04
同じ番号からしつこく電話がかかってきている。
調べてみても大して情報が出てこないからこちらからかけてみよう、とはならない。
ブロックするか――と動こうとしたときにかかってきて一回だけ出てみることにした。
「もしもし」
「あ、平間? 私だよ私、志水だよ」
なんでこの女子は俺の電話番号知っているんだよ……。
「平間に自由にした子じゃない方の子から聞いたんだ」
早めから持っていたことと、電話番号が変わっていなかったことが問題だった。
「消したけどやっぱり寂しい感じがしてね」
「だったら俺の家にいくとかいくらでもやりようがあるだろ。正直、ブロックするところだったぞ」
「平間が『お互いに消した方がいい』とか言うからでしょー家の場所は知っているけどさ」
「待て、知っているのか?」
「あのときクラスメイトだった子のほとんどの家は知っているよ」
え、こわ……マジでなんだこの女子は。
つか、家の場所を把握する前にまず本人に話しかけてこいよってな。
「俺ら一度も話したことがないだろ」
「うん、遠くから見ていただけだったね」
「なのに最近のあれはなんだ」
あたかも友達みたいに話しかけてきた。
あれだと俺も知らないが全く知らない二人が勘違いしてもおかしくはない。
「ああいうやり方の方が楽だったんだよ。なんか――どっちがお姉さんだったっけ?」
「髪が長い方だ」
「そうそう、お姉さんはよかったんだけどもう一人の先輩? が怖かったから」
先輩が睨んだりするかあ……?
漫画やアニメに出てくるヒロインみたいに女子といるだけで攻撃的になる女子なんていないだろう。
「ということでいまからいくから」
「どういうわけだ……」
「平間の家にいくから大丈夫だよ、待ってて」
それなら待っているだけでいいか。
ここで「危ないだろ、そっちこそ待っていろ」なんて言うような人間ではない。
相手が志水なら尚更だ、姉や先輩が相手の場合は……。
まあでも、一応玄関前のところで待っておくことにした。
夜になってもなんとも中途半端な気温でスッキリはしない。
「お、外で待ってくれていたんだ」
「一応な」
「はいはい、すぐに連絡先を交換しよう」
交換しつつ、あいつらと普通に話せるのなら必要ないだろと言いたくなった――いやぶつけておいた。
「平間のことが好きじゃなくて受け入れられなかったとしてもなんであんなことをしたんだろうね?」
「さあな」
友達が多かったわけではないし、友達以外に意識を向けていたことはほとんどなかったからああいうのが現実で結構起こっている事なのかどうかは分からない。
でも、俺だけとかならいいな。
だってそんな事ばかりが起こっているような世の中は嫌だろう。
「あ……実は私、あの子とも友達だったんだよね」
「なにか言っていたか?」
「ううん」
アレに悪口を重ねるような人間ではなかったということか。
というか、なんらかのマイナスな感情から動いたわけだから俺のことについてあれ以上は触れたくないか。
「志水があの二人と友達だったとかはどうでもいい、もうこの話は終わりにしよう」
「うん」
いやマジで交換してどうすればいいのか。
目の前の志水と定期的にやり取りしているところが想像できない。
仲良くなろうとしても違う高校同士ということで面倒くさいし、予定も合わなくて結局いまとそう変わらない気がする。
「お姉さんいる?」
「そういうことか。いるぞ、連れてくるから待っていろ」
これだけで楽になるって変な話だよな。
姉と会うため、先輩と会うため、それでなら利用してくれたっていい。
数回ぐらいなら慣れるまで付き合ってやろうとしているぐらいには気分は悪くなかった。
「ほら」
「物凄く眠たそうだけど……」
こうなっているのは姉貴の自業自得だ。
早く寝なきゃ不味いとか言っているくせに毎晩、遅くまで俺の部屋で話すの繰り返しだから。
「ん……? この前の……」
「あ、志水です」
「志水ちゃんかー」
無駄に怒られそうだからこのことを先輩にも教えておくか。
メッセージを送ってすぐに『なんだとお!?』とアプリ内でもハイテンションなところを見せてくれた。
あとこの先輩、反応するまでが早すぎる。
女子ならこう……友達とずっとスマホでやり取りを~みたいなことをしていそうなのに――だからこその反応速度か。
