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ゲームの勇者と入れ替わりました  作者: エア


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第7話『勇者、体育の授業に挑む/これは……ただの偶然じゃない』

第7話『勇者、体育の授業に挑む/これは……ただの偶然じゃない』

カイトサイド

 朝のホームルームが終わると、先生がこう言った。

「今日の三時間目は体育です。グラウンドに集合してください」

(体育……)

 カイトは隣の恭介に小声で聞いた。

「体育とは何をするんだ?」

「は? 体を動かす授業だよ。今日は確か……サッカーじゃなかったっけ」

(サッカー。聞いたことがない)

「ルールは?」

「え、まじで忘れたの? 足でボールを蹴って、相手のゴールに入れるやつだよ。手は使えない」

(足でボールを蹴る。ゴールに入れる。手は使えない)

 カイトは素早く情報を整理した。

(つまり、足さばきと連携が重要な競技か。武術の基本と似ている部分もあるかもしれない)

 グラウンドに出ると、青い空が広がっていた。

 爽やかな風が吹いていて、カイトは思わず深呼吸した。

(外の空気は、どの世界でも気持ちいいものだな)

 チームに分かれて試合が始まった。

 カイトは最初、ボールの扱いに戸惑った。

 足でボールを蹴るという動作は、剣の素振りとは全く違う重心の使い方が必要だ。

 何度か空振りして、恭介に笑われた。

「お前、なんで急に運動音痴になってんの」

「……少し、感覚が戻っていない」

(良明の体は、運動が苦手なのか。筋肉の使い方が全然違う)

 しかし数分後、カイトはコツを掴んだ。

 重心を低くして、足の内側でボールを捉える。

 旅の中で培った体幹のバランス感覚が、じわじわと活きてくる。

「あ、岬君! こっち!」

 美紀子が手を上げた。

 カイトはボールを蹴って美紀子に繋いだ。

 美紀子がゴール前でシュートを打つ。

 きれいに決まった。

「やった! 岬君、ナイスパス!」

 美紀子が駆け寄ってきた。

 その笑顔が、やはりイズに重なる。

(……困ったな)

「ああ。よく決めた」

 カイトが静かに答えると、美紀子が少し嬉しそうに笑った。

 授業が終わり、教室に戻る途中だった。

 恭介がカイトの袖を引いた。

「なあ、良明。ちょっといいか」

 真剣な顔だった。

「どうした?」

「最近さ、なんか変なこと起きてない?」

(変なこと?)

「どういう意味だ?」

「いや……昨日さ、帰り道に街灯が一斉に消えたんだよ。昼間なのに。で、なんか空気が重くなったというか……うまく言えないけど、ぞわっとした感じがして」

 カイトは内心で緊張した。

(街灯が消えた。空気が重くなった……)

「それだけか?」

「いや、それだけじゃなくて。今日の朝も、学校の近くの公園の木が一本、根元から折れてたんだよ。風も吹いてないのに。なんか、最近おかしくないか?」

 カイトは窓の外に目を向けた。

(これは……ただの偶然じゃない)

 旅の中で、魔王カオスの力が及ぶ時、自然に異変が起きることがあった。

 動物が怯え、植物が枯れ、空気が淀む。

 まさか、この世界にも——。

「……気をつけた方がいい。一人で出歩く時は、特に」

「え? なんで? 良明、何か知ってるの?」

「いや……ただの勘だ」

(良明に伝えなければ。これは、ゲームの世界だけの話ではないかもしれない)

 カイトは教室に戻りながら、机の上のメモ帳を引き出した。

 そして、ペンを走らせた。

『良明へ。

 急ぎで伝えることがある。

 この世界で、異変が起き始めている。

 街灯が突然消える。木が根元から折れる。空気が淀む。

 旅の中で感じた魔王の力が及ぶ時の感覚に、似ている。

 お前がゲームの世界で戦っていることと、関係があるかもしれない。

 気をつけてくれ。

 カイト』

 折りたたんで、机の引き出しに入れた。

(良明、早く気づいてくれ)


