第6話『魔法使いには近づけ!/良明へ』
良明サイド
次の依頼書を手に取った時、俺は少し自信が出てきていた。
ゴブリン退治は想定外の連続だったが、どうにか乗り越えた。カイトのメモのおかげで基本的な弱点情報は正確だったし、応用が利けば戦える。
(次は何だ……ウィザード系、か)
依頼書にはこう書かれていた。「街道に出没する闇の魔術師集団。旅人を襲い、金品を奪っている。討伐求む」。
(ウィザード系は近接攻撃で魔法を封じろ、とメモに書いてあったな)
朝食の席で、俺は作戦を考えた。
「今日の依頼、確認してるか?」
レオが卵料理を頬張りながら言った。
「ああ。魔術師系の盗賊だろ」
「そうだ。厄介だぞ。前にギルドの先輩冒険者が手こずったって話だ」
「魔法使いには近づかれたら終わりだからな」
マリアが腕を組んで言った。
「分かってるわよ。アタシも魔法使いだから、近接戦は苦手。でも、向こうも同じはずよ」
(そうだ。メモ通りだ。魔術師は近接戦が弱い。だから懐に入れば魔法を封じられる)
「作戦はこうだ」と俺は口を開いた。「レオが囮になって前に出る。マリアとイズは後方で支援。俺は横から回り込んで懐に入る」
「……カイト、随分と手際が良くなったな」
レオが感心したように眉を上げた。
「まあな。色々と考えてきた」
(カイトの返事メモのおかげでもあるけどな)
街道に着くと、すぐに見つかった。
黒いローブをまとった三人組が、岩陰に潜んでいる。
一人が俺たちに気づいて叫んだ。
「冒険者か! 邪魔をするな!」
即座に魔法陣が展開された。
真っ黒な炎が、こちらに向かって飛んでくる。
「散れ!」
俺は叫びながら横に跳んだ。
レオが盾を構えて炎を受け止める。マリアが反撃の炎を放つ。
(よし、作戦通りだ。マリアが注意を引いている間に俺が——)
俺は地面を低く走りながら、魔術師の一人に近づいた。
(懐に入れば魔法は使えない!)
「なっ——!」
魔術師が驚いた顔をした瞬間、俺は剣の柄で相手の腕を打った。
魔法陣がかき消える。
(効いた! メモ通りだ!)
「このっ——」
魔術師が後退しながら別の呪文を唱えようとした。
しかしその隙にイズの光魔法が炸裂して、魔術師は動きを止めた。
「ナイス、イズ!」
「はい!」
残りの二人もレオとマリアが対処している。
もみ合いが続いたが、数分後には三人全員を取り押さえることができた。
「……今日は完璧だったわね」
マリアが汗を拭いながら言った。どこか悔しそうだ。
「何が不満なんだよ」
「別に不満じゃないわよ! ただ……カイトが妙に頼もしくなってて、なんか癪なだけよ」
レオが豪快に笑った。
「それは褒め言葉だろ!」
(癪、か。まあ、ゲームの知識があるからな。でも……)
俺は取り押さえた魔術師たちを見ながら、ふと思った。
(今日は完璧すぎた。メモがなかったら、どうなっていたんだろう)
頼りにするのはいいが、メモはあくまで参考だ。
ゲームの知識が通じない場面は、必ず来る。
(俺自身がもっと強くならないといけないな)
宿屋に戻り、夕食を済ませてベッドに横になった。
天井を見つめながら、俺はため息をついた。
(カイト、お前は今頃何してるんだ?)
机の上に、何か紙が置かれているのが見えた。
(……あれ?)
俺は起き上がって、紙を手に取った。
見慣れない几帳面な文字が並んでいる。
『良明へ。メモを読んだ。助かった。お前の仲間は本当に良いヤツらだ。心配しなくていい。 カイト』
俺はしばらく、その紙を見つめた。
(カイト……)
たった数行。
でも、胸の奥がじんわりと温かくなった。
(お前が向こうでちゃんとやれてるなら、俺も頑張らないとな)
俺はメモを折りたたんで、大切に懐にしまった。
***
カイトサイド
良明が書いたメモを読み返した。
几帳面な文字で、丁寧に攻略情報が書かれている。
仲間の性格まで一言添えてある。
『レオは感情的になりやすいから、落ち着かせながら戦え。マリアは口は悪いが実力は本物だから信頼していい。イズは優しいから無理をさせるな。三人ともいいヤツだ』
(……良明)
お前は画面の向こうから、ずっと仲間たちを見ていたのか。
カイトは机に向かい、ペンを手に取った。
返事を書こう、と思った。
(良明は次に来た時、このメモを見るだろう。だから——)
カイトはゆっくりと文字を書き始めた。
『良明へ。
メモを読んだ。助かった。
お前の書いた通りだった。レオは感情的で、マリアは口が悪くて、イズは優しい。
でも三人とも、本当に良いヤツらだ。お前の言う通りだった。
一つ、報告がある。
この世界に、お前と似た者がいる。
お前の友人・恭介は気の良い男だ。それと——
お前のクラスに、イズによく似た顔の女の子がいる。
宮川美紀子、というらしい。穏やかで、優しい。イズとよく似ている。
思わず話しかけてしまった。迷惑だったなら、すまない。
あと、学校というところは思ったより面白かった。
数学とかいう学問は、魔法陣の計算と似ていて、少し分かった。
お前はあちらで、うまくやれているか?
仲間のことは、俺に任せておけ。
カイト』
書き終えて、カイトはペンを置いた。
折りたたんで、机の上に置く。
良明が次に来た時、必ず目に入る場所に。
(良明、お前は向こうでちゃんと俺の仲間と戦えているか?)
窓の外を見ると、見慣れない街の灯りが点りはじめていた。
異世界の夜は、今日も静かだった。