「せい君がごめんね、いつもすぐに消そうとするからさ」
「でも、了承したのは私なので」
「ふふ、それでもまた来てくれるなんて実はせい君と仲良くしたかったりするのかな?」
「平間といれば面白そうですからね」
おいこら……。
志水とは志水と、という風にみんなで一緒に過ごすつもりはないので期待するだけ無駄だ。
「また消されたら困るから連絡先を交換しよう」
「はい」
あくまで同じラインにまで運んでやるのが俺の仕事だからこれだけで満足だった。
「スマホとアプリを見せて」
「はい」
恥ずかしいことはなにもないのでこうなってもへっちゃらだ。
「怪しい……なんであの子の方からもう一回聞きにくるの?」
「細かいところまでは分かりません」
「そうだっ、三人のグループを作ろう!」
まあ、それでもなにかデメリットがあるわけではないからな。
この人がそれで安心できるのなら楽でいい。
「勝手に登録するわけにはいかないからまずはいいかどうか聞いてほしい」
「はい」
もう夏休みに入っていて時間があれば反応してもらえるだろうから送っておいた。
部活があってもスマホが大好きそうだから大丈夫だろう。
「あ、先輩に会いたいと言っています」
「あの子が知っている一番近いところってどこ?」
「俺らが通っていた中学ですかね」
「ならそこに集まろう」
志水の家を知らないからこう答えるしかない。
でも、高校と違って遠い場所からも〇〇中学に通っているなんてことはないだろうから間違いでもないだろう。
「平間君はこっちだったか」
「少しの違いで中学って分かれますよね」
「そうそう、友達と別れることになって寂しかったよ」
まだ時間があるだろうから飲み物でも買って待つか。
自動販売機が近くにあるから先輩に聞いてから買って渡しておいた。
「え、えーどうしたの?」
「別に」
「こ、このジュースみたいに冷たいね……?」
現在は冷たいどころか物凄く暑いが。
できるだけ早く来てもらいたいところだ。
「おーい」
「お、今日も元気だなあ」
って、早速破っているなこれ……。
志水とは志水と~とはなんだったのか……。
「先輩――」
「りつでいいよ」
「それならりつ先輩で。ところで、なんで夏休みなのに平間の顔はいつも険しいんでしょうね」
普段は知らないがいまは日の光が眩しいからだ。
いますぐにでもここから離れたい、だって中学も別に好きな場所というわけではない。
なんならまだなにも起きていない高校と違って嫌いの部類に入ってくるぐらいだ。
「いつもこんな感じだから慣れちゃったよ」
「そこはりつ先輩が頑張って変えていかないと。まあ、平間が女子といるだけでレアですけどね」
「そ、そうなんだ」
合っているような間違っているような。
二人の女友達といられなくなった後でも心配性な姉がずっと近くにいたからなんとも言えない。
身内をノーカウントにするかどうかは人によるから。
「というか、私はてっきりあの子の方が好きなんだと思っていたんだけどなあ」
「確かに二人きりで過ごす時間も多かったな」
「うん、関われていなくても分かっていたぐらいだからね」
「いや見るなよ……」
マジで見るなよ……。
三人でいることも多かったが騒がしくしていたつもりはない。
「そう無茶を言わないで――」
「ぬわー! 二人だけで盛り上がるの禁止ー!」
「痛い痛い……そこで私を攻撃してくるんですね……」
「全部志水ちゃんが悪い!」
俺もこの人の過剰にハイテンションなところにすっかり慣れてしまったようだ。
切り替えられて前に進めているわけだから俺の能力も悪くないのかもしれない。
「本当は志水ちゃんも仲良しだったとかないの!?」
「ないですね」「ありませんね」
「信じるからね? 後から『嘘でした、すみません』とか言われても受け入れないから」
仲良しだったら志水も俺を切って延々に話すことがない対象となっていた――ではなく、そうではなくても延々に話すことがない対象だったのだが本人が変人のせいでこんなことになっているだけだ。
「あ、暑いから誰かの家に移動しない?」
「それなら平間に警戒されたくないし、平間の家でいい?」
「まあ」
「じゃあ平間の家にいきましょう」
菓子なんかはないが我慢してもらうしかない。
「中に入ったのは初めてだからこれだけで楽しいよ」
