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時の虜  作者: 古都麿
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15/28

第15話 修学旅行

ホームルームが終わって、中山先生が職員室に戻ろうとしているところへ。

「先生」

志保が中山先生について行った。

何か、真剣に話してる。

中山先生が困った顔をしたが、志保は笑顔で礼をして戻ってきた。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない

ちょっとお願い事」

志保はそう言って笑った。


その日の夕方。

「みんな、修学旅行の班分けは特に指定はないから

1班5〜6人で自由に集まって

この班分け表に名前を書いておくように」

先生が黒板の横に班分け表を貼り出した。


放課後。

「班分けどうする?」

「私たちは三人一緒でいいよね」

「それはいいけど、男女半々でしょ」

「男子三人どうしようか」

そんな話をしていると。

志保が男子グループに声をかけた。

「ねえ、私たちと班組まない?」

ちょうど、男子三人組。

高橋くんと酒井くんと吉田くん。

「ああ、いいよ」

高橋くんが軽く言うと。

「お、おい、高橋」

酒井くんが焦ってる。

「この三人、あれだぞ」

吉田くんは目を合わそうとしない。

「詩織と歩美もいいよね?」

「私はいいよ」

「私も……いいです」

歩美はそう言いながら志保の腕につかまる。

「じゃぁ、よろしくな」

高橋くんたちは他の友達のところへ。

「歩美、大丈夫?」

「うん」

「まっ、吉田くんがなんとかしてくれるでしょ」

志保がそう言って笑った。

確かに、吉田くんは優しい子だから、歩美にも気を遣ってくれそう。


後で聞いたら、他のクラスの班分けは先生が振り分けたみたいで、自由に組んだのはうちのクラスだけだったみたい。

もしかして、志保が中山先生にしたお願い事ってこれ?



数日後。

「お兄ちゃん、明日から修学旅行だから二泊三日で帰ってこないよ」

「うん、わかってる」

そう言いながら手招きされた。

お兄ちゃんの隣に座ると。

「三日分充電」

そう言って、肩を抱き寄せられた。


翌朝。

「それじゃ、行ってきます」

「気をつけてな」

「うん」

行ってらっしゃいのキスを期待していたけど、さすがにそれはなかった。


修学旅行の行き先は京都と奈良。

それぞれ一泊ずつ。

初日は新幹線で京都へ。

京都駅からはバスで京都巡り。

施設見学は班単位で行動する。

清水寺、平安神宮、北野天満宮、金閣。

どこへ行っても男子はふざける。

特に、高橋くんはお調子者だ。

盛り上げようとしてくれてるのはわかるんだけど。

こういうの、この辺の言葉で“ちょける”と言うらしい。

語感が可愛い。

そして。

どこも外国人観光客が多い。

路線バスに乗れない外国人が私たちのバスに乗ってこようとしたり。

トラブルがありつつも、1日目を無事終えて嵐山の旅館に着いた。

旅館の部屋割りはさすがに男子とは別々。

部屋に着いたら、歩美が疲れた顔でため息をついた。

「お疲れ」

「男子のあのノリは苦手で」

歩美が苦笑を浮かべながらそう言った。

少し休憩して夕食。

京野菜中心のしっかりした味付けの料理。

京料理って、薄味のイメージだったけど、実はそうでもないそうだ。

夕食後はお風呂タイム。

先生が男子に「覗くなよ!」って、注意してる。

そういうのは漫画の世界だけの話だと思ってたけど、本当に覗く子いるのかな?

お風呂上がって部屋に戻ったら女子トーク。

お兄ちゃんとの婚約の話を根掘り葉掘り聞かれた。

やっぱりみんな気になってたけど、聞いていいものかどうか、迷ってたんだって。

消灯時間が過ぎて。

「きゃー!」

悲鳴にびっくりして飛び起きたら、男子がこっそり忍び込んできてた。

悲鳴を聞いて駆けつけた先生に捕まってたけど。

「まだ、正座させられてるよ」

トイレから戻った子がレポートしてくれた。

当然よね。


翌日。

朝食を食べて、バスで奈良に移動。

大仏殿、興福寺、春日大社を見学した後、奈良公園で放流。

ここからは自由時間。

奈良って、本当に鹿がたくさんいる。

信じられる?鹿が横断歩道を渡るんだよ?

「なあ、せっかくだから鹿せんべい買わないか?」

高橋くんが売店に走っていく。

私たちも後に続いた。

「わぁ!」

それまで私たちに無関心だった鹿たちが、鹿せんべいを買った途端に集まってくる。

奈良の鹿って礼儀正しいのね。

鹿せんべいをくださいって、お辞儀する。

「可愛いけど、ちょっと怖いね」

志保がそう言いながら鹿せんべいをあげてる。

「やん、怖い!」

歩美はせんべいを持った手を噛まれそうになって、そのまま手を上にあげた。

それを見た鹿が群がる。

「ちょっと待って、いや、こないで!」

「歩美、せんべいを放して」

「きゃあ!」

歩美が鹿にドンされて転がった。

歩美のせんべいに鹿が群がる。

「きゃー!いやー!」

せんべいがなくなるまで、歩美は鹿にもみくちゃにされた。

大丈夫?

