10
「冬休みが遠いよー……」
「なにかしたいことでもあるんですか?」
「え、長期じゃないけど連休だからだよ」
でも、冬なら大学の試験なんかもあるわけで、夏休みみたいに休めないと思うが。
しかもこの人にとっては今度こそ最後の大型連休だから泣いてしまいそうだ。
余裕がなくなってしまって、一緒にいられる時間が減ってしまったら嫌だな。
「いまを楽しみましょう」
「一緒にいられても勉強ばかりだしなー……」
「頑張ったらなにかしますよ」
食べることが好きだから店に連れていくとかそういうの。
一緒にいたいということならまた泊まったり、泊まってもらったりすればいい。
「それならせい君の方から抱きしめてほしい」
「まあ、それぐらいなら」
「よーしっ、せめてあと三十分ぐらいは頑張らないと!」
俺は視界外に移動して邪魔をすることにならないよう存在していよう。
というのも、課題なんかはないからやることがないのだ。
本はあってもりつが頑張っている間に読んでおくのも微妙だった。
テスト本番の数カ月前から頑張るタイプでもないし、これが一番だと思う。
積極的に動く人間ならここで頼まれる前にするのだろうか。
姉に勧められて見てみた少女漫画では勉強を頑張る女主人公を後ろから抱きしめていたぐらいだった。
でも、現実と漫画は違うわけで……。
言い訳をと捉えられてもいいから勝手に自由にするよりはこの方がマシだろう。
「終わったよ、褒めて褒めて」
「偉いですね」
「ふふふ、だよね」
だが、このへにゃっとした笑顔を見ていると少し……。
「ぎゅー」
「……俺からするという話じゃ?」
「くっつくとそんなのどうでもよくなっちゃうんだよねー」
無理だ、俺はりつには勝てない。
それを分かってほしくなくて同じように抱きしめ返す。
「なんかね、最近はせい君にくっついていると無性に甘い物が食べたくなるんだ」
「チョコなら下にありますよ、持ってきましょうか?」
「だけど離れたくないんだよね」
それならこのまま、なんてのはアホらしいからささっといって持ってくることにした。
姉が菓子好きのおかげでしょっぱい物もあったから持っていく。
その結果、離れたことが気に入らなかったのか入口のところで押し倒されることになった。
「チョコが溶けてしまいますよ」
「外は暑いぐらいなのになんでこんなに落ち着くんだろう」
「割れてしまいますよ」
「ベッドじゃないのに柔らかくて落ち着くー」
いやそりゃ俺を下敷きにしているわけだからそうだろう。
このままだとバカップルみたいになってしまうからとりあえず離れてもらった。
「はい、飲み物もありますからね」
「甘い物としょっぱい物を同時に食べてーそれからこれっ――んーしゅわしゅわ最高!」
「これ、全部食べていいですよ」
「え、えーっ、そんなに食べたら太っちゃうよー」
顔も、目もガチだ。
するつもりはないがここで取り上げようとしても無理だと思う。
最近は優しさいっぱいではあるものの、本来はうっと言葉を漏らしてしまうほどの力があるからだ。
「りつが食べているところを見るのが好きです」
「げ、下品な食べ方になっていないかな……?」
「全く問題ありませんよ、見る度に思うのはその細い体にどうやって収めているのかということです」
双子かとツッコミたくなるぐらいの姉でもここまでは食べられない。
「お風呂上がりとかにちゃんと努力しているからね、そうでもなければ太っているだけのいいところがなにもない女になっちゃうから」
「だからもっと見せてくださいね」
「い、一方的なのはズルくない? だから、せい君も私と同じぐらい食べられるようにしてくれないと、それで私もいっぱい食べているところが見られたら公平だよね」
「それは流石に無理かと」
「いやっ、女の私より食べられないとか駄目だから!」
しっかり毎日寝ていたとか、しっかり毎日食べていたとかではなくてもここまでの身長になれたから現状維持するだけでいい。
それこそ増やしてもただ太っていくだけだ。
ただ詰めるだけの食事は食材にとって失礼だからするべきではない。
「私の彼氏でいたいのなら定食屋さんでご飯おかわりぐらいはしてもらいたいよね」
「まだ定食屋にいったことがありませんね」
いったのは姉が働いているあのファミレスぐらい。
「む、ということはまだまだせい君の全てが知ることができたわけじゃないか」
「このまま仲良くし続けても全ては知ることができないでしょうね」
「でも、できるだけせい君のことは知りたいよ」
他に教えられること……。
「あ、実は小学生の頃は暗闇が苦手でした、トイレまで母や姉に付いてきてもらっていましたね」
いまもそのせいでからかわれることも多い。
だが、夜に活動することが多くなったとかでもないのに急に変わったんだよなあ。
多分、誰だってこういうことがあると思う。
「なるほど、それなら私も幼い頃の恥ずかしい話をしなくちゃならないようだね。それはね? 梅干しとかスイカの種とかを上手く口から出すことができなくて飲み込んでいたことかな」
「え、大丈夫なんですか?」
「ふふ、見ての通りさ」
スイカの種ぐらいならまだいいが梅干しの種となると結構でかいぞ……。
あ、もしかしてその種があれだけ食べているのに細いままでいられている理由――なんてな。
まあ、なにもなくてよかった。
「他にもあるよ。大好物だからって沢山食べたら三日間ぐらいトイレとお付き合いすることになったとか、嫌いな物なのに食材に失礼だからとか考えて無理して食べて結局、吐いてしまったとかね」
「はは、食に関することばかりですね」
「うん、三大欲求の中で一番強いのは睡眠欲求らしいけど、ふふ、私の場合は違うみたいだね」
それなのによく俺を好きになってくれたなこの人。
三大欲求とはまた別の話で、そことここは繋がっていないのか?
「時と場合によるけどね」
「そうですね」
眠たくなってウトウトしているときだってあるからりつも普通の人だ。
胃の許容量と怪力だけで判断したらモンスター扱いもできてしまうが。
「やばい、ガッツリ食べたくなってきた」
「それならなにか作りましょうか?」
「ううんっ、お店にいこう!」
またなんか変な感じになっても内に抑えるのに困るし、これの方がいいか。
やっぱりなにか食べて「美味しい!」 となっているときが一番好きだ。
あとは子どもみたいにご飯粒とかを頬につけながらも気づいていないところが面白い。
「焼肉屋さんにいくのはどう?」
「ちゃんと付き合いますよ」
「よしっ、レッツゴー!」
か、金のことについては深く考えすぎないようにしよう。
普段よりも少し多く出すだけで彼女の好きなところが沢山見られるのだからいい。
と、そう言い聞かせてハイテンションなりつの横を歩いていた。




