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時の虜  作者: 古都麿
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第16話 気付き

「歩美、どうしたの?」

詩織が顔を覗き込む。

「ううん、なんでもない」

とは言ったけど、なんでもないことはない。

私がこのところ詩織に抱いている違和感。

一緒に暮らしているのに、詩織が美容院に行ったところを見たことがない。

それなのに、いつも同じ髪の長さ、同じ髪型。

以前、重い病気で余命3ヶ月と言われたと聞いたことがあるから、薬のせいで髪が抜けて、ウィッグなのかとも思ったけど、修学旅行の時、普通にシャンプーしてた。

それに。

爪を切ってるところも見たことない。

綺麗に切り揃えられた爪。

そして、去年から変わらない外見。

確かに早くに成長が止まる人もいるけど、それにしても体型も全く変わってない。

とはいえ、体のことは本人も気にしているかもしれないから、気軽に触れていい話題じゃない。

詩織、本当に大丈夫なんだろうか。

何か抱えているなら力になりたい。

だけど、どう切り出したものか、見当もつかない。

そんなことが気になり始めて、もう2ヶ月。

詩織のお兄さんに相談してみよう。


その日の夜。

詩織はお風呂に入っている。

詩織のお兄さんはリビングのソファーにいる。

「あの、お兄さん」

「ん?どうしたの?」

「あの、陛下にではなく、お兄さんにお話が」

「とにかく座って」

お兄さんは優しくソファーの隣をポフポフしてくれた。

お兄さんの隣に腰掛けて。

「あの、詩織、大丈夫なんですか?」

「ん?、どういう意味?」

私は詩織に抱いている違和感を口にした。

「もう、1年近く一緒に暮らしていますけど、詩織、一度も美容院に行ってないですよね?

最初はウィッグかな?とも思ったんですけど

修学旅行で一緒にお風呂に入った時、普通にシャンプーしてたし」

そこまで言って、お兄さんの顔を見たら、ちょっと困った表情。

「それに、外見も去年のままです

もしかして成長が止まってることを気にしていたらいけないので、本人には聞いてませんが

でも、もしかしたら病気なのかもしれないと思って」

「歩美ちゃんは、本当のことを知りたいの?」

私は知りたいんだろうか?

ううん、違う。

詩織が一人で何かを抱え込んでいるとしたら、力になってあげたいだけ。

「知りたいというのとは違うと思います

詩織が、何か一人で抱えて苦しんでるなら、私も力になりたい」

「歩美ちゃん、詩織のことを思ってくれてありがとう」

そう言って、頭を撫でてくれた。

そこへ。

「あー歩美ずるい!

お兄ちゃん、私も!」

そう言って、詩織は私と反対隣に座って、お兄さんに頭なでなでを要求してる。

お兄さんは詩織の頭を撫でながら。

「明日夕方、執務室まで来てくれる?」

お兄さんがそう言って。

「はい」

私も返事したけど。

「なに?私も?」

「いや、歩美ちゃんだけ」

お兄さんがそういうと、ぷっとほっぺを膨らませて。

「浮気はダメだからね?」

お兄さんはくすくす笑ったけど、目の奥は笑っていなかった。

それを見て、少し怖くなった。


翌日夕方。

「失礼します」

初めて一人で執務室に入った。

「待ってたよ」

そこにいたのは陛下と宰相閣下。

「こちらに座って」

示された椅子に座る。

「宰相、すまないが、今日はちゃんと聞いてくれ」

「御意」

「歩美ちゃんにバレた」

「なにをですかな?」

「お前が聞かなかったやつだ」

「いや、聞いてないことは分かりませんが」

「もういい、思い出してくれ」

「はい、それはまずいですね」

「いつまでも隠しておけるとは思っていなかった

いずれは外見でバレると思っていたが」

「そうですな」

「10年後くらいのつもりだったんだが

歩美ちゃんが詩織と一緒に暮らしていて気づいてしまった」

「で、どのように?」

宰相閣下の眼光が急に鋭くなった気がした。

話がまったく読めないけど、この二人が揃っているということは、私は触れてはいけないものに触れてしまったんだろうか?

まさか、消される?

体に震えが走る。

「そう凄むな、歩美ちゃんが怯える

詩織の大切な友達だ」

そう言って、陛下は私に向き直った。

「歩美ちゃん、これから話すことは、絶対口外しないでほしい

志保ちゃんにもだ」

陛下の表情がいつになく厳しい。

「分かりました」

私はそう答えるしかなかった。

「5年間だけでいい」

「はい」

固唾を飲んだ。

「歩美ちゃんの考えは半分当たっている」

「半分……ですか?」

「詩織はもう成長できない」

「えっ?」

「病気になった時、それ以上病気が進行しないように成長を止めた

成長すると病気も進行する

だから、こうするしかなかった」

そんなことが……

「詩織は成長を止めた結果、怪我もしなくなった

建国祭の時のことを覚えているか?」

「はい」

「それが詩織の体の秘密だ

詩織も、最初は生きられるというだけで十分だったはずだ

だけど歩美ちゃんや志保ちゃんが成長していくのを見て

成長できない自分を受け入れられなくなってきているのかもしれない」

私は言葉を失った。

詩織は生きるために成長を捨てた。

そして今は、その代償に苦しんでいる。

「頼む、しおりに寄り添ってやってほしい」

陛下は頭を下げて搾り出すように言った。

「お兄さん、話してくれてありがとうございます

詩織はもう友達じゃない、家族です」

お兄さんは、ハッと顔を上げた。

「一緒に背負うのは当たり前じゃないですか」

お兄さんの目から、涙が溢れた。

ふと見ると、宰相閣下の目にも涙が滲んでた。


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