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267  作者: Nora_
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09

「後輩君発見、いまからりつのところに連れていきます」


 な、なんだ急に。

 別になにか予定があったとかではないがりつではなく全くと言っていいほど知らない人達に無理やりどこかに連れていかれるのは怖い。


「りつっ、後輩君を連れてきたよ!」

「おーう……」


 朝はあんなに元気だったのに弱っているのか……?

 近づくとこちらの腕を抱いてから「せい君のおかげでもあり、せい君のせいでこんな風になっちゃったよ……」と口にしてから弱々しい笑みを浮かべた。


「おお、後輩君やるねえ」

「ということでりつのことは後輩君に任せるよ」


 一緒に帰るつもりでいたからそれはいいがあまりに急すぎる。

 でも、この先輩はずっと同じ体勢のままでいるからまだ帰るつもりはなさそうだ。


「夏休みに戻ってほしい」

「戻りませんよ」


 来年になったらその夏休み自体がなくなることすらある。


「だってせい君ともあんまりいられないんだよ?」

「こうしていられているじゃないですか、俺はそれだけで嬉しいですよ」


 そもそもこの人、夏休みも普通に一緒にいられたということは受験生組だ。

 ちゃんと受験勉強をやっているのだろうか……? と考えてしまった。

 時間があればもしゃもしゃして、疲れたらごろごろしていそう。


「りつ、ちゃんと受験勉強をしているんですか?」

「うーん……それも最近はせい君のことで忙しくて微妙かも」

「俺ならちゃんといるじゃないですか」

「だってもっと一緒にいたいもん」


 このままだとりつ的にも、あの先輩達的にも駄目かもしれない。

 だが、そのことだけを考えて告白なんかしたくないし……。


「それならもっと泊まりに来ればいいと思います、その逆でもいいですよ」

「いいの?」

「はい」


 もう少しりつとの時間を重ねてからでも遅くはない。


「抱きしめたい」

「それはここでは……」

「早く私の家かせい君の家にいこ!」


 俺の自業自得とはいえ女子のことで色々あったわけで、りつの優しさに惹かれてこっちがほとんど一方的に好きになる――ようではまた同じ繰り返しだったか……。

 でも、俺がりつが好きすぎて仕方がない状態の方が楽でよかった。


「するよ?」

「はい」

「や、やっぱり後ろから抱きしめる」


 夏なのに温かくてよかった。

 特になにも言ってきていないし、違うところを見ていても限界がくるから目を閉じておくことにした。


「このまま寝ちゃえそう……」

「寝たらベッドまで運んであげますよ」


 りつの部屋でよかったな。

 まあ、俺の家でも布団を敷いてやれば風邪を引くこともないだろうから大して変わらないと言えば変わらないが。


「そうしたらせい君は?」

「起きるまで待って、りつが起きたら着替えを持ってきます」

「えへへ……そっか」


 りつに弱ってほしくない、元気でいてほしい。

 やりたいことがあるならちゃんと言ってほしい、我慢をしないでほしい。

 俺も随分とりつのことを気に入って――いや、好きになっているなと。

 帰ったとき泊まることを言うついでに母とか姉にもちゃんと言っておくか。

 姉にはペラペラとりつとのことを話してもどうしても母に対してはあまりできていなかったから。

 なるほど、疑うようになってしまったのはこうして黙っていることが多いからかと今更ながらに気が付いた。


「せい君のこと好きだよ」

「……なんでりつの方から言ってしまうんですか」

「私は告白をしてほしいとかそういうのはないからね、手に入れるためなら何回だって自分の方から動くの」


 どこまでも乙女であってほしかったがこういうときは強いようだ。


「それでせい君は?」

「……このまま答えた方がいいですか?」

「うん」


 好きだから好きだと言うだけ、それなのに先にやられてしまったせいで中々出てこない。

 だが、気づいているのか無自覚なのか時間が経過する度に力が強くなっていくので限界がくる前に、


「俺もりつのこと好きですよ」


 と答えておいた。

 あの件があってからも人を拒絶するようなことをしていなくてよかった。

 いまならあのとき、苦手な体育教師に頼まれて手伝いをしていてよかったと言える。


「俺と比べて小さいところとか、それでいて元気いっぱいなところとか、笑った顔が可愛いとかまあ、色々ありますがこれからも一緒にいてください」


 優しくしてくれるから好きだとなんか誰でも好きになりそうに捉えられそうだから一応考えて重ねておいた。

 すぐになにも返してくれなくたって力が弱まっていれば大体は分かる。

 そもそもりつの方から告白してくれていたから変に不安になる必要もないのだ。

 にしても、こうも温かいと帰りたくなくなるな。

 とはいえ、夏だから入らないというわけにはいかない、人の家に泊まるのであれば尚更そういうことになる。

 もう一層のことりつの方が付いて来てくれないだろうか?

