02
「じゃんけん――ぽん!」
「先輩の勝ちですね」
「よしっ、これでこのお菓子は私の物だ」
こうなっているのは母のせいだ。
普通に分ければいいのに「勝った方にあげるよ」とか言い出した結果だ。
先輩は律儀に乗っかって勝負を仕掛けて、そして俺に勝った形になる。
「あのさ、さっきお母さん泣きそうになっていなかった?」
「いえ」
あれは二人きりになった途端に自由に言われるフラグだ。
だから先輩には帰ってもらいたくなかった、が、そうもいかないから菓子のことも片付いたので家まで送っていくことにする。
「私の家を教えておけば休日に平間君が来てくれる可能性が高まるからいいよね」
「連絡先を交換すればいいと思います」
「え、えーそれはなんか早くない……?」
「そんな反応をするくせに家を教えてしまっていいんですか?」
「家はいいでしょ」
いやそこは避けるべきだろ、よく分からない人だな。
先輩はまるで子どもみたいに大きく手を振りながら楽しそうだった。
「私の家はあそこだよ」
「ここからなら学校まで近くていいですね」
「家を出てから十分ぐらいしか経過していないんだから君だって同じでしょ」
家に……帰りたくねえなあ。
母に自由に言われたら無駄に精神ダメージを受けることになるから避けたい。
でも、金に余裕があるわけではないからどうしようもないと。
「にしし、送ってくれてありがとね」
「はい、それではまた」
「うん、気を付けてねー」
あれから全く時間が経過していないのに意見が変わってダサいがこれなら先輩といられた方がいいぞ。
あとは過保護姉が来ていた方がマシと言えるか。
「ただいま」
「おかえり」
いちいち玄関まで来るなんてと固まっていると「ちゃんと連れてきてくれて嬉しかったよ」とこれまた母らしくないことを言ってくれた。
「仲良くできそう?」
「あー先輩次第かな」
「それならりつちゃんがいつまでも来てくれるように願っておくね」
「いや、母さんは自分のことに集中してくれればいい」
先輩が消えてしまっても寧ろそれが自然だ。
逆にここで「どこかにいかれたくない!」とか考えるようなら気持ちが悪いから駄目だ。
「あ、そうそう、お姉ちゃんが戻ってくるんだって」
「い、いつ?」
「来週の土曜日にこっちに戻ってくるみたい」
マジか。
まあ、それならそれで先輩に会わせてみるのも面白いかもしれない。
時間が経過して姉の方も落ち着いただろうからこれからは姉弟らしく仲良くしていけることだろう。
「結婚とかしてくれればいいんだけどなって」
「娘や息子が元気に生きているだけで満足してくれ」
両者付き合えてもいないのに結婚とか遠い話すぎる。
つか、あの姉はなんでずっと付き合わないままでいるんだ?
学生時代は何回か「告白されたんだよ!」と言っていたぐらいなのに。
名字や名前も無駄に教えてくれていたから確かめにいったこともあったが全員というわけではなくても女子からすれば結構魅力的な人間も多かったと思う。
「じゃあせいはりつちゃんと付き合えるように頑張って」
「まだ仲良くするところからだろ……」
ただ、このことを早く先輩に言いたくなって翌日は自分から先輩の教室へいった。
「どこからか見られている気がする」
「あの子じゃない?」
「おおっ、ちょっといってくるね」
廊下近くの席だからこそで別に入っていたわけではないぞ。
「ふふふ、声をかけたいけど声をかけられないで気づいてもらえるまでじっと見ているだけなんて可愛い後輩君だね?」
でも、勘違いされそうになるぐらいなら突撃してしまった方がよかったか。
先輩は冗談なのか本気なのかよく分からない状態でいることが多いのでそういうことになる。
「先輩、来週の土曜日に俺の家に来てくれませんか?」
「お、おお、君は仲良くすると決めたらぐいぐいとくる子なんだね?」
「来週、姉が家に帰ってくるので紹介したいんです」
「お姉さんもいたのか! ふふふ、楽しみだなあ」
いやこれに関しては俺の方が楽しみだ。
比べてみた結果ここは違うとか、あれは同じとかそんなことでも楽しめる。
「どんな人なの?」
「心配性な人です」
「なるほど。平間君が一人でも平気だったのは家に帰れば自分のことを考えて行動してくれる人がいたからだね?」
家族と不仲とかでもなければみんなそんな感じではないだろうか?
