第11話 首脳会談
「陛下」
今日の報告は少し気が重い。
「ん?」
陛下はいつも通り。
「404案件ですが」
陛下は眉をぴくりと動かした。
「背後関係が明らかになりました」
「そうか」
陛下は何かを考え込むようにして。
「首脳会談前の実務者協議は来週だったな」
「左様で」
「清掃局が動いていることは気づかれてないな?」
「おそらく大丈夫かと」
そう答えたものの、陛下の二重生活をキャッチしていたことを考えると完全には否定できない。
「ならば……」
陛下から実務者協議に関する指示を受けた。
実務者協議初日。
交渉は膠着した。
表向き友好国の米国だが、建国以来勢力を拡大する帝国に警戒感を強めている。
警戒感を隠そうともせず、経済制裁をちらつかせながら、旧中国領の権益の30%を要求してきた。
戦後復興道半ばにして経済制裁は痛い。
とはいえ飲めるはずのない要求。
初日は平行線のまま終了した。
報告を終えると。
「明日の相手の出方次第だな」
陛下はそう言って目を閉じられた。
実務者協議二日目。
やはり協議は平行線。
帝国にしてみたら、なんの貢献もない米国が権益の30%を要求するなど、筋が通らない。
そんな折、米側が提案してきたのは。
首脳会談でなんの成果も発表できないのは両国のメンツに関わる。
だから、政治的成果ではなく、友好を深めることを成果として発表してはどうか。
その象徴として、来年中学を卒業する皇帝陛下の婚約者を米国に留学生として招きたい。
もちろん、侍女の二人も合わせて招待する。
というものだ。
「陛下、露骨な提案ですが、いかがいたしましょう?」
「……」
陛下の目には一切の感情がなかった。
しばらくの沈黙のあと。
「明日、最終日だな」
陛下の指示を承って、背中に冷や汗が流れた。
実務者協議最終日。
「で、詩織様の留学の件、いかがでしょうか」
米国の担当官が切り出した。
「ご提案には乗れませんな」
私は陛下の指示通りに答えた。
「なぜだ、首脳会談で成果を共同宣言できなければ貴国も困るだろう」
怒気を含んだ声をあげる。
「いえ、困りません」
「どういうとかご説明いただいても?」
少し冷静さを取り戻した担当官が説明を求めた。
「首脳会談が開かれないからですよ」
私はあくまでも冷静に、陛下の指示通りに答えた。
「首脳会談をキャンセルするつもりか?」
担当官は少し焦ったような声で言った。
「いえ、キャンセルは致しません
なにぶん会談相手がおりませんので」
「それはどういう意味だ!?」
その時。
「失礼します」
米国の連絡員が部屋に駆け込んできた。
何やら、担当官に耳打ちしている。
その瞬間、驚愕の表情を浮かべてこちらを見て。
「何をした?」
その声には明らかに恐れが含まれていた。
「これが帝国です」
席を立ちながら言った。
「理由はお分かりでしょうな」
それだけ言って、交渉の場を後にした。
あー、緊張した。
もういや。
今日は帰りたい。
それから程なくして、米国大統領死亡のニュースが世界を駆け巡った。
「宰相閣下、お疲れ様でした!」
若手官僚が駆け寄ってきた。
「閣下、米国大統領が死亡したニュースですが」
若手官僚が震える声で聞いた。
「帝国が関与しているんですか?」
「知らんな」
平静を装って答えた。
動揺を隠す笑顔を貼り付けて。
俺の表情を見たその男は恐怖で固まっていた。
人の顔を見てそれか?
失礼なやつだ。
数日後。
宰相が厳しい表情で。
「陛下、清掃局から報告書が届いております」
俺は報告書を見た。
清掃局404報告書
中野詩織留学誘拐計画の概要について
目的:皇帝陛下の異能に関する情報取得
期待効果:皇帝陛下の異能に関する情報を取得し、これを以て、米国において異能を再現する。異能の再現ができないまでも、異能を無効化する方法の研究に資する。
方法:
第一段階
陛下の異能の情報を取得する過程で陛下の二重生活の情報が浮上した。
二重生活を探る過程で中野詩織との特別な関係が発覚したことから、中野詩織をターゲットに加えた。
この直後に陛下の婚約発表が行われ、中野詩織が陛下の異能の情報を知るものと確信した米国は情報取得のターゲットを中野詩織に切り替え、その友人を利用することを計画した。
中野詩織の友人として吉村歩美と長谷川志保が浮上し、吉村歩美の母親である吉村佳奈と再婚した吉村勇次郎(旧姓 岡山)の運転する車に当たり屋を接触させ、損害賠償を背負わせた。この賠償金を肩代わりする名目で吉村歩美に暴行するよう唆し、犯行を行わせた。勇次郎は連れ子である歩美に不適切な性的関心を持っていたことが判明しており、唆すのは容易であったと考えられる。
吉村勇次郎の事件において、吉村歩美と長谷川志保が中野詩織を頼ったこと、陛下が二人に配慮した対応を行ったことから、この二名の利用価値が特に高いと判断し、留学計画が具体化された。
第二段階
首脳会談に先立つ実務者会議において、帝国が絶対に飲めない要求を突きつけること。交渉決裂により両国の面子が立たないという課題を共有し、課題解決の手段として中野詩織の米国留学による両国の友好深化を内外にアピールすること。
これにより、中野詩織の中学卒業後に中野詩織及び侍女の吉村歩美、長谷川志保を留学の名目で渡米させる。
第三段階
中野詩織、吉村歩美及び長谷川志保の留学先高校に生徒として工作員を潜入させる。
工作員が友人として中野詩織、吉村歩美及び長谷川志保に接触し、気を許し、油断した後に三人から陛下の異能の情報を取得する。
第四段階
吉村歩美あるいは長谷川志保を米国内で誘拐し、中野詩織を脅迫することで陛下の異能の情報を強制聴取する。
たとえ吉村歩美あるいは長谷川志保の行方が分からなくなったとしても、中野詩織を脅迫している限り帝国への報告には時間差が生じる。また、たとえ発覚したとしても、主権国家である米国への直接的な捜査は内政干渉に該当するため、帝国が取れる対策は限られる。米国が吉村歩美あるいは長谷川志保の捜索を装うことで生じる時間に、強制的に情報を聴取する。
第五段階
最終的に情報取得の如何に関わらず三名は処分する。
外交関係の悪化は避けられないが、三人の死亡を理由として、帝国が米国に宣戦布告する可能性は極めて低いことから、危機管理上も許容範囲と判断し、この計画の実行が承認された。
計画承認者:米国前大統領
詳報は、次項以降。
はぁー
ため息をついて。
「宰相、米国との関係を見直すべきだと思うか?」
「いえ、既に警告は発していますので問題ないでしょう
米国との関係見直しに動けば、前大統領の件、確信する者も現れましょう
米以外の国に対する牽制にもなっておりますので、ここはしばらく静観で問題ないかと」
「そうだな」
俺はしばらく静観することにした。




