#2~トップセールスマンの転落劇
第二話・・・さぁ、一体いつまで、R-18では無い、一般向けの皮を被ったままでイけるか・・・。
いや何かもう、この前書き(メスガキ)の書き方みたら、限界かな(笑)
それは徐々に始まって行った。
食品には衝動を抑え込む添加物が密かに加えられて、
ニュースではドMな振る舞いが女子高生にモテていると、
それは最初は作られたものだったが流された。
SNSではドMであるほどに映えると言う風潮が上がり、
様々な施策、行動規範、社会常識の変容により、
徐々に人々はドM化して行った。
それは決して急がず焦らず、しかしだからこそ生活に浸透し、
思いのほか早く日常を侵食し始めた。
「管理される事こそ幸せ」という風潮が出来上がり、
管理を拒む者は異端扱いされるようになって来た。
コレはそんな中で、ドM化して行ったある事例のエピソードだ。
慶屋久 都留蔵は、やり手の営業マンだ。
スッと相手の懐に入り込み、気付けば契約を取っている。
営業成績は常にトップで、昇進は確実視されていた。
女子社員達からの人気も当然の事で、しかし彼自身、
まだ若いうちは特定の相手と関係を結ぶ事を拒み、
夜な夜な遊び惚けている裏の面も持ち合わせていた。
「また契約取れちゃいましたー!!
いやぁ、万稔 斎戒君にも、
一件くらいあげようかぁ~?」
しかし、実際には都留蔵にはそんな気など全く無い。
万稔は常に営業成績最下位で、それは顧客の為を思うがゆえに、
もっと経済的で高品質な他社の商品を紹介してしまう。
その事で自社製品は全く売れず、常に辛酸を舐めていた。
しかし、その日は職場の雰囲気が違っていた。
課長は都留蔵を睨み、事務社員も冷ややかな目を向けた。
課長が言った。
「おい、都留蔵。今どきそんなの流行らないぞ。
仕事なんてほどほど、そこそこで良いんだよ。
そんな事より見てくれ、ほら。
私がデスクで育てている植物、
花が咲いたんだ。綺麗だろう?」
最初、都留蔵は何かの冗談かと思った。
しかし、課長の目は冗談を言っている風では無かった。
続けて事務社員の女性が言った。
「都留蔵さん、ガツガツしていて汗臭そう・・・。
あ、臭そうって言うか、実際に臭いですよね。」
鼻を摘まみながらそう言われて、都留蔵は愕然とした。
彼女とは一夜の関係を持った事もある。
あの時には完全に自分に惚れこんでいたはずだ。
それからも契約の度に彼女のキラキラした視線を浴びていた。
それが今ではどうだ、まるで生ゴミを見る目だ。
一体、何が彼女をそこまで変えてしまったのだろうか?
更に彼女が続けて言った。
「あの、正直あの日の事、無かった事にしたいです。
私の人生の中で一番の汚点です・・・。
どうして都留蔵さん、仕事に対してあれだけやる気があるのか
不思議でしたが、あの時わかったんです。
あぁこの人は、他の人には無い強いエネルギーを生む代わりに
強烈な匂いを排出しているんだなって。
ガソリン車とか、エアコンみたいなものですよね。
強い力には必ず排出する何かがある。
都留蔵さんの場合はそれが、非常に強烈な匂いだった。
私、都留蔵さんと同じフロアにいるの無理です。」
都留蔵は絶句し、遂には力なく膝から崩れ落ちた。
「そんな・・・俺がやって来た事は一体何だったんだよ。
そこまで全否定する事はないだろ?
