06
「ぬわんだってぇぇぇええ!?」
う、うるさ……。
「なに勝手に一人で動いているの! そういうところも平間君の悪いところだからね!?」
「でもほら、先輩に『付いてきてください』なんて言えるわけがないですよね?」
「普通に頼んでくれた方が心臓にいいよ!」
とは言われてもなあ……。
池内が家に来てしまったから変に時間を経過させるのは微妙だった。
それに試されていたみたいだから先輩を召喚していたら不合格になるだろう。
「……それで? どうだったの」
「平和に終わりました」
「それならいいけど……また悪口を言われたのに隠そうとしているとかなら怒るからね」
「いやそれが本当になかったんですよ。しかも、何故か件の女子じゃない方の女子から謝られてしまいまして」
全く時間が経過していないから余計に謎感が強くなる。
でも、もう家に来たりはしないだろうし、これでやっと向こうもスッキリできたのではないだろうか?
「どういうこと?」
「さあ。でも、離れたことを気にしていたのかもしれませんね」
「あ、また連絡先を交換とか……」
「していませんよ? 会って五分ぐらいで終わりましたからね」
疑われたら嫌だから今回も見せておいた。
そうしたらガシッと奪われてえぇとなった。
「志水ちゃんとも最後にやり取りをしたのは一週間前と……」
「また止まっていますね」
「私とは……さっきが最後か」
「あの、分かっていることなのにわざわざ言う必要はあるんですか?」
「だ、だってこれだと私と平間君が頻繁にやり取りをしているみたいじゃんかーも、もー」
なんか滅茶苦茶へにゃっとした笑みだな。
責めたいのかそうではないのか曖昧な感じ、気温みたいに分かりやすくあってほしい。
「とにかく、次があったら付いていくからね」
「はい」
「じゃ、今日は一日中だらだらしよう」
今日も今日とて俺の家だから俺的にはそれで全く問題がない。
とはいえ、もう八月になりそうなところまできているからこんな感じで終わっていくのだろうと想像してしまった。
せっかくこうして一緒にどこかに遊びにいくことができる相手がいるのにこれでいいのかと変わってきてしまっている自分がいるのだ。
夜になれば姉は普通に帰ってくるのに仕事があって邪魔されているのもここに繋がっているのかもしれなかった。
「あーなにか食べにいきませんか?」
「食材を多く使うことになってしまうけどお昼になったら私が作るからいいよ」
「じゃあ……ゲームセンターとかに遊びにいくとか」
「私、ゲームセンターにいって嫌なことがあってからはいかないようにしているんだよね」
他の友達のところにいくかと思えば先輩が普通に来てしまっているのも影響しているのにこの人ときたら……。
「ならカラオケとかどうですか?」
「平間君の前で歌うのは恥ずかしいからやめておくよ」
このっ……。
もうこれ以上はやめておくか、先輩がいてくれるだけで感謝しておけばいい。
窓の前を陣取って寝転んでいると「ここ、涼しいね」と隣に移動してきた。
先程の発言からも分かるようになんにも動きたくないとかそういうことではないらしい。
「友達はいいんですか」
「あ、うん、連絡してみたけどみんな違うことで忙しいみたいだったから。というかさ、直接教えてくれるのもいいけどメッセージで送ってくれたらよかったのに」
「そうしたら昨日先輩は突撃してきそうだったので」
「これを昨日知ることができていたら間違いなく突撃していたね」
馬鹿だな、それならそれでこうして中途半端な気持ちにならずに済んだのだ。
でも、今更気にしたところで変わらないからもどかしい。
「あ、志水ちゃんからだ」
「遊びにいきたいとかですか?」
「いやっ、いまあの子達と一緒にいるんだって! 平間君いこう!」
いや今日は無事に乗り越えられる自信がないぞ……。
会ってもお互いに「や、やあ」となって気まずくなるだけ、損なことしかないからいきたいなら先輩だけでいってきてほしい。
「あ、平間君の家を知っているんだから来てもらえば効率がいいか」
「待ってください、そんなに大人数で集まるような場所じゃ――」
「はははっ、全員で五人なのに大人数って! あーっ、お腹が痛い!」
楽しそうだなおい。
ただ、この前のことがあって追い出すわけにもいかなかった。
この先輩は普段は楽しそうなのに一気に爆発するから怖いのだ。
最初が最初だけにもう二度と来ないかもしれない、俺ももう全く一緒にいられないようになるというのは微妙だ。
「……分かりましたよ。ただ、それでもここでは集まりたくないです」
「それならいこっか」
「はい」
せめて一週間ぐらいが経過してくれていればと考えずにはいられない。
祭りの会場で遭遇してしまった! とかならまだよかったのに。
志水は地味に敵みたいな行動することが多くないか……?
