学校に行くのにこれは不味くない?」
「婚約の儀もしたし、建国祭でお披露目もしたし、明日には婚姻の儀だよ
誰も文句言わないと思う」
「ごちそうさま」
後ろで歩美がくすくす笑いながら言った。
学校に着いて歩美と私は一旦教室へ。
お兄ちゃんは体育館の保護者席に。
時間になって、廊下に整列して待機。
先生の合図で行進して体育館に入場。
卒業生指定席に着席。
教頭先生の開式の辞で卒業式が始まった。
その次に国歌斉唱。
国歌は結局、“君が代”が踏襲された。
“君が代は、千代に八千代に さざれ石の巌となりて 苔のむすまで”
まるで、不老不死のお兄ちゃんを象徴するような歌。
そして校歌斉唱。
この歌を歌うのも今日が最後。
そして、卒業証書授与。
ドキドキする。
「中野詩織」
「はい」
名前を呼ばれて壇上に上がる。
卒業証書を受け取って。
礼をして下がろうとすると、校長先生が。
「元気でね」
そう言ってにっこり笑ってくれた。
全員が卒業証書を受け取って。
来賓の祝辞、在校生代表送辞、卒業生代表答辞が終わり、卒業式の幕が閉じた。
見ると歩美が涙を浮かべてる。
一旦教室に戻って。
「中山先生、お世話になりました」
「あはは、君ら三人には悩まされたよ」
先生が笑う。
「えー?どうしてですか?
私たち、いい子にしてましたよ?」
志保が抗議すると。
「ここだけの話、よく宮内省から電話があってね
その度に校長先生が頭抱えてた」
あー、そんなことがあったんだ。
さっきの校長先生の“元気でね”はそういうことだったのか。
ようやく理解した。
私たちの何気ない日常には、先生達の苦労があったんだ。
「先生、ご配慮いただきありがとうございました」
三人並んで頭を下げた。
「気が向いたら、いつでも遊びにおいで」
先生はそう言って見送ってくれた。
ありがとう。
教室を出たところで。
「歩美、吉田くんの第二ボタンもらわなくていいの?」
「ちょっ!やめて!」
歩美が志保をポコポコしてる。
笑いながら振り向くと吉田くん。
あらぁー聞かれたな、これ。
気づいた歩美が真っ赤になって俯く。
吉田くんもどうしていいのかわからないといったふうで。
「よかった、残ってた」
志保は吉田くんの胸を見て言う。
そのまま吉田くんに近づいて。
「歩美にあげて?」
「で、でも」
「嫌なの?」
「嫌じゃないけど」
「じゃあ、ほら」
志保に背中を押されて、吉田くんが第二ボタンを外した。
「これ」
歩美の前に。
「ありがとう」
消え入りそうな声。
歩美かわいい。
「連絡先交換した?」
志保が畳み掛ける。
二人は連絡先交換して。
「それじゃ、また」
志保が言うと。
「というか、三人とも都立だよね?
僕も」
あっ、そうなんだ。
「歩美、よかったじゃん
また一緒に通えるって」
「もう!知らない!」
志保と私は笑ったけど、歩美と吉田くんは黙ったままだった。