「そうか」
「りつ先輩、私って露骨に態度変えられていますよね?」
えぇ、ちゃんと反応しているのにこの結果は……。
俺だってなにを言われても気にならないというわけではないのだが。
なんなら少し引きずってしまうぐらいには人間らしい弱さがあるぐらいで。
「うーん、私のときでもそうだから志水ちゃんだけってことはないよ」
「分かった、シスコンだ」
「そうそうっ、平間君はむつみさん大好きだからね」
まあ、ちゃんと見られていなかったときも嫌いとまではいっていなかったからな。
家族のことを無駄に嫌うことになるよりはいいだろう。
「あっ、だけど平間君はこう……ここぞというところでぐいっと踏み込んでくるから……」
「えー平間ー私自慢されているんだけどー」
「だからそういうときにうぐっとなっちゃうかな」
先輩は慌てると声量が大きくなる。
なのでいまは言いづらそうにしながらもあくまで内は普通ということだ。
そうだよな、同性の志水が味方になってくれればかなり楽になるからな。
俺相手にも滅茶苦茶行動できてしまうぐらいだから姉と仲良くしたいときにも役に立つわけだ。
「つまりもう何回かは平間君のそれでクリティカルヒットしてしまったわけですね?」
「……最初があれだったのに切り替えてくれてからは……」
「ふふ、りつ先輩も乙女ですね――そうだ、ないだろうけど『会いたい』と言われたら平間はどうする?」
「それってあの二人にだよな、会いたいと言われたら普通にいくよ」
まあ、いまなら普通に話して終われるだろう。
もしそう上手くいかなかったらそこまで合わない相手だったと分かる。
とはいえ、出会って一年とかでもなくて、約四年ぐらいは一緒にいたわけだからそれならそれで寂しいのもあるが。
なんにしてもいまよりもはっきりするのはいい。
「おお」
「それで今度こそ完全に終わりになる。中学のときの俺は逃げてしまったようなものだからな」
「と言っているけど平間は言い訳もしないでずっと近くにいたでしょ、逃げたのはあの子達の方だよ」
「まあそりゃ、振られた男なんてなにをしてくるか分かったものじゃないからな」
振って終わらせたはずなのにまた来るようなら面倒くさいだろうから仕方がない。
「そ、それを男子の平間が言うの?」
「もっとも、当時はなにかしてやろうなんて元気はなかったが」
いや本当に恥ずかしい。
ただ、これを人に話せているようになっていることがかなり大きかった。
「ぶぅ」
色々な意味で強気には出られなかった。
それこそいまとなってはあの女子達よりも相手をするのが大変だ。
「まだ帰らないんですか」
「平間君のああいうところは嫌い、なんで全部自分が悪かったことにして終わらせようとするの?」
「いや、俺がネチネチ責めるような人間の方がよかったということですか?」
「ふざけないでっ、そうは言っていないでしょ!」
ああ、慌てていなくても声量が大きくなるときはあったな。
そしてふざけているわけではないと分かるからこそやりづらいこともある。
「落ち着いてください」
「……平間君がちゃんとしてくれていたら私だって叫ばなくて済むんだから」
それでも謝るようなことではないから謝ったりはしなかった。
先輩も自分のことで叫ぶようにしてほしい。
相手のために一生懸命になれるのはいいことだが。
「た、ただいま~……」
「帰ってきていたのか、おかえり」
「うん……りつちゃんが叫んでいるときにね」
それは俺が悪いので謝っておいた。
別に差を作っているとかでもないし、仮にこれで差を作っていると判断されても構わない。
「むつみさん、私は平間君に直してもらいたいところがあります」
「そう言われてもそのことに関しては協力してあげられないかな」
「分かっています。でも、そこだけは気に入らないんです」
先輩ももっと大雑把に生きればいいのに。
マジでこんなことで時間を使うのはもったいない、なんなら俺といること自体がもったいない。
「このままだとお互いに疲れちゃうから少し離れてみるのもありなんじゃない?」
「それは嫌です」
「じゃあ合わせてあげないと」
「うぅ……」
なんかよくない方向に傾きそうだったので止めておいた。
なにかと志水が出してくるだけで自分から出すつもりはないのでいまよりはマシになるはずだった。




