第12話 建国祭
今日はお兄ちゃんの執務室で建国祭の打ち合わせ。
建国5周年で政権基盤が固まったことと、帝国臣民に私をお披露目する場になるんだって。
だから、パレードの打ち合わせに私も参加してる。
一通り打ち合わせが終わったところで。
「陛下、こういうところで申し上げるのは憚られるのですが」
「なんだ?」
「詩織様にもお聞きいただいた方がよろしいかと思いまして」
「詩織にも?」
「はい、実は建国祭に合わせて、陛下にお目通り願いたいというお見合い写真が多数届いておりまして。」
えっ、お兄ちゃんにお見合い?
「詩織様の年齢を知ってか、半数が日本でいう中学生の年齢女性で、4割が小学校高学年、1割が高校生です」
小中高!?
「ふふふ……」
私は思わず吹き出した。
宰相閣下は私をチラリと見て。
「詩織様のお気持ちはわかりますが、お世継ぎを考えますと広い心でご理解いただきたく」
「詩織にもとはそういうことか?」
あっ、お兄ちゃん、ちょっと怒ってる。
「はい」
宰相閣下は私が子供を産めないと知ってるから側室に拘ってるのかな?
「お兄ちゃん、宰相閣下は私が子供を産めないと知ってるの?」
「えっ?」
宰相閣下は驚きの声を上げた。
「ならば尚更側室を」
お兄ちゃんは頭を抱えてる。
もしかして、私まずいこと言った?
「いや、詩織様を側室として新たな皇后候補を」
「黙れ!」
びっっとした。
お兄ちゃんが怒鳴るところを初めて見た。
「皇后は詩織以外あり得ない」
一息おいて。
「次はないぞ」
宰相閣下の顔が恐怖で引き攣っている。
「お兄ちゃん、ごめんなさい、私が余計やことを言ったから」
お兄ちゃんは私を見てハッとしたように。
「言いすぎた。許せ」
お兄ちゃんの言葉に、宰相閣下は深々と頭を下げた。
「宰相閣下、ごめんなさい」
宰相閣下に申し訳ないことをしてしまった。
「詩織の言う通り、俺と詩織には子供ができない
しかし、何人側室を迎えても、結果は同じだ」
「どういうことで?」
「俺には子供ができない
理由は俺が不老不死だからだ
だから、世継ぎがそもそも必要ない」
「そんな」
「だから、継承問題はそもそも存在しない」
宰相閣下はぶつぶつ言いながら何かを目まぐるしく考えているみたい。
「もしや、詩織様も?」
「そうだ」
「そうでしたか、お世継ぎ問題はそもそも存在しなかった
ということは詩織様も異能を?」
「知りたいか?」
「いえ、滅相もございません」
宰相閣下は意を決したように。
「なぜ、おっしゃってくださらなかったのですか?」
「これが漏れたらどうなると思う?」
「……」
「これを知っているのは?」
「俺と詩織だけだ」
えっ宰相閣下は?
「かしこまりました
私は何も聞いておりません」
「よし」
なんか、すごい現場に居合わせてしまった。
宰相閣下が私を見る目にまで、恐れの色が浮かんでいた。
建国祭当日
パレードは皇宮を出て、首都を3時間かけて右回りに一周するルート。
このパレードでお兄ちゃんの隣に座ってお披露目される。
事前の打ち合わせ通りに200mごとに沿道に集まる臣民に左右交互に手を振る。
それが今日の私の役目。
「詩織、私たちは後ろの車でついて行くからね」
「詩織、がんばってねー」
志保と歩美は呑気なもんだ。
特等席で見物するつもり?
あなたたちのお役目は?
「ご準備よろしいですか?」
警備隊の方が確認に来て、パレードが始まった。
沿道にすごくたくさんの人が集まってくれてる。
みんな手に手に小さな帝国旗を持って。
パレードが進むにつれて。
「本当に中学生なんだ」
「なんか普通の子だね」
「小さくて可愛い」
「もっと美人だと思ってたのに」
ちょっとみんな、聞こえてるんですけど。
勝手に期待して、勝手に落胆しないでくれる?
終わるまでに一体何言われるんだろう?
