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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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8/10

第8話『井戸の底に何がいる?/この世界の異変は、ゲームと繋がっている』

良明サイド


 朝、目が覚めると、机の上に紙が置いてあった。

 カイトの几帳面な文字だ。

(来た。カイトからのメモだ)

 俺は飛び起きて、紙を手に取った。

『良明へ。

 急ぎで伝えることがある。

 この世界で、異変が起き始めている。

 街灯が突然消える。木が根元から折れる。空気が淀む。

 旅の中で感じた魔王の力が及ぶ時の感覚に、似ている。

 お前がゲームの世界で戦っていることと、関係があるかもしれない。

 気をつけてくれ。

 カイト』

 俺はしばらく、その紙を見つめた。

(魔王の力……)

 背筋が冷えた。

(ゲームの世界と現実世界が繋がっているということは……カオスの影響が現実にも出てきているってことか?)

 ゲームの設定を頭の中で整理する。

 カオスは封印されながらも力を蓄え、現実世界に干渉しようとしている。

 その影響で、二つの世界の壁が崩れ始めている——。

(やばい。これ、ゲームの話じゃなくなってきてる)

 急いで着替えて部屋を出た。

 宿屋の外に出ると、レオが井戸の前で渋い顔をしていた。

「カイト、起きたか。ちょうど良かった。この井戸、見てくれ」

 井戸を覗くと、水が黒ずんでいた。

 昨日よりさらに濁りが増している。

(これは……カイトのメモにあった「異変」と同じだ)

「いつからだ?」

「昨日の朝から少しずつ。今日になって急に濃くなった。宿屋のおやじも困ってるみたいだ」

 マリアが腕を組んで言った。

「魔力の汚染ね。水源に何かいる」

「何かって……」

「モンスターよ。それも、かなり強い部類の」

(強い部類……)

 俺はゲームの記憶をひっくり返した。

 水源の汚染といえば——。

(トロール系だ! メモにも書いた! ボスのトロールは足が遅いから、イズの光魔法を当て続けるだけで倒せる、って)

「井戸の水源を調べに行く。準備してくれ」

「……また随分と決断が早いな」

 レオが苦笑した。

「グズグズしてたら村の人が困る。行こう」

 四人で井戸の水源を辿って、村外れの洞窟へ向かった。

 洞窟の入口から、むわっとした湿気と、鼻を突く異臭が漂ってくる。

(臭い……。モンスターのいる場所って、なんでこんなに臭いんだ)

「カイト、中はどうする?」

 レオが槍を構えながら聞いた。

「イズを中心に固まって進む。光魔法を随時使ってくれ。暗所でも視界を確保できる」

「分かりました」

 イズが頷いた。

 洞窟の中は薄暗く、水が滴る音だけが響いていた。

 じめじめとした壁を伝いながら、奥へ進む。

 するとー—。

「……でかい」

 俺は思わず呟いた。

 洞窟の奥に、巨大な影があった。

 身長は三メートルをゆうに超えている。

 岩のような灰色の皮膚、丸太のような腕、鈍く光る黄色い目。

(トロールだ。ゲームで見た通りだ。でも)

 臭い。今まで戦ったどのモンスターよりも臭い。

(そして、でかい。ゲームの画面で見てたのより、絶対でかい)

「カイト……あれ、ゲームに出てきたか?」

 レオが小声で聞いた。

(俺が聞きたい)

「……似たようなのは知ってる。作戦はこうだ。レオが正面で注意を引く。マリアは炎で牽制。イズは光魔法を集中的に当て続けてくれ。俺は横から攻撃する」

「光魔法を当て続ける……なぜ?」

 イズが首を傾げた。

「トロール系は再生能力が高い。光魔法で再生を阻害しながら削っていくのが効果的なはずだ」

(メモ通りだ。頼む、当たってくれ)

「……なるほど。試してみます」

 レオが前に出て、槍でトロールの膝を叩いた。

「こっちだ、でかブツ!」

 トロールがゆっくりと振り返る。

 動きは確かに遅い。

(よし、メモ通りだ!)

 イズの光魔法がトロールに降り注ぐ。

 トロールが呻いて、動きがさらに鈍る。

 マリアの炎が側面を焼く。

 俺は横から剣を叩き込んだ。

 しかし——。

「……硬い!」

 剣が弾かれた。

(皮膚が岩みたいだ! ゲームだとこんなに硬くなかったぞ!)

「カイト、無理に斬ろうとするな!」

 マリアが叫んだ。

「弱点は……関節だ! 膝と脇の下! そこは皮膚が薄い!」

(関節! なるほど!)

 俺は作戦を切り替えた。

 トロールの動きが鈍った瞬間を狙って、膝の裏に剣を入れる。

 トロールが大きくよろめいた。

「今だ、イズ!」

「はい!」

 イズの光魔法が全力で炸裂した。

 まばゆい光の中で、トロールが断末魔の叫びを上げた。

 そして、どうっと倒れた。

 洞窟に静寂が戻った。

「……やった」

 俺はその場に膝をついた。

 体中から力が抜けていく。

「カイト、怪我は?」

 イズが駆け寄ってくる。

「大丈夫。ちょっと疲れただけ」

 レオが倒れたトロールを見下ろしながら言った。

「しかし、関節を狙うとは。よく気づいたな」

「……勘だ」

(メモには書いてなかったけどな。現場で気づいた)

 マリアがため息をついた。

「まあ、結果オーライね。水源の汚染も、これで収まるでしょ」

 洞窟を出ると、外の空気が爽やかに感じた。

 宿屋に戻る道すがら、俺はカイトのメモのことを考えた。

(現実世界でも異変が起きている。ゲームの世界でも異変が起きている。これは……本当に繋がってるんだ)

 嫌な予感が、じわじわと大きくなっていた。

(カイト、お前の世界は大丈夫か?)

***

カイトサイド


 放課後、カイトは静かに机に向かった。

 窓の外では、夕焼けが街を橙色に染めている。

 ペンを手に取り、紙に向かった。

『良明へ。

 前のメモで伝えた異変について、続きを報告する。

 今日、恭介が新たな異変を教えてくれた。

 学校の近くの川が、昨日から濁り始めているらしい。

 川岸の木が数本、根元から枯れていた。

 動物の声もしなくなったと、近所の者が言っていたそうだ。

 これは、ただの自然現象ではない。

 旅の中で何度も経験した。魔の気配が濃くなる時、自然がまず反応する。

 お前がゲームの世界で戦っていることと、この世界の異変は確実に繋がっている。

 早く決着をつけることが、この世界を守ることにも繋がるかもしれない。

 それと——一つ聞きたいことがある。

 俺はゲームのキャラクターらしいが、お前はゲームの中で俺のことをどう見ていたんだ?

 俺自身のことを、俺は何も知らない。

 お前が知っていることを、教えてもらえるか。

 カイト』

 書き終えて、カイトはペンを置いた。

 折りたたんで、机の引き出しに入れる。

(良明……お前はゲームの中で、俺のことを見ていたんだろう。俺自身が知らない俺のことを、お前は知っているはずだ)

 カイトは窓の外を見た。

 夕暮れの空に、一筋の黒い雲が流れていた。

 不自然な形をした雲だった。

 まるで、何かの手が空を引っ掻いたような——。

(……気のせいか)

 カイトは目を細めた。

 しかし、その雲はしばらくの間、同じ形のまま空に留まっていた。

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