「どんな子達なんだろう?」
「まあ、普通ですよ」
大西も池内も「志水め!」となっていたらいいがな。
もしそうではないなら先輩と志水だけが盛り上がるカオスな時間になりかねなかった。
「あれ、私はりつ先輩にだけ来るように言ったのになんでか平間もいるね?」
「志水……」
「ごめんごめん、ちゃんとりつ先輩が連絡をくれたから大丈夫だよ。あの二人にとってどうかは分からないけど」
本当だよ。
少し離れたところにいるからまだなんとかなっているだけで近づいたらどうなるのか。
「それがね? 平間君は勝手にあの二人と会っていたんだよ」
「え、そうなんですか? って、それを知っているからこそ今日も一緒にいるかなと思ってりつ先輩にメッセージを送ったんですよ」
こいつやっぱり敵だろ……。
それでもずっとこの距離感のままいるわけにはいかなくて集まることになった。
「平間がちゃんと全部聞いてくれなかったから気になっているんだって」
「あーそれは悪かったな」
「私もそこから先は知らないかられなかりさが動いてくれないとどうにもならないよ?」
「わざとだろ」
「え、えーわざとなわけがないだろー?」
キャラを壊してまでふざけるようなところじゃないだろ。
まあ、こうして話していたらいつまでも切り出せないだろうから黙るか。
先輩は何故か俺の後ろにいて裾を掴んだまま黙っているから動きやすいだろう。
「ひ、平間」
「おう」
「実はあのとき、私はりさに……」
池内に……なんだ?
あっ、実は同性とか関係なく好きだったとかそういうことだろうか。
異性をそういう目で見られないなら色々と自由に言ってもおかしくはない……か?
「平間、あのとき私はれなにああやって動くように頼んだの」
「え」
それをしてなんの意味があるのか、だってあの前に既に振られていたのに。
やり直しなんかできないから何度繰り返してもあの結果だった。
というか、大西もなんで頼まれて動いたのか。
「……もう一回仲直りして上手くいってほしくなかった」
「少なくともあのときの俺は大人じゃなかったからあれがなくてもこれまで通り友達として上手くやるなんてできなかったぞ」
しかも悪く見られるかもしれない可能性だってあったのだ。
「んーれなもなんで言うことを聞いちゃったの?」
志水の存在も謎だ。
俺と大西、池内は学校ではほとんど一緒にいたのに共通の友達とかな。
その間、近づいてきていなかったからこそ知らなかったわけだし、友達なのに学校では我慢していたのも変だ。
「それは……」
「というかさ、りさのそれはずるくない? 上手くいってもそれで嬉しいの?」
「それについてはもう謝った、平間にだって昨日ちゃんと謝ったから」
まあ、それは本当のことだ。
「それで平間は終わらせたの?」
「ああ、あれ以上続けても意味はなかったからな」
「じゃあこれで終わりでいいか」
下手に刺激して二回目の悪いイベントがここで起こっても嫌だしな。
相手が弱々しい状態のときに追い打ちするような悪い人間でもない。
「つか志水、なんで中学では大西と池内に近づかなかったんだ?」
「そんなの平間がいたからだけど。だってさも『この二人は俺の女だぜ』みたいな感じで――それは冗談だとしても近づきづらかったんだよ」
スルーだスルー。
「別に睨んだりとかしていなかっただろ?」
「しかも私まであそこに加わったら平間のハーレムみたいになっちゃうでしょ?」
「はは、実際はハーレムどころか真反対の結果に終わったがな」
あ、気を付けないと。
自分に原因があってもそのまま口にしてしまえば先輩が爆発する。
そうでなくてもずっと黙ったままで不気味なのだから。
「だそうです。先輩、これからどうしますか?」
「……帰ろ?」
「はい。それじゃあ志水、後は頼んだぞ」
「分かった」
志水は中立でもないし、敵でもないがよくもない女子だと分かった。
なにも得られないまま暑いところにいなければならないよりはマシだったと片付けよう。
「そういえば二人はどうでした?」
「……二人とも可愛い子だった」
なんでここでそんなに悔しそうな顔ができるのか。
影響を受けすぎても疲れてしまうだけ、先輩はもう少しぐらい緩く生きられるようになった方がいいと思う。