おっと、笑顔笑顔。
笑顔を貼り付けて、沿道に手を振る。
時々見知った顔が見える。
学校の友達。
「詩織、疲れてない?」
お兄ちゃんが気を遣ってくれる。
「うん、大丈夫」
お兄ちゃんと私が話しているのを見て一段と大きな歓声が上がる。
仲良さそうに見えてるかな。
パレードが2/3ぐらい進んだところで。
「えっ?」
一瞬、お兄ちゃんの頭が激しく揺れた。
と思ったら、頭に衝撃を受けた。
そのまま、全身の力が抜けて、その場に倒れた。
「詩織!」
お兄ちゃんの声が遠くで聞こえる。
起きあがろうとするけど、眩暈がして力が入らない。
何が起こったの?
「詩織、大丈夫か?」
「眩暈がして立てないよ…‥」
お兄ちゃんは私がそう言ったのを確認して、周囲のビルを見渡した。
駆けつけた救急車に乗せられて。
「後で行くから」
お兄ちゃんはそう言って現場に残った。
また、帝立病院かな。
そう思っていたのだけど、運ばれた先は皇宮。
そのまま皇后の間に運ばれて、ベッドに寝かされた。
救急隊員が帰った後。
「詩織、大丈夫?」
「詩織、生きてる?」
入れ替わりに志保と歩美が走ってきた。
「うん、なんとか」
二人が心配そうに私の顔を覗き込んでる。
「よかった!生きてた!」
歩美が泣き出した。
「歩美、私は大丈夫」
眩暈はだいぶ治ってきた。
体を起こして。
あの時何があったの?
最初お兄ちゃんの頭が不自然に揺れた気がした。
その直後、まるで頭を殴られた時のような衝撃があって。
目の前がグルングルンして。
気持ち悪くて。
体に力が入らなくなった。
「ねえ、何が起こったのか、知ってる?」
志保と歩美は顔を見合わせて黙ったまま。
やがて志保が。
「詩織、撃たれたんだよ」
えっ、撃たれた?
嘘!
なんで私が?
というか。
「お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「陛下はご無事です
犯人確保の現場指揮をとっておられました」
撃たれた?
じゃあ、なんで生きてるの?
無病無傷。
そういえば、前にお兄ちゃんに聞いた。
「詩織、なんで無事なの?」
志保が恐ろしいものを見るような目をこちらに向ける。
「頭撃たれたのに……」
自分でもよくわからないけど、多分、お兄ちゃんが言った無病無傷のせいかも。
私は志保と歩美に自分の体のことを話すことにした。
頭を撃たれて無事なことを見られてる。
どうせ隠しきれない。
「志保、歩美、聞いて
私の体のこと」
志保と歩美が息を呑む。
「2年生になってすぐの頃、1週間ほど学校を休んだことあったよね
あの時、病院で余命3ヶ月って言われたの」
「えっ、余命3ヶ月?」
「うそ……」
二人は息を呑んだ。
「その時、私を助けるために、お兄ちゃんが無病無傷の体をくれたの」
「陛下の異能?」
「うん」
「そんなことがあったの」
志保がそう言ってハグしてくれた。
「詩織も辛い思いをしたんだね」
志保に頭を撫でられた。
少し落ち着いた頃。
「詩織、ごめん、遅くなった」
お兄ちゃんが戻ってきて。
いきなり抱き竦められて。
お兄ちゃんの腕に抱かれて安心したら涙が出た。
「怖かったよぉ」
つい弱音が出た。
お兄ちゃんが頭をなでなでしてくれてる。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「ちゅーして」
「へ?」
「ちゅーして」
「えっと?」
「ちゅーして!」
お兄ちゃんの唇が私の唇に重なる。
理不尽なことはわかってる。
でも、あんなに怖い思いをしたんだから、これぐらいいいでしょ。
お兄ちゃんの唇が離れて目を開けると。
お兄ちゃんの肩越しに真っ赤になった志保と歩美の顔が見えた。
しまった。
お兄ちゃんの顔を見た途端、二人の存在を忘れてた。
全部見られた。
私の顔を見て、お兄ちゃんも振り返って、二人に気づく。
「二人とも、下がっていい」
お兄ちゃんはそう言って、両手で顔を覆った。
建国祭はあの後も続けられ、パレードはお兄ちゃんだけで最後まで行われたそうだ。
その他の行事も滞りなく行われた。
私の症状は脳震盪だったと後でお兄ちゃんに聞いた。
でも、報道では、初めての公務の緊張に2時間近いパレードで疲れが出て、貧血を起こして倒れたと報道されている。
真相は隠されている。
皇后になるって、こういうことの積み重ねなのかな。
思ってたのとかなり違う。