一発で信じてくれないことも多い母だってあの頃は俺のことを心配して結構動いてくれていたし……。
「小、中学生時代は友達、普通にいましたよ」
「お、女の子……とか?」
「まあ、二人ぐらいは」
「なんだってー!?」
悪かったのはその女子二人が共通の友達だったことだ。
そのため、片方と駄目になったときに連動するように消えてしまった。
余裕がなくて表に出してしまってとても続けられるような強さがなかった。
「でも、終わりは最悪でしたからね」
「な、なるほど、だから私のときもあんなに警戒していたんだね?」
まあ、それでいいか。
集まる約束はできたから俺的には十分だった。
「ほほう、駅で待っていようなんて君はもしかしてシスコンさんかな?」
「いえ、そうしてほしいと頼まれたのでここにいるだけです」
ここに来てから三十分、それでもまだ姉は出てこない。
先輩も待たせてしまっているから早く出てきてほしいところだ。
「お、来た――」
「せい君!」
……出ていってからは時間も経過していないから当たり前かもしれないが全く変わらない姉がいた。
なんならこっちを発見するなり抱きしめられてえぇとなった。
「ま、まさか姉弟で禁断の恋とかっ?」
おいこら。
「ん? あれ、この子はせい君の彼女?」
「いや、学校の先輩だ。横田――」
「横田りつですっ、よろしくお願いします!」
「元気な子だねっ、よろしく!」
うんまあ、似ていることがすぐに分かったことはいいことか。
何故か自分の方から教えようとしないのでむつみという名前だと教えておいた。
「で、なんで急にこっちに?」
「勤めていた会社が潰れちゃった」
「え、マジか……」
そういうことは先に言えよ……両親にも言っていなさそうだ。
だが、父なんかは姉が戻ってくることを知って分かりやすく喜んでいたから理由はともかくこれは悪いことではない? かもしれない。
「ま、まさか近いところでそんなことが起こるとは……」
「私もまさか自分がそうなる側だとは思わなかったよ。とにかく、こっちでお仕事を探して働くよん」
一緒に行動することになったときに内で姉についてごちゃごちゃ考えてしまわないようになっただけでかなり楽になった。
姉には悪いが一旦だけでも離れてくれて助かったな。
「りつちゃんの身長は私と同じぐらいか。よし、このままお家に来てくれるなら服とかをあげよう」
「いいんですかっ?」
「うんうん、捨てるよりも有効活用してもらえた方がいいからね」
先輩って本当に可愛げのある人だな。
こうやっていい意味で分かりやすく反応してもらえたら嬉しいだろう。
「あと敬語はいいよ、そのかわり私のことをお姉ちゃんだと思っていてほしいな」
敬語はいいとは学生時代、年下に対して言っていたから違和感はないが後半のはどうなのか。
「ひ、平間君」
「本人がこう言っているなら大丈夫ですよ」
こういうときこそ勢いでやり切ってしまうことが大事だ。
悩めば悩むほど足が止まる、この前の俺みたいに無駄に時間を消費してしまう。
「あ、あの、むつみさん」
「うん?」
「私と平間君は最近話し始めたばかりなのですが仲良くなってみせます!」
えぇ、言いたいことはそれかよ……。
「今日会ったばかりですがむつみさんと仲良くなってみせます!」でいいと思う。
「あれ、そうなの? せい君、やっと前に進めたんだね……」
「む、むつみさん!?」
な、涙もろいところも変わってくれていればよかったのだが……。
これだと泣かせているように見えるからさっさと姉の荷物を持って帰ってしまうことにした。
「あの、過去になにかあったんですか?」
「……それはせい君に聞いてもらわないと」
「だ、だったら仲良くなって教えてもらえるように頑張ります」
あと敬語もやめられていないしな。
後輩には強気に行動できても先輩に対しては難しいのはこの人も同じということか。
マジで姉相手にそういうことを考えて行動するだけ無駄なものの、俺と違って知らないのだから仕方がない。
「着いたー」
「四年ぶりぐらいか?」
「多分それぐらいだと思う、お休みを貰えても帰らないを徹底していたから懐かしいな」
本当にこの人は極端な人だった。
そのせいで姉がいなくなってしばらくしてから変な感情が出て困ったぐらいだ。
あれだけ構ってほしくないと思っていたのにいなくて寂しく感じていたなんて言うわけにもいかなかった。
でも、あの母なら仮にそのまま伝えても「嘘だよね?」と言ってくれたか?