手を差し出して。

歩美が手をとって起きあがろうとするけど。

「イタッ!」

どうやら倒れた時に足を捻ったらしい。

「立てる?」

「うん、なんとか」

歩美はなんとか立ち上がったけど。

鹿に揉みくちゃにされて、あちらこちらにフンがついてる。

「歩ける?」

歩美は歩こうとしてふらつく。

「痛いっ!」

志保が男子達に。

「ねえ、手伝って?」

声をかけたlけど、フンがついた歩美に触るのが抵抗あるみたい。

その時。

「乗って」

吉田くんが歩美に背を向けてしゃがんだ。

「えっ、でも汚れちゃう」

「いいから、足痛いんでしょ」

「歩美、乗せてもらいなよ」

志保が歩美を促す。

「ごめん、ありがとう」

そう言って歩美は吉田くんの背中に乗った。

吉田くんはそのまま立ち上がって。

「とりあえず、バスまででいい?」

「うん」

歩き出して。

「ごめん、重いよね」

「別に」

見ると、吉田くんは耳まで真っ赤になっていた。

「男の子だねぇ」

志保がそう言って笑った。

あれ、そのセリフ、前にも聞いたことあるような。

バスまで戻って、先生に事情を説明して。

歩美は先生に連れられて病院に向かった。

「吉田くん、ありがとう」

志保と私が吉田くんにお礼を言って。

「それと比べて、あんたたちは」

志保が高橋くんと酒井くんを睨んだ。

二人は決まり悪そうに俯いた。


1日の予定が終了して旅館に戻ると、病院に行っていた歩美が先に戻って着替えを済ませてた。

軽い捻挫だから、湿布を貼っておけば痛みはマシになるだろうとのことだった。

「吉田くん、さっきはありがとう

服、汚しちゃったから、洗濯させて」

歩美がそう言うけど、吉田くんは。

「いや、いいから」

そう言って赤くなって目を逸らした。

歩美が困ったような表情で吉田くんを見てる。

「歩美、もう勘弁してあげて」

志保がくすくす笑いながら言った。


夕食で広間に集まった時。

「ちょっとお邪魔しますよ」

そう言って、ちょっと偉そうなおじさんが入ってきた。

後ろに何人かおじさんが続いてる。

おじさんは広間を見回して。

私を見つけるとそそくさと寄ってきた。

「初めまして、詩織様

奈良県知事をしております河中です」

「はぁ」

「修学旅行で我が県にいらしていると耳にしまして

ご挨拶に伺った次第です」

そう言って、手を差し出してきた。

その手を取ると。

強引に引っ張り上げられて、立たされて。

その時、カメラのフラッシュが光った。

気がつくと、ついてきていたおじさんが写真を撮ってる。

周りを見ると、みんなぽかんとしてる。

旅館の中居さんもオロオロしてる。

あっ、これダメなやつだ。

「河中さん」

「はい」

「今、私たちは修学旅行中です

そこにズカズカ入り込んできて、いきなり握手を求めて

写真を撮るってどういうことですか?」

「えっ?」

「正直、私は怒っています

みんな楽しみにしていた修学旅行ですよ

そこに訳のわからない他人が乱入してきて

みんなびっくりしてるじゃないですか」

「いや、それは」

「あなたの勝手な都合ですよね」

「いや、まあ」

「お引き取りください」

「いや、ちょっとだけお話を」

「お引き取りください」

言い訳も反論も許さない。

「失礼しました」

困惑の表情を浮かべながら。

「おい、帰るぞ」

おじさんたちは帰って行った。

「皆さん、私のせいでごめんなさい」

みんなに向かって頭を下げた。

「なんだったの、あのおっさん」

「やばいよな」

「失礼にも程がある」

「誰だよ、あんなやつ知事に選んだの」

散々な言われようだけど、仕方ないよね。

「詩織、かっこよかったよ」

志保が私の肩を叩きながら笑ってる。

「ハラハラしちゃった」

歩美は心配そうに。

「えへへ、ちょっと切れちゃった」

笑いの輪が広がった。


夕食が終わってお風呂タイム。

お湯に浸かると疲れが溶けていく。

「詩織、肌綺麗だよね」

歩美が私の肩を撫でながら。

「歩美、胸おっきくて羨ましい」

私の来ることのない未来。

「どれどれ」

そう言いながら、志保が後ろから歩美の胸に手を回した。

「いやん、やめてよ」

歩美が逃げる。

「詩織もこれからまだまだおっきくなるよ」

志保が笑いながらそう言ってくれるけど、私、もう成長できないんだよ。

「吉田くん、今頃、背中の感触を思い出してるかも」

それを聞いた歩美の顔がみるみる赤くなる。

「やめて〜

吉田くん、そんな人じゃないよ……多分」

歩美が男の子にこんな反応するなんて。

あの事件以来、男の人のこと避けてたけど。

「歩美も思い出しちゃった?」

志保が揶揄う。

「もうやめて〜」

歩美が足を引き摺りながらお風呂から逃げてしまった。

「でも、ちょっと安心した」

志保が歩美の後ろ姿を見ながらそう言った。


最終日、旅館を出てバスで法隆寺へ。

世界最古の木造建築らしい。

境内は広く全部見て回ると数時間かかる。

足を捻った歩美を吉田くんが支えてくれてる。

「この班分け、正解でしょ」

志保はイタズラっぽく笑った。


法隆寺を出て、バスで名古屋に向かい名古屋から新幹線。

いろんな思い出ができた修学旅行。

終わっちゃうのが寂しい。


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