良明サイド

 その日の夜、宿屋の食堂で、俺たちは久しぶりにゆっくりと食事をした。

 依頼がない日は珍しい。マリアが「たまには休まないと体が持たない」と珍しく穏やかなことを言ったので、今日は一日オフになった。

「カイト、今日は飲むか?」

 レオが牛乳の入ったコップを差し出してきた。

「いや、俺はいい」

「なんだよ、それじゃあ背が伸びないし、骨が頑丈にならないぞ!」

 レオが豪快に笑いながら一人で飲み始めた。

(レオらしいな……)

 マリアが向かいの席で、静かにスープを飲んでいた。

 珍しく口数が少ない。

「マリア、どうした?」

「……別に。少し考え事」

「珍しいな」

「うるさいわね」

 いつも通りの返しだったが、目が少し遠かった。

(何かあったのか?)

 俺が様子を見ていると、イズが静かに口を開いた。

「カイトさん、最近……本当に変わりましたね」

「そうか?」

「はい。以前は……もっと、迷いがなかったというか。今は、何かをよく考えながら動いているように見えます」

(迷いがなかった。つまりゲームのカイトは直感で動くタイプだったのか)

「色々と、考えることが増えた」

「それは……悪いことではないと思います。カイトさんの指示が的確になって、私たちも助かっています」

 イズが微笑んだ。

 その顔が、また美紀子に重なる……いや、違う。

(美紀子が、イズに似ているんだ。こっちが本物だ)

「イズ、一つ聞いていいか?」

「はい、何ですか?」

「お前は……俺が変わったと思っても、ついてきてくれるのか?」

 イズは少し驚いた顔をして、それからにっこりと笑った。

「当たり前です。私はカイトさんの仲間ですから」

 その言葉が、胸に刺さった。

(俺はカイトじゃない。でも……)

「ありがとう」

 俺が素直にそう言うと、イズが少し目を丸くした。

「カイトさんが素直にお礼を言うなんて、珍しいですね」

「そうか?」

「はい。以前は照れてごまかしていましたから」

(カイトって照れ屋なのか。意外だ)

 レオが牛乳を飲みながら横から口を挟んだ。

「カイトが変わったのは分かってるけどな、俺は別にそれでいいと思ってるぞ。変わっても、お前はお前だからな」

 レオらしい、真っ直ぐな言葉だった。

「……レオ」

「なんだ、しんみりするな! 飲め飲め!」

 また牛乳を差し出してくる。

(しょうがないな)

 俺は苦笑いしながら、コップを押し返した。

「俺はいい。そんなに好きじゃないんだ」

「堅いこと言うな!」

 レオが笑いながら自分で飲み干した。

 マリアがふと口を開いた。

「ねえ、カイト」

「何だ?」

「あんた……本当に記憶が戻ってきてるの?」

 静かな、真剣な声だった。

 俺は少し固まった。

(マリアは……気づいてるのか?)

「どういう意味だ?」

「記憶が戻ってきてるなら、戦い方が変わるのは分かる。でも、なんかそれだけじゃない気がして。あんたの目が……以前と違う。別人みたいな目をしてる時がある」

 沈黙が落ちた。

 レオとイズも、静かにこちらを見ていた。

(マリア……鋭い。さすが攻撃魔法使いだけあって、観察眼も鋭いんだな)

 俺はゆっくりと口を開いた。

「……色々あって、変わったんだと思う。それだけだ」

 マリアはしばらく俺の顔を見つめた。

 そして、ため息をついた。

「……まあ、いいわ。今のカイトが信頼できる仲間なのは確かだから」

 それだけ言って、スープに視線を戻した。

(マリア……)

 俺は胸の奥で、静かに思った。

(ちゃんと元に戻ったら、絶対に説明する。カイトに代わって、ちゃんと謝る)

 食堂の窓の外で、夜風が木々を揺らしていた。

 穏やかな夜だった。

 しかし翌朝、宿屋の近くの井戸が、突然濁り始めた。

 前の日まで、透き通った水が出ていたのに。

(これは……)

 俺は井戸の水を見つめながら、嫌な予感を覚えた。

(ゲームにこんな場面、あったか?)

 ゲームの記憶を必死にひっくり返したが、思い当たらない。

(これは、ゲームの想定外の何かだ)

牛乳は健康に良いですよね。

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