もしそうなら俺は馬鹿な選択をしてしまったことになる。
「姉貴は部屋にいくのか?」
こうして駅から大して疲れずに運べてしまっているように大した荷物ではない。
この時間からこもって格闘しなくてもいいと思うが休みたいということならちゃんと吐いておいた方がいい。
「んーせい君だけだったらそれでもよかったけどりつちゃんもいるからね、こもってしまったらもったいないかなって」
「そう焦らなくても先輩なら来てくれるだろ」
「私もほら、仲良くなっておけばせい君のためになるかなって」
「出ていく前も言ったけど自分のことを優先してくれよ、相手が弟だからって姉貴が頑張る必要はないんだ」
それに全員というわけではなくても似たような経験をしながらもそれを表に出さずに頑張っている人達はきっといる。
俺だけいつまでも心配されているわけにもいかないのだ。
「ほい、じゃあ先輩をあげるから部屋でゆっくりしてくれ」
「ちょ」
会社が潰れたことでも泣いていそうだからなこの人。
自分が厳しいときでも相手のことを考えて行動できてしまう人だからこうして止めなければならなかった。
部屋で休まない選択をした理由に先輩が含まれているのであれば先輩にいってもらえば簡単に解決するはずだった。
「んが……寝てしまったか」
現在は……十五時か、なんとも中途半端だ。
隣の隣の隣の部屋だから賑わっているのかどうかも分からない、また、全員が二階にいても防音対策がしっかりされているのか聞こえたことがない。
一階に移動して麦茶を飲みつつぼへっとしていると「あ、平間君」と先輩も下りてきた。
「麦茶でよければ注ぎますよ」
「ううん、むつみさんが寝てしまったから下りてきたんだ」
人のためなら動くくせに相手にはさせないってずるい人だ。
「平間君がいいなら付き合ってほしい」
「今日誘ったのは俺ですからね、ちゃんと付き合いますよ」
「はは、ちょっと嘘つきさんだね」
「あ、あれは姉貴のためで……」
うわ、それに対してにこっと笑みを浮かべただけとかズルいだろ。
なんか表情一つで自由にやられそうだったから敢えてソファには座らなかった。
「もーそんなに距離を作らなくてもいいでしょ? でも、私も学習したからこっちが移動するよ」
「……合わせてくれてありがとうございます」
「うわこわ!? 絶対にありがとうとは思ってくれていないよねっ?」
「いえ、最初のときのことも含めて言っているんですよ」
やっぱりなんだかんだ言っても普通に誰かと話せる時間があるのはいいことだ。
もちろん、一人のままでも学生生活を特に問題も起こさずに終わらせられただろうがこっちの方が健全だ。
「あの日は学校になんかいかなければと考えましたがいまは違います」
「が、学校が嫌いだったの……?」
「好きではありませんでしたね」
でも、ポカをやらかしていなければこうはなっていないわけだからな。
なんか細かく言うと恥ずかしすぎるので少し濁しておくぐらいでいいか。
「まさか私と出会って変わった……?」
「ないとも言えませんね」
「お、おおっ、やっぱり平間君ってそういう子なんだ」
少なくとも姉弟なのに姉とは似ていないな。
お喋り好きな母とも似ていない、父みたいになにか特定のことに対して強いというわけでもない。
待て、俺はちゃんと血が繋がっているのか……?
「あっ、先に言っておくけどむつみさんと仲良くしたいからじゃないからね? あ、いや、仲良くしたいけど平間君ともそうだって話だから!」
「疑っていませんよ。でも、姉貴と仲良くしたいだけでもそれならそれでいいですから」
「もー疑っているじゃんか!」
そんなことはないのだが。
普通、こういうときに「そうだ、俺だけを優先すればいいんだ」なんて言わないだろう。
「やっぱりまずはお出かけをしないとね。平間君はどういうお店が好き?」
「俺は買わないにしてもゲームを見るのが好きです」
「ゲームか、私の家に最新ゲームがあるよ? お父さんが好きで集めているんだ」
何度も説得を試みなければならないよりは楽でいいよな。
父の趣味なら待っておくだけで常に最新の環境にいられることになる。
「二人でプレイできる物もあるの、だから平間君とやればより楽しめるかなって」
「じゃあ先輩のいきたい店に寄った後にゲームを楽しむというのはどうですか?」
「いいねっ」
あ、ゲームは見るだけでいい派だからやらせてもらったりはしないがな。
ゲーム紹介ムービーをぼうっと眺めておくぐらいが丁度いい。
あと、ゲームが好きならそれをしているときの先輩の笑顔は本物だろうから。
「やばい、楽しみすぎてそわそわしてきた」
「落ち着いてください、俺ならなにか予定がない限りは付き合いますよ」
「う、うん」
これ以上は……やめておこう。
まだどうなるのかなんて分からないから任せすぎるのも問題だった。




