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時の虜  作者: 古都麿
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第17話 出会い

「詩織はもう友達じゃない、家族です」

その言葉が頭の中で何度も響く。

「家族か」

つい独り言が漏れていた。

家族……

詩織も、守りたい女の子だったのがいつの間にか家族になっていて、あの日、詩織を失うかもしれないと思った日から、恋人であり婚約者になった。


始まりは5年前のあの日。

俺は進駐してきた中国軍に追われていた。

街には虐殺、暴行、略奪が溢れていた。

息も絶え絶えに逃げる途中、避難途中の家族とぶつかった。

倒れ込んだ俺に、その家族の娘が。

「お兄さん、大丈夫?」

そう尋ねた。

「だいじょ…う…ぶ」

肩で息をして言葉にならない言葉を絞り出した俺に、背負っていたリュックからペットボトルを取り出して。

「お水、飲む?」

そう言って、水を飲ませてくれた。

「詩織、早く!

逃げるわよ」

母親らしき人がそう言って娘の手を引いた。

娘は何度も振り返って俺を心配そうに見ていた。

自分たちも必死のはずなのに。

去っていく家族を見送って俺も逃げることにした。

逃げる?どこへ?

もうこの国には安全な場所なんてない。

政府が無抵抗で降伏した瞬間にこの国は終わったんだ。

降伏したら戦争にならない。

そんなお花畑な連中のせいで。

その時。

バンッ!

という音とともに、すべての感覚が消えた。

いや、感覚が消えたと気づいたのは意識が浮かび上がってきた時だった。

その瞬間、世界の構造が見えた。

たくさんの空間が複雑に折り重なっている。

その構造が見えた時、俺は確信した。

この世界はいじれる。

そうして俺はいくつかの世界を見た。

その中に、額に穴が空いた俺の死体があった。

殺されたのか。

俺はその時初めて、自分が殺されたことに気づいて途方に暮れた。

しかし、世界はいじれる。

俺は色々試し、空間操作によって自分を再構成した。


そういえば、あの家族はちゃんと逃げ延びられただろうか。

俺が死ぬ直前にお水をくれた娘が気になった。

無事に逃げ延びてくれればいいが。

その時。

うわーん

女の子の鳴き声が響く。

まさか、あの子が?

俺が見つけた時、娘は血まみれの両親に縋り付くように泣いていた。

あの時水をくれた女の子。

その向こうに中国兵が迫る。

「危ない」

俺は咄嗟に叫び、中国兵の上半身のあたりの空間を切りとった。

上半身を失い倒れる兵士。

俺は泣いている女の子を抱き上げその場から逃げた。

俺を殺しやがって。

俺の死の直前に優しくしてくれた子を泣かせやがって。

住民が避難して空き家になったと思われる家に隠れた。

娘は泣き疲れて眠っている。

俺もその隣で眠った。

時々、ビクッとして泣き出す娘。

俺はその度、娘を抱き寄せ、背中をトントンして寝かしつけた。

確か、母親は詩織と呼んでいた。

その日から、俺と詩織の共同生活が始まった。


ふー

ため息をついて天井を見上げる。

中国に対する復讐。

旧政府に対する粛清。

戦後復興。

殺伐とした毎日。

そんな俺が正気を保っていられたのは詩織がいてくれたから。

最初は夜毎うなされて泣く詩織を宥めるのに必死だった。

それがいつの間にか俺の横で安心したような表情で眠るようになって。

その寝顔を見るたびに、殺戮で荒んだ心が慰められた。

俺には詩織がなくてはならない存在になっていた。

だからあの日、詩織が余命3ヶ月と言われた日、俺は絶望した。

また、一番大切なものを失うのか?

詩織を失いたくない。

そして辿り着いた答えが、俺と同じ存在にすること。

あんな形でしか詩織の命を繋ぐことはできなかった。

俺には未来を見通す目はない。

こんなふうになるとは予想していなかった。

いや、目を背けていただけか。

目を閉じると、あの日の詩織の顔が浮かぶ。

正解だったかどうかなんてわからない。

でも、後悔はない。

これしかなかったんだ。

だから、なんとしても、詩織の日常を守りたい。

そして、詩織の隣で支えになりたい。

それが俺の願い。


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