俺、俺・・・」
都留蔵の目の色が変わり、顔を上げた瞬間、トロンとした目になった。
「━事務員さんに罵られるの、気持ち良いかも!!━」
あまりの強いストレスにより、都留蔵の心は現状に適応してしまった。
罵られている事を気持ち良い事だとする防御反応から、
それが快感であると飛躍して受け取ってしまったのだった。
事務員の女性が応える。
「え、気持ち悪・・・都留蔵さん、マジで私と同じ空気吸うの、
止めてもらって良いですか?」
まだ先ほどの、ゴミを見る目ならマシだった。
ゴミに対する目は、もう既に役に立たなくなったモノへの、
憐憫のようなものが込められているからだ。
しかし今の事務員の女性の都留蔵を見る目は、
埃を見る時のそれに変わってしまった。
つまり、そこにあっても無くてもどうでも良い、
存在を認知する事ですら時間がもったいないという目線だ。
しかし、あろう事かその目線を向けられて都留蔵は
簡単に絶頂してしまった。
その後気絶し、社員達はそれを放置してランチへと向かった。
壁に貼られた契約件数ランキング表は破り捨てられて、
代わりに『いかに契約を取るために頑張ったか表』に変えられた。
これは、契約を取るために費やした努力の絶対量が可視化されたもので、
お客様への最適な商品提案に頭を捻っていた万稔がトップとなった。
万稔が、床に寝そべったまま動けない都留蔵に憐れみをかける。
「都留蔵さん、ランチ行って無いでしょ。
ホラ、ボク今月の給料上がると思うので、恵んであげますよ。
コレで駄菓子でも買って腹を満たして下さい。」
万稔は、財布から93円を都留蔵の近くに落して、
その後自分のデスクへと戻って行った。
「あぁ、ありがとう、・・・ございます、万稔様・・・。
93円、く、さ・・・臭・・まさに今のボクですね。」
都留蔵はまだ動けないまま、ありがたそうにその小銭を眺めていた。
さて、ここで疑問になるのは、都留蔵はどうしてここまで急激に
ドM化してしまったのか?についてだ。
これは一番簡単に答えるのであれば、丸木戸紗土香曰く、
『人類は皆、生まれながらに本質的にドMだから』という事になる。
しかし、それでは説明になっていないと感じる人も多いだろう。
何より紗土香の言葉は彼女独自の哲学に基づいたものであり、
我々常人にはおよそ理解出来ないようなものも多い。
そこで、一つの側面からの回答を用意するとすれば、
途中にもあった防御反応、である。
突然の恥辱を受けた時に脳がそれを生命の危機と錯覚し、
興奮物質とストレス物質を大量に分泌する。
こうした極限の緊張状態が快感スイッチをオンにしてしまう。
エンドルフィンという脳内麻薬が脳を満たし、
『屈辱』が『最高のご褒美』に変わってしまう。
更には都留蔵の場合、常にトッププレイヤーでいなければならないと言う、
自身に対する抑圧的なプレッシャーもあった。
こうして心の中に溜め込まれて来たストレスや不安が解放され、
そこに脳内麻薬が流れ込み、このような事態を引き起こしてしまったのだ。
一度これを覚えてしまったら、簡単には抜け出せない。
彼はまだ心のどこかには強い自分への執着があるはずだ。
しかし、それを超えて自分を解放してしまう快感を知ってしまった。
こうなると人は弱い。
少しの刺激で簡単に心を明け渡すようになってしまう。
ギャンブル中毒と同じで、一度作られた快感の回路はもう、
自身の意思によってスイッチをオフには出来ないのだ。
ギャンブル中毒であればまだ、金銭的な問題からそれの解決に向けて
何とかしようとする動きが家族等から出る事がある。
しかしこうした性癖の問題については個人的な秘め事の領域であり、
そこから抜け出す事を勧める他者も現れにくい。
むしろそうした性癖を知ってしまえば面白がって、
更にその回路を強くする向きさえある。
おそらく紗土香の言う『人類は皆、生まれながらにドM』は、
こうした人間に備わった機能が抗いがたく組み込まれているからだろう。
それからの都留蔵は、売り上げがみるみる落ちて行った。
その度に事務社員は『ダサっ・・・』と彼の心を抉った。
しかしその度に彼の中の被虐心は肥大化し、
ついにはそれを言われたいがために自身の売上成績表を彼女に見せながら、
今の自分の現状についてどう思うかを彼女に聞いた。
「ねぇ、事務員さん、見てよ、ボクの営業成績、どう?
正直、情けなくてダサいって思っちゃう?ねぇ、罵ってよ。」
しかし彼女はそうした彼のあまりに行き過ぎた被虐的な態度に耐え兼ねて、
ついには会社を辞めてしまった。
一方で都留蔵はと言うと、辞めた後に彼女の残り香を感じようと、
彼女のデスクの椅子のお尻の所を必死に嗅いでいた。
もうこうなると彼には元のトップ営業社員に戻る道は残されていない。
今回はあくまで、比較的軽い事例をお伝えしただけに過ぎない。
まだまだ多くのドM化事例が報告されており、
そうした報告レポートを読む度に丸木戸紗土香はニヤリと笑う。
彼女にとっては全人類ドM化計画は計画ではなく、確定事項なのだ。
そしてまた今日も多くの者達が、ドMへと堕ちて行く。
明日もそれ以上のドMが生まれ、人々はこの連鎖の中で麻痺して行く。
次回は、更に強度を上げたエピソードについてをお伝えしたい。
あなたは、自分はドMに堕ちないなどと言い切れるだろうか?
いや、もう実は既に・・・。
お読み下さり、ありがとうございました!
応援メッセージ等頂けますと励みになります。




