↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の虜  作者: 古都麿
PR
19/28

第19話 受験

「中山先生、心配ですか?」

「あっ、校長先生

そりゃそうですよ

中野さんが落ちたらどうなることやら」

結局、宮内省からなんの連絡もなかった。

教育委員会からもなにもなかった。

この異常事態に驚くほど普通。

だからこそ、結果の重みがのしかかる。

年末あたりから、私立高校の中野詩織争奪戦が始まった。

そりゃ、皇后陛下が入学するとなると学校のイメージアップにつながる。

正直、中野さんが、名乗りをあげた高校のどこかに入ってくれれば、一番平和だったかもしれない、俺のメンタルが。

しかし、中野さんは結局、吉村さんと共に長谷川さんと同じ高校を志望した。

都立の進学校。

中野さん、頑張ってくれよ。


その1ヶ月前。

都立高校の一室。

「校長先生、大変です」

「どうしたんです?そんな大変なことなんてそうそうありませんよ?」

最近の若い者は、なんでも大袈裟に騒ぎ立てる。

「例の、中野詩織の願書が届きました」

「なに!?

大変じゃないか!」

「だから大変だって……」

「教育委員会に相談しないと」

私は慌てて教育委員会に電話した。

「中野詩織の願書が届いたんですが」

「あぁ、そちらに届きましたか」

「そちらに届きましたかじゃありません

どうしたらいいんですか?

都立高校に特別枠なんてありませんよ」

「普通に、学力試験と内申書で選考すればいいじゃありませんか」

「いやでも、点数が足りなかったら」

「その時は落とすしかありませんね」

「いいんですか、それで?」

「いいんですよ、それで」

教育委員会はあっさりしたものだった。

しかし、そのおかげで特別扱いに気を揉む必要は無くなった。

だけど、落ちたらなに言われるか……


詩織は朝、いつも通りに家を出た。

“行ってきます”だけを残して。

3年生になってから昨日まで、ずいぶん頑張ってたからなぁ。

ちゃんと実力を出し切れたらいいなぁ。

今日は、詩織の好きなハンバーグを用意してやろう。

玉ねぎをみじん切りにして透明になるまで炒める。

玉ねぎを冷ましてから挽肉と一緒に混ぜる。

パン粉を牛乳で湿らせて混ぜたら卵を一つ割り入れて、塩をひとつまみ入れて粘り気が出るまでこねる。

これを小分けして両手で空気を抜きながら整形する。

整形したら握り拳で真ん中を少し凹ませて、ラップをして冷蔵庫で寝かせる。

詩織、早く帰ってこないかな。


「ただいまー」

詩織と歩美ちゃんが帰ってきた。

「おかえり」

リビングに入ってきた詩織が鼻をすんすんする。

「ハンバーグ?」

「いい鼻してるなぁ」

「やったー!

玉ねぎを炒めた匂いがしたから」

歩美ちゃんが後ろで笑っている。

「とりあえず、着替えておいで」

着替えを済ませてリビングに戻ってきた二人に紅茶を淹れていると。

「お兄さん、私がやります

私の仕事ですから」

歩美ちゃんがキッチンに来てそう言ったけど。

「歩美ちゃんも今日は疲れてるでしょう

座って休んでて」

そう言ってリビングに戻ってもらった。

三人で紅茶を飲みながら。

「今日はお疲れ様

1年間、よく頑張ったね」

「お兄ちゃん、気が早いよ

そういうの、フラグだよ?」

「別に早くはないだろ

俺たちが知らないだけで、鉛筆を置いた時点で結果は確定してるんだから」

「あっ、そういう考え方もあるんだ」

「だから、お疲れ様

おめでとうはまだだけど」

「お兄ちゃん、フラグを2本も立てないで!」

リビングに笑いが満ちた。


合格発表の日。

選抜合格発表・照会サイトにアクセス。

ドキドキする。

出願した時にもらったIDとパスワードを入力して。

指が震えて上手く入力できない。

何度も間違えながら入力。

学校を選択して。

受験番号とパスワードを入力。

やっぱり指が震える。

そして。

画面には合格の文字。

「やったー!」

これで4月からは高校生だ。

「歩美はどうだった?」

「ちょっと待って、今、確認してる

あっ、私も合格だ!」

「歩美、やったね!」

二人で抱き合って喜びを分かち合っていると。

プルルルル

スマホが鳴った。

志保からだ。

「はい」

「詩織、受かったよ!」

「よかった!これでまた、三人一緒だね」

「先生には報告した?」

「あっ、まだだった」

電話を切って、学校に電話する。

「あっ、中山先生

合格しました

歩美と詩織も一緒です」

「おめでとう、頑張った甲斐があったな」

「ありがとうございます」

先生が労ってくれた。

そして、お兄ちゃん。

見ると、リビングの入り口でこちらを見て笑ってる。

「聞こえてたよ、おめでとう」

私はお兄ちゃんの胸に飛び込んだ。


「校長先生

中野と吉村と長谷川は合格したそうです」

「そうですか、よかったです」

校長は心底安心したような顔をした。

「中山先生、2年間ありがとうございました」

校長から頭を下げられた。

これ、フラグじゃないよな。

卒業式明日なんだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。