「先輩からしたら退屈だったでしょうし、飲み物でも買いますよ」
「それなら一本を分けて飲もう」
「別に一本ぐらい増えても問題ありませんよ」
正直、いまの俺は飲み物とか食べ物とかで先輩を釣りたいだけだ。
真顔でいられるよりはいいかもしれないがマイナス寄りの顔のまま存在されていると怖い。
しかも未だに裾を掴まれたままだから先輩がその気になればぶん投げることだって可能なわけで……。
いやほら、この人は女子らしくない馬鹿みたいな力を有しているからな。
「一本でいいから」
「は、はい」
まあ、少なく済むならその方がいいか。
先に飲んでもらってから残りを一気に飲み干しておいた。
「姉貴、祭りの日は頼むぞ」
「うん」
よし、これで機嫌が悪くなってなくなることもないだろう。
「はぁ……せい君、私になにか言わなければならないことがあるよね?」
姉に言われなければならないこと……? いまのぐらいしかないが。
姉の好きなアイスや他の食べ物を勝手に食べてしまったとかでもないし、ため息をつかれる理由が分からない。
「はあ~……れなちゃん達に会ったこと、なんで直接教えてくれなかったの? りつちゃんが教えてくれていなければ一人だけ知らないまま終わっていたんだよ?」
「ああっ――あ、それはあまりにも急だったからな」
「なのにりつちゃんが知っているの?」
「二回目は一緒にいたからな」
あの場で仮に罵倒されていたとしても姉には言っていなかっただろうがな。
この人も先輩みたいな属性を持っているから爆発しかねない。
突撃しようとしても困るものの、一番嫌なのは泣くかもしれない可能性が高いからだ。
「先輩はどうだった?」
「普通な感じで教えてくれたよ」
「まあ、そりゃそうだよな」
やっと俺のことで疲れないように動けたみたいだ。
「アイスでも食べるか」
「それなら自動販売機のやつが食べたい」
「冷蔵庫にあるが……まあいいか」
先輩にばかりというのにもなんとも気持ちが悪いからな。
あの頃も含めて礼をしておくと言うのもいいだろう。
「せい君は一度も泣かなかったよね」
「あれは驚きすぎた結果かもしれない」
「私が出ていこうとしたときも真顔だった」
「一生会えないままというわけじゃないんだから普通じゃないか?」
話しかけられて無視をしたわけでも、なにも言わなかったわけでもない、「まあ、頑張れ」とは口にしたのだから許してほしい。
「りつちゃんが急に消えたらどうなる?」
「そうなったらもう寂しいかな」
「私は?」
「例えばいい異性を見つけて結婚とかならいいがいい理由で以外は目の前から消えてほしくないな」
「結婚か……私には無理だよ、だからせい君がお願いね」
そんな大事なことを任せてくれるな。
寧ろ姉に任せたいよ、昔だって「好きな人と結婚して子どもを産みたいな」と言っていたぐらいなのに弱気だ。
「多分、好きな人ができたとか言ったら私でもお母さんに『どうせ嘘でしょ?』と言われちゃうよ」
「簡単に……想像できるな」
「うん……」
で、信じてもらうためにはその相手を家まで連れていかなければならないわけで。
人によっては「え、まだ家は……」となるときもあるから難しい。
「とりあえず食べるか」
「うん」
王道のバニラ味を選んだ、姉はバナナ味を選んでいた。
特にベンチとかもないからそのまま開封して食べていると「おーい!」という割と大きい声が聞こえてきて意識を向ける。
「や、やっとお昼にむつみさんと会えた!」
姉だっていつでも土曜や日曜に仕事があるわけでもないのにそういう日に限って先輩が来ていなかったことでこうなっている。
だが、暑さにやられていて積極的ではなかった姉にも原因はあるのか……?
「ふふふ、こんにちは」
「ははは、こんにちは!」
……なんか先輩が加わると途端により暑く感じるな。
この人自体が熱源なのかもしれない。
「せい君おかわり!」
「な゛っ!? ひ、平間君私も!」
「分かりましたよ、とはなりませんよ」
「ぬわあ!? また露骨に差を作られているよー!」
祭りのときだけでよかったはずなのに最近は変になっていた。
ここでしっかり切り替えようとなにを言われても変えたりはしなかった。




