第13話 スナイパー
デパートの屋上。
普通、屋上が一番高いと思われがちだが、実際には階段、エレベーター室があるので、その上が一番高い。
屋上は一番高いという思い込みがあるから、ほとんどの客はフェンス越しに下を見る。
上に意識を向ける者はいない。
階段室の裏側に上に登る階段があることを知る者は管理会社の者ぐらいだろう。
階段室を出れば、正面の屋上スペースに視線が行くし、降りる客も階段室の出入り口しか見ていない。
つまり、大勢集まるデパートという空間の中で、ここだけが忘れられたスペースになっている。
俺は、数日前から、荷物を少しずつ搬入した。
大きな荷物は目立つから、小分けにして人の多い時間帯を選んで搬入した。
人が少ない時間帯は、不審な動きをすると目立ちやすいからだ。
そして、デパートという人の多い場所であれば多くの客に紛れて立ち去ることができる。
パレードコースまで約1000m。
ビルの隙間から見えるのは、長いパレードコースのうちほんの100m程度。
射撃の機会は数秒しかない。
通常、警備はパレードコースから500mの範囲で、人のいない、ビルの空室やオフィスビルの屋上などが警戒対象になる。
距離1000mの人の多いデパートは警戒対象から外れる。
警備上の盲点だ。
パレード当日、俺はデパートの屋上の階段室の上にいた。
ライフルを組み立て、ターゲッツが現れるのを待つ。
ターゲットが見えた。
風の流れを読んで照準を調整する。
バシュ!
引き金を引いて。
ターゲットの頭が激しく揺れた。
命中を確信した。
しかし。
ターゲットは倒れない。
すかさず第2射。
皇帝の婚約者とかいう小娘が倒れた。
その時、ターゲットがこちらを見た。
しくじった!?
見られたかもしれない。
このまま、ここに止まるのはまずい。
俺は慌てて上着を脱いでその場を立ち去った。
階段室から降りて大勢の客に紛れた。
ライフルと上着は置いたまま。
逃走時に証拠になりそうなものを持っていくのは愚の骨頂。
雑踏に紛れ、地下鉄に乗った。
ここまで逃げれば、もう心配はないはずだ。
しかし、あの時確かにターゲットはこちらを見た。
銃弾は当たったはずなのに倒れない。
それどころかこちらを見た。
1000mの距離で視認できるとは思えないが、得体の知れない恐怖が襲ってくる。
俺はこの件から手を引く。
とにかく、一刻も早く出国しよう。