 そうすれば本人からの発言もあり、一発で信じてもらえて二人揃って「おめでとう」と言ってくれる気がするから。

 ま、なんにしてもりつが動いてくれないと始まらないか。

 ということなので早く回復してもらいたかった。




「お、来たね」

「他校の前で陣取ってなにをするつもりだったんだ?」

「平間に文句を言いに来たんだよ」


 りつと帰るつもりだったのに連れていかれてしまったから時間はある。


「なんで平間の方から教えてくれないの」

「ああ、付き合い始めたんだ」

「それは知ってるよ、問題は私がりつ先輩と連絡先を交換できていなかったら知らないまま終わっていたということだから」


 仮に教えてもらえなくて知らないままだったとしてもなにか損なことはないだろう。

 冷静になった方がいい、あの姉だって「おめでとう」といい笑みを浮かべて言ってくれただけだったぞ。


「友達なのに露骨に差を作られて悲しい気持ちにさせられたから平間は私になにか奢ること」

「それならアイスでも食べるか」

「うん」


 拘りとかはないからスーパーにいって志水が望んだラクトアイスを買った。

 あまり責める気がなかったのか、そもそも女子という生き物がこうなのか、食べたら表情も明るくなって面倒くさい感じではなくなったと思う。


「あと、さらね」

「彼女がいるのに他の女子を名前で呼ぶのってありなのか?」


 後でりつにちゃんと言っておくか。

 というか、先輩達に無理やり連れ去られただけなのに先程の件でも責められそうで怖い。

「なんで手を掴んだりしてくれなかったの!」みたいに叫んでいるりつが容易に想像できてしまうのがなんとも言えない気分になる。


「そんなの関係ないでしょ、ほら早く」

「さら、来るとしても連絡してからにしろよ」

「連絡をするとすぐに断られそうだったから断れなさそうなあれにしたの」


 一度も断ったことはないが。


「あ、私は引き続き平間って――それとも、二人きりのときは『せい』って名前で呼んだ方がいい?」

「好きにしてくれればいい」

「ふーん」


 なんだこの顔は……。

 それこそこの前の大西、池内ペアのように俺を試そうとしているのだろうか。

 りつが離れたのもその作戦の内、みたいな感じで。


「ならせいでいいや、りつ先輩もこれぐらいで怒らないよね」

「多分な」

「これ、ありがと、もう帰るね」


 送るとか送らないとかそういう話になる前に走り去られてしまった。

 急いで追いたいとは思わないからゴミをゴミ箱に捨てて歩き出す。

 途中、りつが現れてぶっ飛ばされるとかもないまま家に帰ることができた。


「そうか」


 ちゃんと連絡をしておかないととスマホを点けたら通知がきていることに気が付いて開く。

 メッセージではなかったがそれは写真で、滅茶苦茶楽しそうな顔で笑っているりつの物だった。

 せめてその後に『〇〇だよ』とかなんとか追加してもらいたいところだが……いま大事なのはそこではないからさらとのことを送っておいた。


「『そっか、志水ちゃんもせい君と仲良くしたいんだね』か」


 なんか付き合って関係が変わってからは物足りない反応ばかりになってしまった。

 この前みたいに『ぬわんだってぇぇえええ!?』とかでいいのに。

 早くも飽きてしまっているということなのだろうか……。

 反応できるならいまからいっても問題ないだろということで家をあとにする。


「お、せい君と会えたー」


 家からかなり近いところでこうなったから色々と吹き飛んでしまった。


「やっと解放してくれてね、どうせならいまからせい君の家にいこうとなったんだ」

「いまからいこうとしていたのでりつが来てくれて楽になりました」

「はは、丁度よかったね」


 なんかすげえふわふわしているなこの人。

 体重も軽いし、強風だったらどこかに飛んでいってしまっているかもしれない。


「ん? せい君いつもと違うね?」

「いえ……」

「言いたいことがあるならちゃんと言っておいた方がいいよ、私達はそうやって仲を深めてきたでしょ?」


 まあ……また似たようなことがあったときに毎回飛び出すことになったら疲れるだけだしな……。

 本人がそう言ってくれているのならとぶつけておいた。


「んー前と違っていまは付き合っているわけだからね」

「でも、俺はすぐに感情的になるりつが好きになったんですよ?」

「ほ、褒められているのかどうか分からないから不安になるけど……それにさ、志水ちゃんとは前々から一緒にいたんだから慌てる必要はないよね?」

「ま、前のりつなら叫んでいました、なんならそのまま突撃してきていました」


 困りつつも興味を持って来てくれるりつに安心していた……と思う。

 決して構ってほしいからとなんでも報告していたわけではないが。


「志水ちゃんと私、どっちが好き?」

「それはりつですが」

「うん、だからやっぱり慌てる必要なんかないよ。それにこういうことができるのは私だけでしょ?」


 実際、顔を見られただけでどこかにいってしまったぐらいだしなあ……。

 りつがあのまま話を変えていたらぶつけないまま終わっていたぐらいで。


「せい君、私のこと好きになりすぎちゃったのかもしれないね」

「……あの、これ以上は……」

「嫌だよーん、むつみさんが帰ってくるまでこのままだよーん」


 ぐっ、今度絶対に照れさせてやる。

 やられっぱなしだと流石に耐えられないのでやらせてもらうしかなかった。




「それならお姉ちゃんのことも名前で呼んだ方がいいんじゃない? さらちゃんは名前で呼んで昔から一緒にいる私は『姉貴』っておかしいと思う」


 他の女子を名前で呼ぶよりも呼びづらいな……。

 だが、断ると拗ねて相手をしてくれなくなる可能性が高い。

 母を味方にして自由にズバズバ言うようになっても嫌だから聞いておくか。

 ほら、姉には逆らえないようになっているのだ。


「む、むつみ」

「あと、りつちゃんが可哀想だから私はせいちゃん呼びにするね」

「自由にしてくれ……」


 りつは俺の中で双子説が出てくるぐらいには姉と似ているからその方がいいかもしれない……?


「ふふふ」

「どうした?」

「この前、私が働いているお店に来たことも分かっているんだ」

「ああ……って、夏休み前の話だぞ」


 というか、あの話したがりのりつが黙っていたなんて意外だ、大事な情報とかなら分かるが全くそんなことはないのに。


「そんなにお姉ちゃんが働いているところを見たかったの? せいちゃんって昔からお姉ちゃんのことが好きだよね。だーかーらーここ平間家にいるときはせいちゃんは私のだから」

「で、俺はなにをすればいいんだ?」

「私を甘やかしてほしい」


 動物で例えると猫より犬という感じだからまあ姉らしい発言ではあると思う。

 でも、りつにだってそういうことはほとんどしていないのにいいのかどうか。


「足を使わせてもらったりー」

「硬いだろ」

「腕をぎゅっとさせてもらったりー」


 楽しいからとかではないんだろうなあ。

 んーただどちらにしてもこれだと動きが制限されるのが困るな。


「はい、いまのをりつちゃんにしてあげてね」

「ならしてもらう側じゃないのか?」

「どっちがしてもいいことなんだよ。だって、好きな子には触れていたいでしょ? ――あ、せいちゃんのことを男の子として見ちゃっているとかはないから警戒しないでね」

「おう」


 完全にないわけではないから今度言ってみるか。

 また大人な対応をされて、柔らかい表情で「好きになりすぎちゃったね?」と言われてしまいそうなのが気になるところではあるが。

 だがまあ、俺は後輩でりつは先輩だから甘えることになってもいいはずだ。


「それにしてもせいちゃんに彼女かあ」

「姉――むつみも本気で探してみたらどうだ?」


 あの店で後から対応してくれたのは若い男の人だった。

 りつも「あの人、格好いいね」とか言っていたぐらいだからな。


「お店に一人、若くて格好いい男の人がいるけど……ああいう人はもう彼女がいると思うんだ」

「聞いてみてからでもいいだろ?」

「でも、急に彼女がいるかどうかを聞いてくる女って怖くない?」


 少なくとも違うところで探すよりはまだ繋がりがある分、違うわけだ。


「焦らずに頑張ってみるね」

「おう」


 誰かに強制されるようなことでもないからやりたいように動いてくれればそれでよかった。

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